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恋骨!~恋するスケルトン~田中要はVRMMOゲームでスケルトンになって恋をする事にした。  作者: 熊谷わらお
第1章 スケルトンは恋の夢を見るのか? 1話~25話【完結】
11/83

11.田中要は冒険をする事にした。

一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ

 VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)の仮想空間に、4人は集まっていた。メンテナンスでログイン出来なかったが、ついさっき復旧した所だ。


「バグズモンスターがいるな」

 他とは色が違うモンスターを見ながら、人間の少年キャラクター「赤色(あかいろ)53号」は言った。


「そうですね」

 その隣で、人間の美少女キャラクター「七味(しちみ)」は言った。


「クーン」

 更にその隣で、(おおかみ)のキャラクター「イヌカイ」は言った?


「あれが今回も原因ですかね?」

 更に更にその隣で、スケルトンのキャラクター「カナメン」は言った。


 バグズモンスターとはゲーム上のエラー要素であり、プログラムウィルスの一種。つまりはゲームの病気のようなものである。

 バグズモンスターはゲーム外部からの消去が難しいが、内部からの殲滅(せんめつ)は有効であった。つまりは倒せば倒せる。ただし、恩恵(おんけい)は無い。


 倒してもプレイヤーにとって利点が何も無いため、ゲーム内に大量に放置されている。それが、ゲームサーバーに負荷をかけ、サーバーダウンやメンテナンスの原因になっていた。


 バグズモンスターの見た目は通常のモンスターと近いが、色が違っているため、見分けるのは容易(たやす)い。攻撃力などは通常のモンスターと同じである。しかし、倒してもドロップが何も無い。その上、攻撃が痛いのだ。

 ゲーム上のダメージ数値は同じだが、プレイヤーが感じる痛みの体感数値が高いのである。


 GGLは仮想空間を使ったVRゲームで、ヘッドマウントディスプレイを装着し、神経接続をした生身の人間が操作している。人間が本当に攻撃されたような痛みが伝達される訳では無い。ゲームであるからには痛みは何分の1という数値に変換されて肉体に伝えられる。

 戦闘をしても、実際に殴られている訳では無いので、体が傷ついたりすることは無く、人間の脳が痛いと感じるだけだ。キャラクターが死亡したとしても、人間が死亡する事も無い。

 とはいえ、多少の伝達は行われる。その調整された痛みが、通常のモンスターよりもバグズモンスターは痛いのだ。


 倒しても、個人的な利益は何も無い。その上、精神的なダメージがあるのでは、面白がって倒す者も次第に減っていった。バグズモンスターの増殖は止まらないのに、倒される数は一向に増える様子を見せない。


「利益にならんが、世界のためにバグズモンスターを倒すか……」

 赤色はため息をつきながら言った。


「今ネットカフェにいるのですが、ログイン障害が起こってるみたいです。あと、死亡者の復旧も止まってるみたいなので、死亡しないように気を付けないといけないかもしれません」

 七味は困った様子で言った。


「クーン、クーン」

 イヌカイは不安そうに鳴いた。


「接続中の人でバグの駆除(くじょ)をするしかないみたいですね」

 カナメンは心細そうに言った。


「何だあれ」

 赤色は遠くを指差しながら言った。


「あの色……バグズモンスター?」

 七味は同じ方向を見ながら言った。


「ワウーッ」

 イヌカイは遠吠えをした。


「大きいですね。初めて見ましたよ、ドラゴン」

 カナメンは嬉しそうに言った。


 みんなは顔を見合わせると叫んだ。

『ボスモンスターのドラゴンじゃん!!!』


 遠くにはくすんだ色のバグズドラゴンが現れていた。ポリゴン着色が欠落したバグズモンスター。ワールド最強と呼ばれているドラゴン。の、バグズバージョン。


『どうすんのあれ!!!』

 真っ青になる4人。遠くでバグズドラゴンは元気に歩き回っている。


 しばらくドラゴンの動きを見ていた七味が口を開いた。

「あの動き、誰か戦っていますね」


「ブロッサムだな。ミフネから応援要請が来た」

 赤色は腕組みして悩む様子を見せた。


「ブロッサム」はゲームで一番有名なギルドである。そして、一番強いとされているギルドだ。そのギルドから、友人である赤色に協力要請が来たのだ。「ミフネ」というのは、ブロッサムのギルドリーダーである。


「カラヒス全員にも向かうように伝えた。俺達も行こう」

 赤色はそう言って走り始めた。


 カラヒスとは「カラーリングヒストリー」という名前のギルドであり、赤色53号がリーダーを務めているギルドだ。イヌカイもカラヒスのメンバーであり、サブリーダーの地位にある。

