12.田中要は信頼をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
『飯いつにする?』
赤色53号からメールが届いた。正確には橘瑞稀からのメールだが。
『何の話ですか?』
田中要はメールを返す。
『約束しただろが』
『いつですか?』
『バグズドラゴンを倒した時だ』
あー。あったような、無かったような。
正直行きたくない。行きたいような気もするが、とても緊張するのだ。緊張しているのをかえって面白がるのが橘瑞稀だ。でも、今回は流石に行かない訳にはいかないよね。ゲーム内でお世話になったし。
2人は仮想空間で遊べるゲーム、VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)を遊んでいる。橘瑞稀が操るのは「赤色53号」人間の少年の姿をしたキャラクターだ。
ちなみに、田中要が操るのは「カナメン」スケルトンの男の姿をしたキャラクターだ。間違いではない。骨のスケルトンで、男子だ。とてもお気に入りだ。
「遅い」
目の前の男性は言った。橘瑞稀はセンスの良い、だけど少しだけラフに着崩した服装に身を包んでいる。それに対して要は、ブラウスにカーディガン、そしてジーンズという服装に身を包んでいる。
「食えないもんとかあるか?」
「いえ、好き嫌いは、ほとんど無いです」
「ゲテモノしか食えないとか言わなくて良かったわ」
要は橘瑞稀、つまり赤色を睨んだ。
駅から少し歩いてたどり着いたビルは、首が痛くなるほどの高さがあった。ガラス張りのビルの入り口は、回転扉になっている。吸い込まれるように中に入ると、そこには異世界があった。
ビルの中にも天井まで続く空間が広がっている。まるでファンタジーに出てくるダンジョンみたいだ。そんな色気のない感想だが、それは要にとっての最高の褒め言葉である。
「凄い!」
喜びが我慢出来なくて、赤色の顔を見る。
「凄いだろ」
共感してもらえたのが嬉しいかのように、赤色も満面の笑みであった。
2人を乗せたエレベーターは上を目指して上る。ガラス張りでキラキラとしたダンジョンは、要の心を虜にした。
「また、みんなで来ような」
「はいっ!」
ビルの最上階。少し暗くライトを落とした店内は、雰囲気が良い音楽が流れている。店員に導かれて座った席は、前面がガラス張りで、横に並んで座るため、夜景が綺麗に見える席だった。
「お酒は飲めるか?」
「少しだけなら」
スマートなオーダーの後に運ばれてきた、目の前に並ぶ美味しそうな食事と甘いカクテル。全てがキラキラと魔法のように、静かにゆったりとした時間を作り出している。
「奢りだから、沢山食えよ」
まるで心でも読んだかのように、赤色はいやらしく微笑んだ。
お酒と夜景とお店の雰囲気と優しい人間と、全てが心を解きほぐす。
解かれた心は、あの時の緊張と安堵と喪失を思い起こし、要は少し涙ぐんでしまった。
「よくやった」
赤色はそっと要の頭を撫でた。いつもみたいに抵抗するには、ここは雰囲気が良すぎた。大人しく肩を貸してもらう。言葉は交わさないけど、居心地は良い。まるで仮想世界の中のようだった。
「みんなが待ってるから、そろそろ行くか」
そう言って赤色は席を立った。
ガラスは、並ぶ田中要と橘瑞稀を映す。
要の目には「お似合い」だなんて、決して思えなかった。それが少し悲しい。
いつものネットカフェの近くには、3人が立っていた。
1人は「七味」こと「皆川七見」だ。という事は、スーツ姿の七味を追いかけまわしている女の子が「ヒヨコ」こと「小田珠子」であり、2人の間に立たされ、七味に盾として使われているのが「イヌカイ」こと「犬飼真」という事になるのだろう。
イヌカイと思われる人物は、お洒落な大学生という風だ。
ヒヨコと思われる人物は、クルクルと巻かれた長い髪を、フワフワと靡かせている。可愛らしくて、女の子らしい服装もしている。
つい、ため息と共に声が漏れてしまう。
「ヒヨコさん可愛いなぁ」
要の言葉を受けて、赤色は言った。
「俺は要の方が良いけどな」
びっくりして、赤色の顔を見る。目線は前に向いたままで赤色は言葉を続けた。
「七味も苦手なタイプだから安心しな。イヌカイは好きみたいだけどな。あれに捕まったら絶対、尻に敷かれるっての」
「ミズキっ!」
2人の姿を確認したヒヨコが、赤色に向かって走り、抱きつく。が、それを赤色がかわして、後ろにいた要へ。
咄嗟に前に出した要の手が、ヒヨコの胸を鷲掴みする。
『大きい! 柔らかい! 良い匂い! 助けてー!』
男達の足は、そんな要の心と、縺れる女子2人を置いたまま、ネットカフェへと向かって行くのであった。
今回は赤色とのデートでした。次回はミフネとのデート。次の次は七味とのデートになります! お楽しみに!
恋するスケルトンは1話完結でサクサク読める短編です。お話が思い付きましたら、不定期で週1回ぐらい追加する予定です。ブックマークありがとうございました! もう1話更新いたしますので、また読みに来て下さると嬉しいです。




