11.田中要は冒険をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)の仮想空間に、4人は集まっていた。メンテナンスでログイン出来なかったが、ついさっき復旧した所だ。
「バグズモンスターがいるな」
他とは色が違うモンスターを見ながら、人間の少年キャラクター「赤色53号」は言った。
「そうですね」
その隣で、人間の美少女キャラクター「七味」は言った。
「クーン」
更にその隣で、狼のキャラクター「イヌカイ」は言った?
「あれが今回も原因ですかね?」
更に更にその隣で、スケルトンのキャラクター「カナメン」は言った。
バグズモンスターとはゲーム上のエラー要素であり、プログラムウィルスの一種。つまりはゲームの病気のようなものである。
バグズモンスターはゲーム外部からの消去が難しいが、内部からの殲滅は有効であった。つまりは倒せば倒せる。ただし、恩恵は無い。
倒してもプレイヤーにとって利点が何も無いため、ゲーム内に大量に放置されている。それが、ゲームサーバーに負荷をかけ、サーバーダウンやメンテナンスの原因になっていた。
バグズモンスターの見た目は通常のモンスターと近いが、色が違っているため、見分けるのは容易い。攻撃力などは通常のモンスターと同じである。しかし、倒してもドロップが何も無い。その上、攻撃が痛いのだ。
ゲーム上のダメージ数値は同じだが、プレイヤーが感じる痛みの体感数値が高いのである。
GGLは仮想空間を使ったVRゲームで、ヘッドマウントディスプレイを装着し、神経接続をした生身の人間が操作している。人間が本当に攻撃されたような痛みが伝達される訳では無い。ゲームであるからには痛みは何分の1という数値に変換されて肉体に伝えられる。
戦闘をしても、実際に殴られている訳では無いので、体が傷ついたりすることは無く、人間の脳が痛いと感じるだけだ。キャラクターが死亡したとしても、人間が死亡する事も無い。
とはいえ、多少の伝達は行われる。その調整された痛みが、通常のモンスターよりもバグズモンスターは痛いのだ。
倒しても、個人的な利益は何も無い。その上、精神的なダメージがあるのでは、面白がって倒す者も次第に減っていった。バグズモンスターの増殖は止まらないのに、倒される数は一向に増える様子を見せない。
「利益にならんが、世界のためにバグズモンスターを倒すか……」
赤色はため息をつきながら言った。
「今ネットカフェにいるのですが、ログイン障害が起こってるみたいです。あと、死亡者の復旧も止まってるみたいなので、死亡しないように気を付けないといけないかもしれません」
七味は困った様子で言った。
「クーン、クーン」
イヌカイは不安そうに鳴いた。
「接続中の人でバグの駆除をするしかないみたいですね」
カナメンは心細そうに言った。
「何だあれ」
赤色は遠くを指差しながら言った。
「あの色……バグズモンスター?」
七味は同じ方向を見ながら言った。
「ワウーッ」
イヌカイは遠吠えをした。
「大きいですね。初めて見ましたよ、ドラゴン」
カナメンは嬉しそうに言った。
みんなは顔を見合わせると叫んだ。
『ボスモンスターのドラゴンじゃん!!!』
遠くにはくすんだ色のバグズドラゴンが現れていた。ポリゴン着色が欠落したバグズモンスター。ワールド最強と呼ばれているドラゴン。の、バグズバージョン。
『どうすんのあれ!!!』
真っ青になる4人。遠くでバグズドラゴンは元気に歩き回っている。
しばらくドラゴンの動きを見ていた七味が口を開いた。
「あの動き、誰か戦っていますね」
「ブロッサムだな。ミフネから応援要請が来た」
赤色は腕組みして悩む様子を見せた。
「ブロッサム」はゲームで一番有名なギルドである。そして、一番強いとされているギルドだ。そのギルドから、友人である赤色に協力要請が来たのだ。「ミフネ」というのは、ブロッサムのギルドリーダーである。