 ちなみに、イヌカイは現在、獣化して狼の姿であるが、人化して狼の耳と尻尾(しっぽ)を持った獣人(じゅうじん)の姿にも変化出来る。獣化中は言葉を発する事ができないので「クンクン」鳴いているが、人化すれば普通に言葉も発する事が可能だ。人見知りなので、ほぼ獣姿(けものすがた)でいる事が多いが。


 バグズドラゴンに向かう途中で、狼とその背に乗る男に遭遇(そうぐう)した。

「レド! 前線が崩壊した!」

 そう言って声をかけてきたのはミフネだった。「レド」というのは赤色53号の愛称だ。赤を示す「レッド」を短くしてレド。親しい人間はそう呼ぶ事が多い。


 ミフネと一緒に来た狼は、獣姿から狼の耳と尻尾を持つ女の子に人化した。ブロッサムのサブリーダーである「ヒヨコ」だ。

「ブロッサムは私とフネ君以外は死亡。ブロッサム以外は統制がとれていなかったから、もうダメだと思う。カナメンを探せって言うから連れてきた。だけど……フネ君も立てる状態じゃないんだ」


 狼の背から降りて地面に座ったミフネは、ボロボロの姿ながらポーズを決めた。

「最後は女の子を守って死にたいじゃない」

 しかしながら、守るべき女の子は現在、男のスケルトン姿である。中身は田中(たなか)(かなめ)という女子であるが、スケルトンが大好きな残念な女子である。容姿も(いた)って普通の女子なのだが、ミフネは心の目で見れる人なのであろう。


