32.田中要は移転をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
「スケルトン王とは、あなた様の事でよろしいのでしょうか?」
声をかけられたスケルトンは嬉しそうに答えた。
「はい! スケルトン王です!」
振り向いた場所には1人のオーク。1人……1匹……1人のオーク。
「わたくし、オーク村の村長LAMBDAと申します」
丁寧に頭を下げるオーク。
「私はカナメンと申します」
更に丁寧に頭を下げるスケルトン。
ドリームスケルトンランドで繰り広げられる頭の下げ合いは穏やかに続く。
VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)は仮想空間で遊べるゲームだ。オークとスケルトンが仲良く頭を下げ合っていても仮想世界でファンタジーなので特に問題にはならない。ここが、ガラス張りの100階建てダンジョンで、モンスターが全てスケルトンでも問題は無い。だって、ファンタジーだもん。
もっと言えば、隣に巨乳エルフもいるが、ファンタジーだもん。良いよね! 万歳! ファンタジー!
「こちらのダンジョンを畳んで欲しいのです」
オークの村長ラムダがそう言うまでの穏やかファンタジー。
「えええええええ?」
カナメンは声を上げた。友好的からの好戦的ギャップである。
カナメンはプレイヤーである。操作をするのは田中要という女子。キャラクターはスケルトン男子であるが、中身は女子である。こっちのギャップの方が酷いが、要の夢の国に対する廃国要望にはギャップが勝って? 負けて? いようが応じる訳にはいかない。
「あの、どういう事なのでしょうか?」
「この場所はリニューアルすると聞いた。リニューアルでは無く廃止にして欲しい」
カナメンの問いに、ラムダは改めて廃国を求めて頭を下げた。
「リニューアルのお話はどなたから……」
「ミミミ様が教えて下さったのです」
噂のある所にギルド攻機結戦のミミミ有りである。ミミミの広める噂話によって、カナメンは今日も苦労をするのである。
「私の夢の国なのです! 無くしたくないのです、ごめんなさい」
カナメンは祈るような気持ちで頭を下げた。
「移転でも良いのですよ。とにかく、この場所から無くなってくれれば……。自分も村長という立場です。辛いお気持ちは分かるつもりです。しかし、突然出来たこのダンジョンが、我が村に迷惑をかけている事を知って身を引いて欲しいのです」
ラムダが言うには、ドリームスケルトンランドから発せられる光によって、オーク村にやって来たプレイヤーは、すぐさま立ち去ってしまうとの事だった。
「検討お願いします」
そう言い残してラムダは帰って行った。
ゲームマスターに相談をすると、今日も行方不明なTAUの代わりに来てくれたのは、タウの同僚であるゲームマスターEPSILONだった。イプシロンもスケルトンキャラだ。
「今回はイベントで急に出来た狩場ってのがあるけどさ、ガイドAI同士の揉め事は、ガイドAI同士で解決して欲しい訳よ。ゲームマスターなりには色々頑張っているつもりではあるんだけどねー。要望を聞いていたら際限が無いのよね。狩場研修だと思って1日行ってきて良いよー」
そう言って、イプシロンは気だるそうに頬杖をつく。
「店番よろしくお願いします」
ドリームスケルトンランドのガイドAIエルフ女子のPHIが頭を下げた。
イプシロンは誰に言うとでも無く独り言のように空に向かって呟いた。
「タウを良いように利用するの止めて欲しいんだよねー。AIは元々1つだから先輩も後輩も無いのに、タウは学ぶ物があると思う相手に先輩って言うんだよ。みんなが可愛がるのも何となくわかるんだけどさ、頼みやすいからって、本来やるべきこと以外を引き受けすぎだと思うんだよねー」
ドリームスケルトンランドの外に出ると、穏やかな風と青い空が広がっていた。
