29.田中要は決闘をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
「お前ら出てって」
その声は唐突に発せられた。
声の主は、新興ギルド「メイビークラウン」通称メイクラのリーダーのものだった。
「ここ、俺らのギルド拠点にするわ」
数人の男たちがドリームスケルトンランドに入って来た。
リーダーの名は「デアリング ダークネス」Daring(図太い)Darkness(闇)略してDD。
陰では「ダーリン」と呼ばれている。デアリングではなくダーリンと呼ぶと怒るので、あくまでも陰で、ではあるが。これが陰口というもので……はい、すみません。
「趣味悪っ」
DDは受付カウンターに置かれた、スカルフラッシュの入った箱を投げ捨てた。そして、床に散らばったスカルフラッシュを踏む。音を立て砕けながら、悲し気に光る頭蓋骨。
カナメンの手が強く握られた。魔王討伐に屈する訳にはいかない。しかし、DDは人間のキャラクターではあるが、筋肉がもりもりで殴るのは手が痛そうなのだ。
そして、DDは七味に近づくと、容赦なく頬をひっぱたたいた。
「お前も悪趣味」
七味は飛ばされ、床に体ごと投げ出される。美少女の頬が赤く痛々しく腫れている。
カナメンは耐えられなくなり、外へと走り出した。他人と争う事をしてこなかった人間が出来る事は、耐えるか逃げるかだ。
「カナメンさんを傷つけた事。後悔させてやる」
怒りの目で七味は立ち上がった。拳を強く振るう。が、華奢な美少女の腕でDDにダメージが出せるとは思えなかった。案の定、拳は受け止められた。そして、七味の腹にDDの攻撃が入る。
「パーン」と音を立てて、光が散った。しかし、七味では無く、DDが痛みに呻き声を上げた。
七味は攻撃型ではない。攻撃や回避に特化した人間を相手にするには、防御を捨て、自らを囮にして相手に近づく必要がある。
DDの拳にはホーリームーブメントの魔法陣が描かれていた。
「ホーリー ムーブメント」それは、回復特化型の七味の魔法だ。魔法陣の上を通った者の体力を回復させる魔法であり、そして、魔法陣の裏側でホーリーアタックという攻撃が出来る。
ほとんどの者は、指定した位置に魔法陣を置くだけしか出来ないが、七味は魔法陣の位置を動かす事が可能だった。
「ホーリームーブメント!」
七味の詠唱と共に、魔法陣は地面に描かれ、DDの体の上を駆け上がる。それに合わせるように七味は拳を振るった。魔法陣に拳は叩きこまれ、光を発した。
七味には回復を、DDには攻撃をもたらす。腕力の無い七味の攻撃を魔法で補う、表裏一体の魔法なのだ。
七味の口の端から血が垂れた。回復するとはいえ、ダメージと痛みはある。打たせて打つ。それは、いつまでも続けられるものでは無かった。
「待て!!! 悪党ども」
骨壺 (ドリームスケルトンランド)の入り口で声がした。
そこにはスケルトンがいた。いや、スケルトンらしき者がいた。仮面をしているが、どう見てもスケルトン。
「カナメンさん!」
七味は叫んだ。
「私はカナメンでは無い。正義の味方、ミスターボーンだ!」
その男はミスターボーンと名乗った。無理があるけれども。
カナメンのようでカナメンでは無い、ミスターボーンは剣をDDに向けた。
「お相手願う」
その手には針のような剣。頭には大きな羽根の付いた幅広の帽子。騎士団を思わせるマントと服。膝まで高さのあるブーツ。目の部分が開いていて、顔を半分覆う仮面のアイマスク。どれをとってもカッコいい。田中要のお気に入り衣装だ。
「恰好だけは一人前だな、腰抜け骨野郎」
抜けているのは腰なのか肉なのかわからないが、DDは剣を握った。
光の線が宙を舞い、カナ……ミスターボーンの剣がDDの肩に刺さった。連続で剣は突き立てられる。
『刺繍を刻む繊細な手付き! 狙った一点を確実に打つ。間違うと糸を解くのがキツイ! 慎重に、そして正確に、時には大胆に、刺すんだ!』
「スケルトン カッター!」
ミスターボーンの剣は曲線を描き、しなる。
『フィギュアを作る時の曲線を意識するんだ。つながりを意識した設計と全体のバランスを見る目! 骨を折らずに削る! ナイフの手付きを思い出せ!』
「スケルトン ニードル!」
剣はDDの爪の間を狙い始めた。
『ここを刺すと痛い! 思いっきり刺すと痛い! それは10分針を持てなくなるほどに、精神に刺さる!』
