36.田中要は編物をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
「くしゅんっ」
可愛いクシャミをしたのはダークエルフのPHIだ。
「噂されているのかも?」
隣にいたスケルトンは茶化すように言った。
しかしながら、たった1人のダークエルフにして、新米なのに最強のガイドAIファイが噂されていないと思う方に無理がある。
ここはVRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)仮想空間で遊べるゲームの中だ。そして、ドリームスケルトンランド、通称「監獄」と呼ばれているダンジョンの中である。
温かな草原の土地から、海のど真ん中に移転をした事により、海風が吹き荒ぶ過酷な環境へと変わってしまっていた。
リニューアルに伴い露出の多い服装に変更した事もあり、ファイはとても寒そうである。
ファイはダンジョンの案内役、人工知能AIキャラクターであるが、寒さに著しく弱かった。
ファンタジーにおいて露出は必須事項である。露出を下げずに温まるには、ヒートスケルトンフラッシュというアイテムを使う方法もあるが、24時間365日使い続ける訳にもいかない。
「待っていてくださいね」
そう言ってスケルトン男子カナメンは村へと走りだした。
このスケルトンは男子であるが、中身は女子の田中要である。スケルトンがプレイヤーキャラクターである時点で、このゲームに常識とか求めてはいけない。色々矛盾があってもツッコミを入れてはいけない。ファンタジーと3回唱えて気持ちを落ち着けよう。
カナメンが向かったのは村の工房。
このゲームはレベルという概念が無い。レベルが無い代わりに何でも覚えて出来るというのが特徴になっている。
ゲーム内で何かしらの行動をするとスキルポイントが手に入る。スキルポイントを消費してスキルである特技を覚えるのだが、スキルは行動により開放される。
つまり、攻撃を強くしたければ、沢山攻撃をしてスキルのロックを開放する。そして、スキルポイントを消費して覚える。
「スキルの開放」と「スキルポイントを消費して覚える」という2段階を達成すると特別な特技が使えるようになるという事なのだ。
ここで問題になるのは、ロックとポイントは別物であり、スキルポイントを集めたい場合、散歩しても良いという事である。全ての行動でポイントが貯まるのだ。
ジェネシスガーディアンズ仮想空間でライフ(生活)する事がゲームという訳だ。
レベルの概念は無いが、指定の場所のモンスターが簡単に倒せるならレベルが達しているというような言い方はする。
スキルの組合せは何でも良いが、レベル査定の基準を達しているとレベル2になったと判断される感じである。
そこで、カナメンであるが、このスケルトン実は強い。というか、持っているスキルポイントが異常な数なのだ。
骨しか倒さないという、スケルトンがスケルトンをスケルトンで倒す事ばかりしているので、戦闘に関するロックはそれほど開放されていない。なので、攻撃に関してはそんなに強くは無い。現状では。
どういう事かというと、ロックさえ開放できれば何処まででも強くなれる可能性を持っている。普通はポイントを集める方が大変なのだ。
何でポイントを物凄く持っているかというと、このスケルトン物作りが大好きで、ゲームなのに戦わず、独りでコツコツと地味な作業をし続けた結果である。
スケルトンを着飾る事が大好きな要は、生地作りや鋳造などの素材加工をほぼ覚えている。上位の加工のロックを開放するためには、下位の加工を覚えている必要があるのだが、全て習得済みの腕前だ。
簡単なものなら何処でも加工が出来るのだが、少し凝った物を作ろうという場合、村の工房に行った方が早くて安くて上手いのである。それで、カナメンは工房にやって来た。
ゲームなので現実世界で作るのと同じ時間がかかる訳では無い。時間短縮スキルを取れば一瞬で作る事も可能になる。
カナメンはデザインに悩みつつ、機織りの機械を操作していく。布の長さを微調整しながら、せっせと作ったのは薄手の真っ黒な布であった。
「プレゼント!」
そう言ってファイの首に巻いた布は、大判で黒色のストールだ。
肌を隠さず温まるには、太い血管が集まっている場所を温めるのが有効的なのだ。首に巻くストールならファンタジー世界に馴染みつつ温まる事が出来る。
「カナメンさんっ、ありがとうございます!」
頬ずりしながらファイは喜んでいる。もちろん生地の肌触りにも拘っている。チクチクは肌が痒くなるからダメです!
そして、拘りはもう一つ。黒色の下地に映える、白色の刺繍である。
前に来る位置にワンポイントで入っている刺繍の柄は、もちろんスケルトン! さりげなく主張し過ぎないを心掛けている。
「日常にスケルトン」をコンセプトに、現実世界でスケルトングッズを作っている要だからこそ出来る職人芸である。
ダークエルフの褐色の肌に、黒のストールがキマっている。
「それ温かそうですね! 売っていますか?」
1組のカップルが声を掛けてきた。
カナメンとファイは顔を合わせてニッコリとほほ笑む。
「少しお待ちいただければ、ありますよ!」
監獄ストールはドリームスケルトンランドの名物となった。
カップルで着用できるように、黒色の物と白色の物を2種類作った。白色の方は黒のスケルトン刺繍だ。
ストールは売れ続けて、ますます狩りをする時間が無くなったカナメンであったが、本人的に幸せそうなので良しである。
「捕まえたー!」
カナメンの足にフワフワな生物がぶつかる。毛玉は上を向くと、カナメンの足をよじ登りはじめた。
「マフランさんじゃないですか、どうしたんです?」
カナメンは胸元まで上がって来たマフランを抱きしめた。
マフランとは冬のエリアの住人である。
真っ白な毛並。目の上の内側に茶色の丸い模様。長丸な体にちょこんと付いている手足と肉球、長い垂れ耳を持つモコモコ生物だ。そして、色とりどりのマフラーをしているのが特徴となっている。
「マフラーはうちの特権だぞー!」
どうやら抗議しに来たらしいのだが、何とも可愛らしいので困ってしまう。
「マフラーじゃなくてストールなのですが……」
「巻いたらマフラーでしょ!」
首に巻くのがマフラーで、肩と首に巻くのがストールである。厚手の生地がマフラーで、薄手の生地がストールである。冬に使うのがマフラーで、全ての季節で使うのがストールである。
違いはあって無いようなものだが、ストールになると一気にお洒落感が増す。そこは少しこだわりたい所だ。
「僕の村のマフラーが売れなくなるの!」
本題はどうやら、こっちらしい。
「困りましたね……」
ファイの寒さ対策のための物ではあるが、お客さんにも好評なので、今更売らないという訳にもいかないのである。
マフランに黒のストールを巻いて遊んでみる。ワイルド可愛いである。
「そうだ! 可愛いとカッコイイは別物ですよ! 思いっきり可愛い方向に変更してみたらどうでしょうか」
カナメンはマフランを抱えたまま、村へと飛び出して行った。そして、出来上がったマフラーは肉球マークが愛らしく、マフラン村で売れまくる事になる。
しかしながら、この出来事が後に大変な事の始まりとなるとは、思いもしないカナメンであった……。
小話:村が独自のアイテムを製作したり販売できるのは、仮想世界の元になっている世界「ガーディアンズ~メモリーリトライバル~」で可能だったため、出来る設定になっているのでした。
恋骨は残り1話で2章完結になります! 3章は現実世界のお話が多くなる予定です。お楽しみに! 完結後は10日ぐらいお休みをいただいて、3章は3月上旬から始める予定です。評価や感想をいただきましたら急いで更新いたしますので、お寄せいただけると励みになります。