「カラヒス全員にも向かうように伝えた。俺達も行こう」
赤色はそう言って走り始めた。
カラヒスとは「カラーリングヒストリー」という名前のギルドであり、赤色53号がリーダーを務めているギルドだ。イヌカイもカラヒスのメンバーであり、サブリーダーの地位にある。
ちなみに、イヌカイは現在、獣化して狼の姿であるが、人化して狼の耳と尻尾を持った獣人の姿にも変化出来る。獣化中は言葉を発する事ができないので「クンクン」鳴いているが、人化すれば普通に言葉も発する事が可能だ。人見知りなので、ほぼ獣姿でいる事が多いが。
バグズドラゴンに向かう途中で、狼とその背に乗る男に遭遇した。
「レド! 前線が崩壊した!」
そう言って声をかけてきたのはミフネだった。「レド」というのは赤色53号の愛称だ。赤を示す「レッド」を短くしてレド。親しい人間はそう呼ぶ事が多い。
ミフネと一緒に来た狼は、獣姿から狼の耳と尻尾を持つ女の子に人化した。ブロッサムのサブリーダーである「ヒヨコ」だ。
「ブロッサムは私とフネ君以外は死亡。ブロッサム以外は統制がとれていなかったから、もうダメだと思う。カナメンを探せって言うから連れてきた。だけど……フネ君も立てる状態じゃないんだ」
狼の背から降りて地面に座ったミフネは、ボロボロの姿ながらポーズを決めた。
「最後は女の子を守って死にたいじゃない」
しかしながら、守るべき女の子は現在、男のスケルトン姿である。中身は田中要という女子であるが、スケルトンが大好きな残念な女子である。容姿も至って普通の女子なのだが、ミフネは心の目で見れる人なのであろう。
回復魔法をかけようとする七味をミフネは制する。
「俺の回復はいい。もう指揮官が必要な人数、生き残っていない。戦闘は無理だから防壁に徹するね。すまない」
そして、笑顔になると言った。
「後は攻撃バカと回復バカに任せる」
攻撃バカとは赤色を指し、回復バカとは七味を指す。
このゲームはポイントを自分の好きな魔法に割り振る事が出来る。覚えられるスキルの種類は、その人がこれまで、どのような活動をしてきたかによって開放されていく形だ。
攻撃を多くしてきた者は、誰よりも深く攻撃系スキルが開錠される。そして、他人を多くサポートしてきた者は、回復系スキルが開錠されていくのだ。
赤色は多くの攻撃スキルを持っており、七味は回復スキルに長けていた。
「カナメン、冥府の門を開け」
赤色が言った。
「使った事ないよ」
カナメンは青ざめる。
「なら、なおさら良いじゃないか。ビギナーズラックだ。知らないからこそ起こせる奇跡もあるさ。あいつの気を引くから詠唱を完了させろ」
そして、笑顔で言った。
「もし1%が引けたら、飯おごってやるよ」
冥府の門とはスケルトンの固有スキルだ。しかし、99%の確率で混沌を生むものだった。
異界とつながった門を召喚し、そこから何かの骨が出てくる。その骨は肉体を持ち、攻撃をするのだが、何が生まれるかもわからない上に、99%がハズレなのだ。
「ここまで来たら、この状態を壊す、混沌だって歓迎だ」
そう言うと、赤色は七味を見て言葉を続けた。
「七味はヒヨコに騎乗して追従してこい。足で時間を稼ぐぞ」
「了解。七味君乗って」
ヒヨコは獣化して狼に変化した。
「ターゲットの気が引けたらカナメン、詠唱を始めろ。行くぞ七味」
「はい!」
赤色を乗せたイヌカイと、七味を乗せたヒヨコの2匹の狼は走り出す。
「要ちゃんの事は任せて。とはいえ耐えられるのは、あと1回って所だけどね」
ミフネは自信満々に、不安なことを言ってのけた。
バグズドラゴンは赤色の攻撃に反応して、赤色とイヌカイを追いかけ始めた。それを確認すると、カナメンは両手を祈るように握る。