普段骨ばかりを倒しているが故に、二足歩行である人型の弱点は知っている。
落ち着くんだ。肉の中はいつものスケルトンだ。
「肉を透かして、骨を断つ!」
対人戦において重要なのは、いかに相手の戦意を喪失させるかだ。
永遠の死というものが無いVRMMOの世界。最大の敵は恐怖! その恐怖を作り出せる者が最強なのだ。
ここに弱肉強食の頂点に立つ、PVP最強のスケルトンが誕生した。
DDが雄叫びを上げた。体はみるみるうちに獣へと変化する。
人間だと思っていたキャラクターは獣人だったのだ。
目の前に現れたのは巨大な熊。髪の毛立ち上げまくっていたDDは髪の毛に耳が隠れていたのだ。意図的なのか、そうで無いのかは定かではない。だって、髪の毛立てると盛れるじゃーん。
カナメンではなくて……ミスターボーンから絶望の声が漏れる。
「くそっ、熊の骨格は分からない」
人型に対して最強のミスターボーンだったが、動物までは把握していなかったのだ。あくまでスケルトンが好きなのだ。骨が全部好きなのでは無いのだ。
DDの爪がミスターボーンの腕を掠める。
『痛いっ。だが、足の小指をぶつけてしまった時の痛みと比べたら……まだまだいける。いくら強靭な肉体を持っていても、神経までは鍛えられないはず。骨の間の神経を刺すんだ!』
骨の稼働範囲に熟知しているカナメンは攻撃を避けるのに特化していた。致命傷を避けつつ、骨と骨の間を探していく。
「がぁっ」
肘の神経を刺されたDDが呻き声を上げた。
「ここかああああ! スケルトン ニードーール!!!」
ミスターボーンの腕は高速で動き、針のように細い剣先がDDの神経を抉った。
熊は床を転げ回る。DDは堪らず獣化を解いてしまった。
勝負あり! だ。
その時だった、ホネタウロスが動いたのは。
「姫! 助けに来たよ!」
超高神聖ルシファライトは満面の笑みで、ドリームスケルトンランドの上の階から降りて来た。
「あれー? 姫どこー? 姫のためにホネタウロス動かしたよー?」
そう言うと、ルシファライトはホネタウロスに殴られ光になった。体力値0、即死である。
それを見たギルド「メイビークラウン」の者は、DDを含め全員が逃げ出した。
「どうするのこれ!!!」
小声で叫ぶ七味。
「ログアウト出来ない……」
何度もゲームをログアウトしようとしたカナメン……ミスターボーン……もういいや、カナメンは絶望の声を上げた。
受付嬢PHIの受付カウンターの後ろに隠れながら、七味とカナメンは何とか生き残っていた。
レイド「ホネタウロス」が稼働したため、ドリームスケルトンランドはログアウト禁止エリアに変わってしまったのだ。
死んで復活の神殿に戻っても良いのだが、ホネタウロスをこのままにしておいたら、ドリームスケルトンランドに益々お客さんが来なくなる。
既に来客数0に近いのだから、1が0になっても大した差は無さそうだが、悪評が立って取り壊しになる可能性だって無い訳じゃない。それは何としても避けたい。
「ホネタウロス動かすのって、1時間以内に全種類の骨を倒す事だよね!?」
涙目の七味。
「100種類倒したんですね。凄いけど……凄い迷惑」
小さく縮こまって隠れるカナメン。
「あの……お困りです?」
受付に立ったままのファイが聞いた。案内役はホネタウロスに攻撃されないようだ。
二人は激しく頭を縦に振って意思表示をする。
「少々お待ちいただけますか?」
ファイはそう言うと、胸の谷間に手を突っ込んだ。出て来たのは携帯電話。そして、どこかへと電話をかける。
「ファイと申します。はい。はい。そうです。骨壺の。はい。あのですね、受付AIというのはどの程度の権限があるのでしょうか? はい。そうですか。はい。プレイヤーを傷つけなければ大丈夫。はい。この場所の中なら何やっても良いと。はいわかりました。ありがとうございます」
電話を切ると、しゃがみ込んで七味とカナメンに言った。
「スケルトンフラッシュを作って、それにホーリームーブメントとホーリープロテクトをかけていただけますか?」
そして、胸の谷間から箱を取り出した。谷間とは何でも入る便利なものらしい。
ファイは立ち上がると空に向かって声を発した。
「申請。無反動砲TTS1006式6連グレネードランチャー、球体設置型砲弾カートリッジ2箱」
『許可されました』
機械音声と共に、ファイが空に向けた右手の上に銃が発現する。そして、左手には箱が2つ重なって現れた。
