31.田中要は変更をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
「あのさーやめてくれる?」
そう言ったのはエルフの少女だった。
VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)の仮想空間。
ガラス張りの100階建てダンジョン、ドリームスケルトンランドのカウンターで、そのエルフ少女は長身のエルフ女子を見上げながら言った。
GGLでプレイヤーが選べる種族は「人間」「獣人」「スケルトン」の3種類である。つまり、このエルフはプレイヤーでは無い。
何でエルフでは無く、スケルトンがプレイ用キャラなのかというのはGGL7不思議の内の1つで、残り6つは思い付かないので後で書こうと思う。
「どちら様でいらっしゃいますか?」
長身のエルフ女子、PHIは困り顔で聞いた。
「私の事知らないの??? エルフなのに???」
非常に高圧的な態度のエルフ少女は、呆れ顔で言った。
この少女、高圧的なのは態度だけでは無い。片耳に10個ずつ、合計20個ものピアスを付けている。ピアスの重さで垂れ耳エルフという貴重な存在となっている。垂れ耳の可愛さを相殺するだけのイカツイピアスたちは、エルフ少女が動く度に音を奏でる。
「そっちから名乗りなさいよ」
他人のフィールドに来ての、この態度である。
「ファイと申します」
ファイは丁寧に頭を下げた。
「エルフ村の超有名優秀なエルフ、MUでーす」
ミューと名乗ったエルフは、頭を下げずに言った。
長い金色の髪、ミニスカートと、それを覆う優美な布の服、ロングブーツ。申し分の無い清純派エルフなのに、中身のAIの性格が伴っていないため、すっかりワイルドに改造されている。
「エルフ辞めてくんない? こっちに苦情が来るんだよね、迷惑なんだけど」
睨みをきかせたエルフは、おもむろにファイの乳を両手で揉み上げる。
「エルフのくせに乳盛り込みやがって……イメージってもんがあるんだよ、エルフは貧乳って相場があるっつの」
ミューに言われると説得力が皆無だが、エルフの貧乳は良いというのには納得だ。
「何か言えよ根暗。こんなのがエルフとかマジ迷惑」
ファイに迷惑をかけているミューの方がマジ迷惑なのだが、口答え出来ず、顔を真っ赤にしながらファイは俯くしか出来ない。
「あの……止めてくださいませんか」
そう言ったのはファイでは無く、隣でオロオロするスケルトン。
「は? AI同士の喧嘩に口挟んでんじゃねーよ」
喧嘩というにはどうにも滑稽だが、カナメンとしてはファイを守りたい。
カナメンは田中要が操作するプレイヤーキャラクターだ。スケルトン男子ではあるが、中身は女子なので、拳で片を付けようという発想にはならない。向こうが拳で来るなら話は別だが。
「ってか、あんたこれ作ったゲームマスター?」
「作ったのは私という事になるのかもしれませんが、ゲームマスターでは無いです」
「ふぅーん。ゲームマスターに媚び売って作らせたプレイヤーって訳か」
媚びは売っていないが、売られた喧嘩を買って手に入れたとは言えるかもしれない。
「これもあんたの指示?」
腕組みをしながら、頭を傾げるようにしてファイを指す。
「はい。エルフが好きなので」
「好きなのは嬉しいんだけどさ……エルフじゃなきゃ、こっちは問題無いのよ、うん」
カナメンの言葉に少し照れたのか、態度が柔らかくなるミュー。
「どういう種族だったら大丈夫でしょうか?」
「どういうってなぁ……んー、ダークエルフとか?」
「ダークエルフも良いですね!」
「白はエルフ村のエルフと勘違いされるからさ、赤でも緑でも良いんだよ色が違えば」
赤いエルフに、緑のエルフ……いや、何でも無いです。
「勝手に村から出てくるなよ、ミュー」
その声はゲームマスターのTAUだった。
「お前! ゲームマスター呼ぶとか卑怯だぞ!」
ミューはファイに食って掛かる。
「エルフは俺が許可したんだよ。あっちとこっちは違うって言っておけば良いだろ」
「そもそもエルフが骨の手下ってのが納得いかねーんだよ! こっちに相談も無くエルフをこんな所に置く方が悪い」
「置いちまったんだから仕方が無いだろ」
「リニューアルするって聞いた! だったら、こいつもリニューアルしろ!」
「誰だよ……その話漏らしたの」
「ミミミって奴が言ってた!」
ミューは一歩も譲る気は無さそうだ。
「ミミミさん……エルフ村で一体何を話したんでしょう……」
カナメンは肩を落とした。
ミミミとはギルド「攻機結戦」の『影の』リーダーである。ミミミの盛った話によって、前にも迷惑をかけられている。
「ダークエルフで譲歩するからさー、こいつを闇堕ちさせてよー」
ミューは可愛らしく泣き真似をした。多分絶対、泣いてはいない。
「そんな事言われてもなぁ。ファイはどうなんだ? ダークエルフでも良いのか?」
タウの言葉に困った様子を見せたファイは
「聞いてきます!」
そう言って走って行った。
「聞くって……誰に……」
突然やって来たファイに戸惑う人物に、ファイは息を切らしながら聞いた。
「エルフとダークエルフ、どっちがお好みですか?」
「どっちも好きでは無いが……」
「どっちかと言ったらで良いんです!」
「じゃぁ……ダークエルフ?」
「ありがとうございます!」
そう言うとファイは赤色53号を残して走って行った。
ドリームスケルトンランドに戻って来たファイは満面の笑みで言った。
「ダークエルフOKです!!!」
こうして1人のエルフが闇に堕ちた。誰かの一言で……。
恋するスケルトンはサクサク読める1話完結の短編集です。評価や感想をいただきましたら急いで更新いたしますので、お寄せいただけると励みになります。