『田中要ではきっと1%を引き当てられない。だけど……桜子さんなら引き当ててしまうんだろうな。お願い……力を貸して、桜子さん』
みんなを魅了する、不思議な力のある桜子を心に描いた。
カナメンは両手を前に伸ばした。
「冥府の門よ」
詠唱を始めると、スケルトンの右手の甲が青く光る。
赤色を追っていたドラゴンの目は赤色を離れ、カナメンを捉えた。
「やっぱ敵対値が高いか……要ちゃん、今度デートしてね」
ミフネは立ち上がると、足を引きずりながらドラゴンに向かって歩き出す。
「こっちを向きな、カワイ子ちゃん」
ドラゴンに向かって詠唱を始めた。
「アトラクト ノーティス!」
ミフネの足元に魔法陣が現れる。ドラゴンはカナメンから視線をミフネに移すと、ゆっくりと、そして狙いを定めるかのように向かう。
ドラゴンの口は開き、動きのままならないミフネの体を喰らう。そして、見せつけるかのように持ち上げた。
「レド!!!」
ミフネの声に呼応して、イヌカイはドラゴンの体を駆け上がり、口元へと飛び出す。
赤色はミフネへと手を伸ばした。
ミフネは赤色に手が触れた瞬間、叫んだ。
「アトラクト トランジション!」
接した箇所が光を発し、赤色へと吸収されるとヘイト転移は完了した。
そして、ミフネはドラゴンの牙にかみ砕かれ、光になって消えた。
「走れイヌカイ。このまま、引き離すぞ」
狼は体を器用にくねらせ、攻撃を避ける。近づいては離れてを繰り返しながら、徐々にドラゴンの位置をカナメンから離していく。
ドラゴンから離れすぎると、ヘイトの効果が消えてリセットされてしまう。それ故に、近づいたり離れたりを繰り返す必要があるのだ。
攻撃範囲の中に位置取りしつつ、誘導をする。それは、獣化中に防御力が下がる獣人にとって、一発でもくらうと死を伴うものだった。死の瞬間を何度もかわし、狼は走り続けた。
「ホーリー ムーブメント!」
七味の詠唱と共に、地面に描かれる魔法陣。ホーリームーブメントとは、魔法陣の上を通った者の体力を回復させる魔法だ。
直接の回復では素早い動きに対応できない場合に、対象の動きを先読みして設置する事で、魔法の不発を避ける事ができる。
七味は更に、ホーリームーブメントを動かす事もできた。敵が魔法陣の上を通った場合、敵の体力をも回復してしまう危険があるが、位置をコントロールする事で、回避する事ができるのだ。
ミフネから赤色へと託された貴重なヘイトの調和を乱さないために、七味は巧妙に魔法陣を操った。
七味は回復魔法のコントロール、ヘイト管理に長けた人物であった。人柄だけでなく腕前の良さも、七味の人気の理由だ。
攻撃が当たらないまま、ダメージを与えられ続けていたドラゴンは、しびれを切らし、範囲攻撃に移っていた。地面に炎をまき、攻撃するために必要な移動距離を稼いで、狼たちの体力消耗を増やす。そして、大きく振り回されたドラゴンの尻尾は、とうとう2匹を捉えた。
弾き飛ばされたイヌカイは光となって消えた。それと同時に、赤色は崖の斜面へと飛ばされ、体を打ち付けられる。
赤色の瞳には、大きく広げ噛み砕こうとするドラゴンの牙、そして、遥か彼方の門が映っていた。
地面に叩きつけられ、苦しそうにしていたヒヨコも間もなく光になって消えた。
同じく地面に叩きつけられた七味は、回復魔法をかけようとしたが、震える手はどうしても、いうことを聞いてはくれなかった。
『この世界がバグに奪われたら、ゲームが遊べなくなるだけ。そうだとしても、無駄で意味が無くても、それでも……精一杯立ち向かうのが冒険だ。僕たちは今、冒険をしている。冒険には確約された報酬などない。あるのは、その先にみんなで笑い合える未来だけだ。それを願って、僕らは立ち向かう』
七味は気力を振り絞って立ち上がり、カナメンのいる方向を見た。そこには、立派な漆黒の門がそびえ立っていた。