銃をカウンターに置くと、しゃがみ込んでカナメンと七味の目の前に箱を置く。フタを開くと円柱に爪が付いた物が綺麗に12個並んで入っていた。
ホーリースケルトンフラッシュを爪の部分に取り付けると、指示を出す。
「これを6個ずつ作って、カウンターにお願いします」
ファイは立ち上がるとグレネードランチャーを持ち上げた。
『ロック解除、シリンダースイングアウト、シリンダー回転、カートリッジ6設置、シリンダースイングイン、ロック』
慣れた手つきで銃をセットしていく。
銃をカウンターに置き、眼鏡を外すと、胸の谷間に入れた。
銃を持ち上げ右肩に当てると、左手で前のハンドルを握り、右手を後ろのトリガーに当てる。
「申請。ワールド干渉」
『PHIのワールド干渉申請が承認されました』
「何があっても動かないでくださいね」
ファイはそう言うと安全装置を解除した。
トリガーが引かれると「パスンッ」という軽快な音を立てて、銃は発射された。シリンダーが回転し次の弾丸が装填される。
発射されたホーリースケルトンフラッシュの弾丸はホネタウロスを目掛けて飛んで行く。
激しい炸裂音をあげて、弾丸はホネタウロスの頭の角にヒットした。
ホネタウロスはスケルトンに2本の角が生えたレイドボスだ。新しく出来たばかりのため、弱点は現在まだ解明されていない。となると、特徴的な部位もしくは稼働部分を破壊するのが有効であろう。
光と煙が広がった中から現れた頭の角には変化が見られなかった。かなり角は硬いようだ。
ファイの銃から2発目が発射される。今度は腕の関節に向かって弾丸が飛ぶ。
ホネタウロスは大きく手を振り、弾丸を叩き落した。そして、ファイを見据える。目の前のエルフを敵と認識したのだ。
近づくために足を踏み出す。
ファイの3発目は、後ろ側の足を狙った。それもホネタウロスは手で叩き落す。
かなり動体視力が良い事が分かる。
4発目が発射されたすぐ後に、5発目も発射される。手のひらを狙った先発の弾丸が手を弾き、露わになった手首を狙った次の弾丸は、手首にヒットした。
左手はその衝撃で関節から吹き飛んだ。
バランスを崩して右手を床についたホネタウロスを6発目が狙う。
左足の股関節付近に6発目がヒットする。ホネタウロスは体を回転させられ、仰向けに転がった。
「弾丸お願いします」
ファイの合図でカナメンと七味は、爪の部分にホーリースケルトンフラッシュをセットした弾丸6個をカウンターに並べていく。
ファイはグレネードランチャーのシリンダーを横にスライドさせると、空になったカートリッジを取り外ずす。床に空薬莢が散らばり、心地よい音を鳴らした。
カウンターに並べられた新しいカートリッジを素早く詰め込み、セットしていく。そして、体を起こしたホネタウロスを確認するとファイは言った。
「連射でいきます。次の用意をお願いします」
カナメンと七味がカウンターに隠れたのを確認すると、銃は発射された。足首を狙い連続で当てる。そして、左足首を吹き飛ばした。
前のめりに倒れたホネタウロスを見据えながら、カートリッジを交換していく。
四つん這いになりながらも前進するホネタウロス。
次の連射は右肩を集中して狙う。堅硬な骨はヒビが入るも吹き飛ばすまではいかなかった。
最後の交換が終わると、右肩は集中砲火を浴び、弾丸の威力に負け吹き飛んだ。
ホネタウロスは起き上がる力を奪われ、床にうつ伏せに倒れている。
「申請。1558ZGサバイバルナイフ」
『承認されました』
ファイはゆっくりとホネタウロスに近づく。
右手の中に現れた大ぶりのナイフをファイは構えると、左足のハイヒールでホネタウロスの頭を踏みつけ、勢いよく突き立てた。
パッと光が散り、ホネタウロスはHP0により姿を消した。
こうしてホネタウロスはファイによって討伐され、ドリームスケルトンランドの危機は去ったのだった。
小話:TTS=テティスの略になります。GGGに登場する武器などの開発が得意な使徒の女の子の名前です。GGGでは戦うテティスのカッコイイ姿が登場するよ!
ブックマークありがとうございました! 追加更新いたしました。お楽しみいただけたら幸いです。恋するスケルトンはサクサク読める1話完結の短編集です。評価や感想をいただきましたら急いで更新いたしますので、お寄せいただけると励みになります。
終末世界で繰り広げられる恋物語。GGGは2章の後半まで進みました。ちょうど区切りの良い所なので、よろしければ読んでいただけると嬉しいです。




