34.田中要は説得をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
「ご同行お願いします」
そう言われたスケルトン。目の前にはオーク。その後ろにもオーク。
ここはニュードリームスケルトンランド。通称「監獄」と呼ばれるダンジョンの前だ。
話しかけようとしたスケルトンに対して、オークは人差し指を口の前で立てて静かにするように合図した。
大人しく従うスケルトン。前と後ろをオークに挟まれるようにして歩く。
仮想空間で遊べるゲームVRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)のプレイヤーキャラクターは「人間」「獣人」「スケルトン」の3種類だ。つまり、オークはNPC (ノンプレイヤーキャラクター)または、それを制御する人工知能AIが操作しているという事になる。
「カナメンさん、どこに行くんですか?」
連行されるスケルトンに声をかけてきたのは人間の美少女キャラクターだ。
「七味さん、少しお出かけしてきますね」
カナメンがそう言うと、七味は笑顔で返した。
「僕も行きます」
「それは困ります」
すかさず言葉を返すオーク。
「僕の方が先にカナメンさんと約束していたんですよ? 僕も一緒に行くのを拒むのでしたら、大声出しますよ?」
明るく可愛い美少女の笑顔は変わっていないのに、台詞次第で邪悪に見えるのが不思議だ。
「分かりました。では、ご一緒に来てください」
状況としては完全に何かをやらかした極悪スケルトンがオークに身柄を確保されている様子だ。その横の美少女はさしずめ、女刑事という所であろうか。
スケルトンが護送されたのはオーク村であった。村長の部屋へと通されると、目の前にはガイドAIのLAMBDAが待っていた。
「スケルトン王、お待ちしていました」
そう言ってラムダは頭を下げた。
「ラムダさん、どうしたんですか?」
カナメンが困惑の面持ちで聞く。
「我が村をリニューアルして頂きたいのです」
ラムダは過疎狩場の活性化をカナメンに要求した。
「単なるプレイヤーなので無理ですよ」
ラムダの言葉をカナメンが否定すると、周囲のオーク達が騒ぎ始めた。
「本当はゲームマスターなんだろ!」
「プレイヤーのふりをしてゲームの調整をしていると聞いたぞ!」
「ミミミ様が言っていたんだ!」
「お前の正体は分かっているんだ! スパイめ!」
口々に言葉を発する。
「あなた様の意見なら、ゲームマスターが飲んでくれるとお聞きしました。我が村をお救い下さい」
ラムダは深く頭を下げる。
「カナメンさんは本当にプレイヤーですよ。権限とかそういうのは無いですよ」
七味もスパイスケルトン説を否定するが、誰も信じてはくれない。
「願いを聞いて頂けないのであれば……」
ラムダが指を鳴らすと、天井から木の檻が落ちて来てカナメンと七味を閉じ込める。
「聞いていただけるまでここにいて頂きます」
スケルトン王、大ピンチである。
「寒かったら言って下さいね。お暇でしたらゲームとか持ってきますか?」
大ピンチだが緊張感は余り無いようだ。
「カナメンさん、こういうの久しぶりですね」
七味は少し頬を赤らめながら言った。
「こんなの初めてですよ……」
カナメンの困惑に動じる事無く、七味はこの状況を満喫している。
「2人きりでお話出来るって事ですよ! たまにはこういうのも良いと思います!」
こういうのが檻の中であるが、この美少女の感覚的には有りらしい。しかも、周りにはオークが沢山いるので、2人っきりという訳でも無いし。
檻の中でいちゃつくスケルトンと人間の美少女に、ドン引きなオーク村が更にざわつく。
「姫! 正義の王子が救いに来たよー!」
扉を蹴破って現れたのは、人間の青年キャラクター超高神聖ルシファライトであった。満面の笑みで元気いっぱいの登場である。
ルシファライトは木製の檻を掴むと、引きちぎった。檻の入り口を結んでいる縄を解くという文字は、彼の辞書には無い。
破壊した檻から七味を肩に担ぎ上げると、ルシファライトは扉へと歩き始める。
「え? カナメンさんは? 放してー!!! カナメンさーーーーーーん」
ルシファライトはカナメンを残して去って行く。
「助けて―!!!」
助けられている最中とは思えない七味の悲鳴が響いた。
「俺たちはスケルトン王だけいれば良いからいいんだけど……」
呆然とするオークを残して、姫だけ救出されていった。
「ご飯を食べにログアウトしてもいいですか?」
「どうぞ、どうぞ、戻って来るなら大丈夫ですよ」
残された方は相変わらずの緊張感の無さである。
「では、ちょっと行って来ますね」
カナメンはゲームをログアウトした。
現実世界に戻って来たカナメンこと田中要は、ゲームを遊ぶためのヘッドマウントディスプレイを外し、急いで七味こと皆川七見にメールを入れる。
『大丈夫なので、安心してください』
そして、冷蔵庫から納豆を取り出した。
「沢山食べといた方が良いかなぁ」
ご飯を食べてゲームに戻って来たカナメン。
壊れた檻は直っていて、沢山の本と毛布が用意してあった。『何かあったらお呼びください』というメモが置いてあり、監視もおらず気疲れしないように気を使ってくれているようだ。
待遇の良い監禁となっている。ログアウト出来る時点で監禁とも言えないのかもしれないが。
「カナメン、大丈夫か?」
声がした方を見ると、部屋の隅に置いてある壺の中から顔を出しているのは、ゲームマスターのTAUであった。壺入りスケルトンである。