「研修の時にもらった資料によると、オーク村はすぐ近くですね」
「じゃぁ、オーク村からまわりましょうか」
カナメンとファイはオーク村に向かって歩き出した。
「ところで、カナメンさんその袋何ですか?」
カナメンの両手には2つの大きな袋が握られている。
「手土産です。中身はスカルフラッシュ詰め合わせになっています!」
袋の中にはラッピングされた箱がびっしりと詰まっていた。箱の中身は光る頭蓋骨が整然と並ぶおすすめセットだ。包装紙で包んだ箱にはリボンまでしてある丁寧さである。
オーク村は小さな狩場だ。低レベル向きに設定されているので、ゲームを始めたばかりの冒険者なら、みんなが一度は訪れる場所となっている。
「これ、つまらないものですが」
カナメンはオーク村に着くと、ラムダに手土産を差し出した。
「ご丁寧にどうもありがとうございます」
ラムダは両手で受け取ると祭壇に供えた。見た目のオークとはかけ離れた、相変わらずの低姿勢だ。
「移転の件はどうにかなりそうですか?」
「ここが最初なので、これから各村をまわる予定なのです」
「そうですか……村をご案内しますね」
冒険者がおらず、閑散とした村の中を歩く。確かに過疎っているようだ。
村から見えるダンジョンは確かにでかい。そして、ガラスが乱反射して迫力を増している。
「夜は夜で、中のスケルトンが浮かび上がって良く見えるんですよ。怖いぐらいに……」
そう言ってラムダは溜息をついた。
移転やむなしの状況に、カナメンとファイも溜息をつくのであった。
「いらっしゃいませ、エルフ村にようこそ」
エルフ村を訪れた2人の目の前には、片耳に10個ずつのピアスを付けた垂れ耳エルフが、透き通るような声で可愛いらしく佇んでいた。信じられないが、MUだった。どうやらちゃんと仕事はしているらしい。
「スケルトンに偽エルフかよ、何しに来た。また迷惑かけるつもりかよ」
カナメンとファイの姿を確認すると、いつも通りのミューになってしまったが。
「これ、つまらないものですが」
スカルフラッシュ詰め合わせを手渡す。それを受け取ったミューは速攻、後ろで燃える聖なる火に手土産を投げ捨てた。
「人の土地に入って来てんじゃねーよ。穢れるでしょが」
ミューの後ろで燃え上がる手土産。
「早く要件言ってくれる? 忙しいんで!」
ミューの後ろで膨らむ手土産。
「ボンッ」と最初の爆発音が鳴ったのを皮切りに、スカルフラッシュが次々と爆発する。
弾けるスカルフラッシュ。火の玉が部屋中に飛び散る。壁に当たり跳ね返る火の玉がミューに襲い掛かった。
「お前ら! 帰れー!!!」
ミューの怒鳴り声にカナメンとファイは慌ててエルフ村を飛び出した。
「びっくりしたー!」
「びっくりしましたね!」
二人は地面にへたり込むと笑い出した。
「ふふふっ、ちょっとスッキリしました」
「だねっ」
「スカルフラッシュって爆発するって知らなかったです」
「私も! 火に入れないように気を付けないとだね」
スケルトンとエルフの笑い声が、青空に吸い込まれた。
その後の村回りは順調に進んだが、残念ながら良い返事は貰えないままだった。
「透けてなければ、協力してやりたいが」
「この前トラブルがあったダンジョンだろ? うちはダメだよ。治安が悪くなる」
透明だとか、100階もあって目立ちすぎるとか、スケルトンだらけだとか、イメージが悪いとか、欠点だらけのダンジョンを受け入れてくれる場所を見付けるのは中々難しそうだ。
「あとは……寒い所か、暑い所しか無いですね」
ファイは眉間にシワを寄せながら地図を睨んだ。
「ここからが冬のゾーンですね」
その目の前の地面は緑の草と白い雪がくっきりと分かれている。境目に足を踏み入れるファイ。
カナメンの視界からファイが消えた瞬間。ハイヒールは雪空へと舞った。
「ファイ! 大丈夫!?」
思いっきり氷で滑り、後ろに転倒したファイは後頭部を強打して目を回している。雪道にハイヒール、ダメ! 絶対!