「頑張ったね。カナメンさん」
そして、七味は光になって消えた。
ミフネを失った直後。カナメンは途切れる事なく、詠唱を続けていた。
「死の番人よ、生の守護者よ」
カナメンの左手の甲が赤く光る。そして、女性の声が重なった。
「我が声に答えて、門の前に立て」
『我が声に答えて、門の前に立て』
伸ばした手の平の先に2色の魔法陣が現れる。
「我が心に応えて、門の扉を叩け」
『我が心に応えて、門の扉を叩け』
赤と青の魔法陣は反対方向に回り始めた。
「我が命に応えて、門を開け放て」
『我が命に応えて、門を開け放て』
空を突き抜ける、大きな門が現れた。美しく輝く絶望の黒。
カナメンは精一杯の声で叫んだ。
「開け! 冥府の門、ジェネシス ガーディアンズ ゲート!!!」
鈍い音を立てて門は開く。輝く世界と、暗闇をつなぐ門。門前の光とは対照的に、扉の奥から漆黒が巨大な骨と共にやってくる……現れたのは、真っ赤なドレスを纏った、神々しいまでの真っ白なスケルトン。
その姿は、骨子だった。
門をくぐると骨は激しく煙をあげながら肉体を形作る。赤色のドレスの中に形成される透き通るような肌。妖艶にして優美なその肉体は、涼し気で切れ長の、赤く光る眼を宿す。大きなツバの真っ赤な帽子は、彼女の真っ黒で長い髪を彩る。
そして、言葉を発した。
「我が名はシグマ。GGLプログラムAIフェンリル5248、タイプSIGMA」
彼女の周りには「0」と「1」の帯が渦巻き、魔法陣を形成していく。
「ワールド干渉申請」
骨子であった者は落ち着いた声で言った。
『SIGMAのワールド干渉申請が承認されました』
機械音声がまるで祝福の鐘のように響く。
「状況分析開始」
『スキャン終了』
「バックアップから照合開始」
『10589258の不具合を確認』
「復元開始」
『不確定要素の分離開始』
バグズドラゴンを見据えるとSIGMAは手を伸ばした。彼女の腕を伝うように「0」と「1」の帯がドラゴンに向かって伸びる。
ラッピングするリボンのように、帯はドラゴンの体の回りを這い回り、拘束の力を強めていった。
『分離成功。浸食確認』
「ウィルス分析、ワクチン生成開始」
『対象の分解に失敗しました』
「自壊プログラム申請」
『SIGMAの自壊申請が却下されました』
「タウへの権限移譲申請」
『SIGMAからTAUへの移譲申請が承認されました』
「自壊プログラム申請」
『SIGMAの自壊申請が承認されました』
「さぁ、お食べなさい。お前如きがSIGMAを喰らい尽くせるとお思いならね」
骨子はドラゴンに向かって歩くと、鼻先を撫でた。
「65ルート開放」
『負荷浸食開始』
「0」と「1」の帯はズブズブとドラゴンの体の中に融け込んでいく。
「自己増殖プログラム開始」
『融合を確認……自滅プログラムを発動します』
骨子はカナメンの方を見た。
「カナメン、このゲームは好き?」
「はい」
「それは良かった」
骨子は微笑むと、ドラゴンと共に光となって消えた。
『プログラムは正常に戻りました。引き続きゲームをお楽しみください』
無機質な音声が、たった1人の世界にコダマした。
彼女は消滅した。もう二度と会えないかもしれない。だけど私、田中要は信じている。
彼女はどこかで世界を楽しんでいると。もう二度と会えないのだとしても。そう信じている。
そう思えば頑張れるから。
田中要は世界に伝えたい。私は今日もゲームを楽しんでいると。
今回は珍しくカナメンたちが戦っているお話です。今後もあまり戦わないので、珍しい回として楽しんでいただけましたでしょうか!
恋するスケルトンは1話完結でサクサク読める短編です。お話が思い付きましたら、不定期で追加いたします。感想レビュー評価いただけましたら急いで次話更新いたします。励みになりますのでいただけると嬉しいです。




