14.田中要は推理をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
「お出かけしませんか?」
美少女が声をかけてきた。
街では無い。仮想空間でだ。VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)は仮想空間を使って遊ぶゲームである。
声をかけた方は人間の美少女キャラクター「七味」
声をかけられた方はスケルトンの骨男子キャラクター「カナメン」
女子が男子を誘うのは珍しい事では無いが、この2人はややこしい事に、美少女である七味の中身が男子の「皆川七見」であり、スケルトンの中身が女子の「田中要」である。
男子が女子を誘っているのでそれも珍しい事では無いが、美少女がスケルトンを誘っているのは、珍しいと言えるのかもしれない。
「海を見に行きませんか?」
七味の言葉にカナメンは動きが止まった。この所、立て続けにお出かけしている。
赤色53号こと橘瑞稀とビルの最上階で食事。ミフネこと御船健吾とホテルの最上階でディナー。今度は七味こと皆川七見と……。
田中要はモテる訳では無い。というかモテる要素が無い。好きな物はスケルトン。中身の見た目は地味。そんなに社交的な性格でも無い。むしろ部屋に籠ってゲームをするのが日課。仕事が終わったらすぐゲームがしたいので、真っすぐ家に帰るほどなのだ。
着飾るのも大変だし、気を張って疲れてしまう。そんな事が立て続けに3度ともなると、こちらの事情とはいえ断ってしまいたい気持ちにもなる。
「お疲れですか?」
七味の可愛い顔が残念そうに潤む。中身が男子なのに、この可愛さだ。
「大丈夫ですよ。行きましょう」
少し元気が出た。よし、がんばるか。
「では、ここから少し歩くのですが」
「え?」
「どうしました?!」
「いえ。思っていたより近かったので」
「遠くの海が好きですか?」
「近い方が好きです」
現実世界の海だと思っていたなどとは、恥ずかしくて言えない。そういえば、七味はゲーム内で散歩をするのが好きな人だったと思い出していた。2人が出会ったのも、七味が散歩中に穴に嵌って動けなくなったからだった。
嬉しそうに歩く美少女の後ろを、楽しそうに歩くスケルトン。一見すると、ストーカーと被害者だが、二人の心は通じている。大丈夫だ。
仮想世界には海も山も、街もお城もある。無いのは遊園地ぐらいか。
「良い場所を見つけたんです。カナメンさんと一緒に来たかったんですよ」
七味は少し赤くなりながら言った。
「可愛すぎるだろ!」という言葉が漏れそうになったが、カナメンはぐっとこらえて「それは楽しみですね」と平静を装った。
サスペンスドラマに出てきそうな崖に着くと七味は言った。
「ここから飛び降りてください」
スケルトンは水死体になっても、スケルトンだよな。そんな事を考える余裕は一応あった。七味が後ろから押すまでは。
「危ないです! 七味さん! 落ちます!」
「落ちるんですよ! カナメンさん!」
和やかな雰囲気から一転、本気でサスペンスじみてきた。犯人の美少女は涙しながら語るのだろう。「無実です」と。
「もう。仕方がないですねー。先に落ちますよ?」
そう言って七味は海の藻屑へと……ならなかった。崖の途中に小さな窪みがあり、そこに飛び降りただけだった。
「ここに落ちて来てくださーい」
それを先に言ってくれないと……。恐る恐る飛び降りて、海の方を見ると、視界は全部海で埋まっていた。
「凄いですね」
カナメンの言葉に、七味も満足そうな顔をした。2人は並んで座り、海を見ながら話をした。
カナメンは冥府の門の召喚を成功させた事を、凄かった、偉かった、頑張ったと、とても沢山労ってもらった。
カナメンからしたら、直接ドラゴンと戦った七味の方が凄いと思うのだが、この人は自分が凄い事をやってのけても、今みたいに他人を労う事を忘れない。そんな所がやっぱり良いなと思った。
ふと肩に重みを感じて見ると、七味は眠ってしまっていた。この所ずっとお仕事が忙しかったのだ。疲れていたのだろう。
時間に間に合わないと、ネットカフェからログインしてくれて、そうやってこの人は生きている。だから沢山の人に好かれている。
「大変だよね」
この人は自分の身を削っている。少し面倒がってしまった自分を反省したけれど、無理をしたら、もっと気を遣わせてしまうんだろうなぁと思う。だから、今は堂々と肩を貸そう。風邪を引かないぐらいの時間は、寝てて良いよ。お疲れ様。
3人それぞれのデートプランとなりました。誰のデートがお好みでしたでしょうか!
恋するスケルトンは1話完結でサクサク読める短編です。お話が思い付きましたら、不定期で週1回ぐらい追加する予定です。ブックマークや評価などいただけましたらお話を急いで更新いたしますので、お寄せいただけると励みになり嬉しいです。よろしくお願いいたします。