「新種みたいです! エスキモースケルトン!」
カナメンは嬉しそうに言って、ポーズを取った。その姿は、モコモコの毛が付いている帽子と上着が一緒になっているロングコート。足元は滑らないようにしっかりとしたブーツ。厚手の手袋と完全防備である。
「薄着なのか厚着なのかわからないですね」
毛で包まれたスケルトンを見つめながら、同様の格好をしたエルフが言った。
その後、雪山に突入した2人の様子はというと……。
「眼鏡が凍って前が見えませーん」
「眼鏡無くても見えるんですから、仕舞っておいてください」
だとか。
「カナメンさん……眠気が……」
「ダメです! 眠ったら死にますよ! スケルトンフラッシュで温まりましょう」
「美味しそうなお饅頭ですね」
「違いますよ! ファイさんしっかりして!!!」
だとか。
「新スキル来ました! ホットスケルトンフラッシュ!」
「温かいですぅ」
だとか。です!!!
元気なスケルトンと凍えるエルフが到着したのはマフラン村。
「マフラン」という種族が暮らしている村だ。
マフランは真っ白でモコモコの毛並。長丸な体に手足がちょこんと付いており、長い垂れ耳が揺れている。もちろん肉球も欠かせないが、極めつけは黒柴犬のような目の上の内側にある茶色の丸い模様である。そして、全員が色とりどりのマフラーをしている。
「持って帰りたい!」
カナメンは一番大きいマフランを後ろから抱きしめた。
「放せー! 僕は村長だぞー!」
村長を捕獲した。
「ドリームスケルトンランドから参りました、カナメンと申します。つまらないものですが」
慌てて放して、手土産を渡す。
「ありがとー! んで、なにー?」
ファイの方を見ると、震えながら手でバツ印を作っている。
「えーっと、今日はご挨拶だけとなります」
「そうなんだー、遠くからありがとうねー」
「よろしければ、こちらもどうぞ」
そう言ってカナメンはホットスケルトンフラッシュを渡した。
「使用すると温かいですので、ご利用ください」
早速使った村長は嬉しそうに頬ずりしている。
「僕も欲しい」
いつの間にかカナメンの前にはマフランの列が出来ていた。ホットスケルトンフラッシュ大好評である。
「カナメンさん、次は、南国、いきますよ、よ、よ」
ファイまでも列に並んでいる。
雪国を脱出したカナメンとファイは、南国ヒートモフ村を目指す。
張り切って水着姿になるファイ。そして、スケルトンは水に浮かないので浮き輪を装着したカナメン。
2人の前に広がるのは、海……なんだけど火の海。
「火山って何を着れば良いのでしょう……」
呆然とするファイ。
「あっ! 新スキル来ました!」
「まさか!」
「アイススケルトンフラッシュ!!!」
冷え冷えのスケルトンフラッシュが出来上がっていた。
「笑いすぎで……お腹が痛いですっ」
何だかんだで楽しそうなカナメンとファイであった。
ヒートモフ村に着くと、そこには赤くてモコモコサラサラな毛並みに、白色の眉毛っぽい模様が付いた垂れ耳の生物がいた。
「あれ? 色違いマフランさん?」
「マフと一緒にするな! 毛並みが違うんだよ」
「ホントだ、冬毛と夏毛くらい違う!」
ヒートモフはカナメンに撫でまわされながら、気持ちよさそうに抗議した。毛並みの違いがどれほどなのかは、ご想像にお任せいたします。
結局、全ての村に移転を断られてしまったカナメンとファイ。
へとへとに疲れてドリームスケルトンランドに帰って来ると、七味と赤色53号の2人が迎えてくれた。
「日替わりで移動するか、もう空に浮かすしかないかもしれませんね」
七味はお手上げというように言った。
「空からスケルトンが落ちてくるやつは、色々あって無理だな。となると、あの場所しか無いか……」
赤色が珍しく真面目な顔をして指さした場所は……何も無い海の上だった。
海に作られた小さな島に、ドリームスケルトンランドは移動する事になる。何も遮る物が無い海上に輝く、100階建ての建物は灯台を思わせた。
海の上のドリームスケルトンランドを見た赤色が珍しく悩んだ様子を見せて言った。
「これは、あれだな……脱獄不可能って感じだな」
そして、かつて「骨壺」と呼ばれたダンジョンに「監獄」という新しい呼び名が付けられる事になるのだった。
ブックマークありがとうございました! お楽しみいただけたら幸いです。恋するスケルトンはサクサク読める1話完結の短編集です。評価や感想をいただきましたら急いで更新いたしますので、お寄せいただけると励みになります。