「大丈夫ですよー、とっても良くして頂いているので」
タウは壺のフチに肘を付いて、頬杖を付く。
「ラムダは何だって?」
「狩場のリニューアルをしたいみたいです」
「初期の狩場はなぁ、何か変えたからプレイヤーが増えるって訳じゃないんだけどな」
「要望を聞く事って難しいのですか?」
「要望が1個で済めば良いが、状況が改善するまで出てくるだろうし……1つの村のを聞いたら他の村からも来るんだわ。それに、全部を活性化するのは無理なんだよ、プレイヤーのレベル移動によって状況なんてのはすぐに変わって来るし、仕様を変え続ける事はプレイヤーにとっての不満になっちまう」
「お前をここから助けてやりたいが、ゲームマスターがあんまり干渉出来ないからさ、何かあったらGMコールしろよ。そしたら、対応出来るから」
そう言ってタウは壺の中に消えていった。
「ほねっこ、23時になるぞ。ちゃんと寝るんだぞ」
タウと入れ替わりに入って来たラムダは、健康も気遣ってくれるらしい。
「明日は仕事があるので、今日はこれでログアウトしますね。明後日はお休みなので1日いられると思います」
閉じ込められている方も、この気遣いである。
「ただいまー!」
次の日、急いで仕事を終えたカナメンは真っ直ぐ家に帰ると、ご飯を食べ監禁に戻った。今日は徹夜で監禁されるために、唐揚げとご飯を沢山食べて来た。
「おかえりなさい」
新しい本を選んでいたラムダが迎える。
「ラムダさんこの本、面白かったです!」
カナメンは『オーク戦記~炎の章~』を手に取って見せる。
「それは良かった。今時の子が、どういうのが好きか分からなくてな……色々工夫はしてみてはいるんだが」
ラムダは部屋の中を見回した。そこにはパッチワークの壁飾りやカントリー風の家具などが置かれている。
「何だか本のお話と……雰囲気がずいぶん違いますね」
「俺達みたいな地味なのは、物語のままじゃ飽きられちまう。エルフ村には懐かしんで行くのに……オーク村に来る奴はいねぇ。常に新しい事をやらなきゃ忘れられていく存在なんだよ」
ラムダは残念そうに本を見つめた。
「そんな事無いです!!!」
カナメンは泣きそうな声で言った。
「あなたは間違っている……私達には私達の生き方があるんです。公にしたい気持ちも分かります。もっと沢山の人に認めて欲しいって思います。だけど、あなた方が大切にしてきたのって、大衆に寄せて個性を失う事ですか? 違います! 少人数でも温かく深く愛されてきたのを忘れてしまったらダメなんです」
それはスケルトン好きである、田中要の叫びでもあった。
「あなたがオーク村の村長を引き受けた時を思い出してください。惹かれた所があるはずです。それは無くしちゃダメですよ。あなたが一番のファンじゃなきゃダメなんです」
スケルトンは泣いていた。そして、オークも泣いていた。それは、努力し続けて来た者同士だから分かる涙だった。
好きだからこそ辛くても続けてこれた。だけど迷う。辞め時をいつも問う。後悔をしたくないから迷うのだ。
だけどきっと、後悔しないなんて無理なんだ。命には限りがある。時は永遠じゃ無い。何事もいつか辞めなくちゃいけない。だから、続けた事を後悔するのではなく、後悔をしないと思う方法で進んで、バカをやったけどそれでも満足と、笑って後悔をしたら良いと思うのです。
「悪かったな、ほねっこ……もう一度頑張ってみるか」
ラムダは檻の扉を開いた。
共鳴するスケルトンとオークの耳に、何かを引きずる不穏な音が聞こえてきた。
「村長! 殴り込みです!」
慌てて外に出たラムダとカナメンの目に映ったのは、黒いオーラを纏い、虚ろな目で大鎌を引きずって歩く七味であった。美少女どころか小悪魔である。
「七味さん……デスナイト化してる」
『七味のデスナイト化を説明しよう。皆川七見は24時間以上睡眠が取れなかった場合、デスナイトと呼ばれる状態に突入する。仕事の場合は、物凄い速度で仕事をこなす事が可能になるのだが、ゲーム内の場合は誰でも容赦なく斬りつけるという死神状態になってしまうのだ』
「皆さん! 目を逸らすと斬られます! 行動はあくまでゆっくりと! 視線を向けたままゆっくりと後ろに下がってください!」
カナメンの指示に従い、オーク村の住人は恐怖に震えながら七味から逃げる。
「七味さん、こっちですよ」
カナメンはゆっくりと両手を上げる。
「手のひらに文字が書いてあります。近づけば近づくほど良く見えますよ、何と書いてあるか読めますか?」
七味はゆっくりとカナメンに近づいていく。
「もっと近づくと読めますよ……」
カナメンは七味の目に手の平を当てると、まぶたを撫でるように手を下に降ろす。すると、七味は力を失ったかのようにゆっくりと倒れた。
「枕と毛布をお願いします。1時間ぐらい寝ると元に戻りますので」
カナメンに抱きかかえられながら、七味は寝息をたてて幸せそうに眠っている。
「スケルトンって除霊も出来るんだな」
ラムダの言葉に、苦笑いするしかないカナメンであった。
小話:要が食べている「唐揚げ」は、「鶏の唐揚げ」ではなく「大豆の唐揚げ」だったりします。その理由はGGG時代に生物の絶滅があったからとなっています。
GGG→ナインナイトムーンレイズ→ボディザサバイバル→恋骨と時代がつながっております。
要たちが終末前のような生活をしている理由は、ボディザサバイバルで明らかにする予定です。