 回復魔法をかけようとする七味をミフネは制する。

「俺の回復はいい。もう指揮官が必要な人数、生き残っていない。戦闘は無理だから防壁に(てっ)するね。すまない」

 そして、笑顔になると言った。

「後は攻撃バカと回復バカに任せる」


 攻撃バカとは赤色を指し、回復バカとは七味を指す。

 このゲームはポイントを自分の好きな魔法に割り振る事が出来る。覚えられるスキルの種類は、その人がこれまで、どのような活動をしてきたかによって開放されていく形だ。

 攻撃を多くしてきた者は、誰よりも深く攻撃系スキルが開錠(かいじょう)される。そして、他人を多くサポートしてきた者は、回復系スキルが開錠されていくのだ。

 赤色は多くの攻撃スキルを持っており、七味は回復スキルに()けていた。


「カナメン、冥府(めいふ)(もん)を開け」

 赤色が言った。

「使った事ないよ」

 カナメンは青ざめる。

「なら、なおさら良いじゃないか。ビギナーズラックだ。知らないからこそ起こせる奇跡もあるさ。あいつの気を引くから詠唱(えいしょう)を完了させろ」

 そして、笑顔で言った。

「もし1%が引けたら、飯おごってやるよ」


 冥府の門とはスケルトンの固有スキルだ。しかし、99%の確率で混沌(こんとん)を生むものだった。

 異界(いかい)とつながった門を召喚し、そこから何かの骨が出てくる。その骨は肉体を持ち、攻撃をするのだが、何が生まれるかもわからない上に、99%がハズレなのだ。


「ここまで来たら、この状態を壊す、混沌だって歓迎だ」

 そう言うと、赤色は七味を見て言葉を続けた。

「七味はヒヨコに騎乗して追従してこい。足で時間を稼ぐぞ」

「了解。七味君乗って」

 ヒヨコは獣化して狼に変化した。


「ターゲットの気が引けたらカナメン、詠唱を始めろ。行くぞ七味」

「はい!」

 赤色を乗せたイヌカイと、七味を乗せたヒヨコの2匹の狼は走り出す。


「要ちゃんの事は任せて。とはいえ耐えられるのは、あと1回って所だけどね」

 ミフネは自信満々に、不安なことを言ってのけた。


 バグズドラゴンは赤色の攻撃に反応して、赤色とイヌカイを追いかけ始めた。それを確認すると、カナメンは両手を祈るように握る。


『田中要ではきっと1%を引き当てられない。だけど……桜子(さくらこ)さんなら引き当ててしまうんだろうな。お願い……力を貸して、桜子さん』

 みんなを魅了する、不思議な力のある桜子を心に描いた。


 カナメンは両手を前に伸ばした。

「冥府の門よ」

 詠唱を始めると、スケルトンの右手の甲が青く光る。


 赤色を追っていたドラゴンの目は赤色を離れ、カナメンを(とら)えた。


「やっぱ敵対値が高いか……要ちゃん、今度デートしてね」

 ミフネは立ち上がると、足を引きずりながらドラゴンに向かって歩き出す。


「こっちを向きな、カワイ子ちゃん」

 ドラゴンに向かって詠唱を始めた。

アトラクト(attract) ノーティス(notice)!」

 ミフネの足元に魔法陣が現れる。ドラゴンはカナメンから視線をミフネに移すと、ゆっくりと、そして狙いを定めるかのように向かう。

 ドラゴンの口は開き、動きのままならないミフネの体を喰らう。そして、見せつけるかのように持ち上げた。


「レド!!!」

 ミフネの声に呼応して、イヌカイはドラゴンの体を駆け上がり、口元へと飛び出す。

 赤色はミフネへと手を伸ばした。


 ミフネは赤色に手が触れた瞬間、叫んだ。

アトラクト(attract) トランジション(transition)!」


 接した箇所が光を発し、赤色へと吸収されるとヘイト転移は完了した。

 そして、ミフネはドラゴンの牙にかみ砕かれ、光になって消えた。


「走れイヌカイ。このまま、引き離すぞ」

 狼は体を器用にくねらせ、攻撃を避ける。近づいては離れてを繰り返しながら、徐々にドラゴンの位置をカナメンから離していく。

 ドラゴンから離れすぎると、ヘイトの効果が消えてリセットされてしまう。それ故に、近づいたり離れたりを繰り返す必要があるのだ。

 攻撃範囲の中に位置取りしつつ、誘導をする。それは、獣化中に防御力が下がる獣人にとって、一発でもくらうと死を(ともな)うものだった。死の瞬間を何度もかわし、狼は走り続けた。


ホーリー(holly) ムーブメント(movement)!」

 七味の詠唱と共に、地面に描かれる魔法陣。ホーリームーブメントとは、魔法陣の上を通った者の体力を回復させる魔法だ。

 直接の回復では素早い動きに対応できない場合に、対象の動きを先読みして設置する事で、魔法の不発を()ける事ができる。


 七味は更に、ホーリームーブメントを動かす事もできた。敵が魔法陣の上を通った場合、敵の体力をも回復してしまう危険があるが、位置をコントロールする事で、回避する事ができるのだ。

 ミフネから赤色へと(たく)された貴重なヘイトの調和を乱さないために、七味は巧妙に魔法陣を操った。

 七味は回復魔法のコントロール、ヘイト管理に長けた人物であった。人柄だけでなく腕前の良さも、七味の人気の理由だ。


 攻撃が当たらないまま、ダメージを与えられ続けていたドラゴンは、しびれを切らし、範囲攻撃に移っていた。地面に炎をまき、攻撃するために必要な移動距離を稼いで、狼たちの体力消耗を増やす。そして、大きく振り回されたドラゴンの尻尾は、とうとう2匹を捉えた。


 弾き飛ばされたイヌカイは光となって消えた。それと同時に、赤色は崖の斜面へと飛ばされ、体を打ち付けられる。

 赤色の瞳には、大きく広げ噛み砕こうとするドラゴンの牙、そして、遥か彼方の門が映っていた。


 地面に叩きつけられ、苦しそうにしていたヒヨコも間もなく光になって消えた。


 同じく地面に叩きつけられた七味は、回復魔法をかけようとしたが、震える手はどうしても、いうことを聞いてはくれなかった。


『この世界がバグに(うば)われたら、ゲームが遊べなくなるだけ。そうだとしても、無駄で意味が無くても、それでも……精一杯立ち向かうのが冒険だ。僕たちは今、冒険をしている。冒険には確約された報酬などない。あるのは、その先にみんなで笑い合える未来だけだ。それを願って、僕らは立ち向かう』


 七味は気力を()(しぼ)って立ち上がり、カナメンのいる方向を見た。そこには、立派な漆黒(しっこく)の門がそびえ立っていた。

「頑張ったね。カナメンさん」

 そして、七味は光になって消えた。


 ミフネを失った直後。カナメンは途切れる事なく、詠唱を続けていた。


「死の番人よ、生の守護者よ」

 カナメンの左手の甲が赤く光る。そして、女性の声が重なった。


「我が声に答えて、門の前に立て」

『我が声に答えて、門の前に立て』


 伸ばした手の平の先に2色の魔法陣が現れる。


「我が心に応えて、門の扉を叩け」

『我が心に応えて、門の扉を叩け』


 赤と青の魔法陣は反対方向に回り始めた。


「我が命に応えて、門を開け放て」

『我が命に応えて、門を開け放て』


 空を突き抜ける、大きな門が現れた。美しく輝く絶望の黒。



 カナメンは精一杯の声で叫んだ。

「開け! 冥府の門、ジェネシス(genesis) ガーディアンズ(guardians) ゲート(gate)!!!」



 鈍い音を立てて門は開く。輝く世界と、暗闇(くらやみ)をつなぐ門。門前の光とは対照的に、扉の奥から漆黒が巨大な骨と共にやってくる……現れたのは、真っ赤なドレスを(まと)った、神々(こうごう)しいまでの真っ白なスケルトン。


 その姿は、骨子(ほねこ)だった。


 門をくぐると骨は激しく煙をあげながら肉体を形作る。赤色のドレスの中に形成される透き通るような肌。妖艶(ようえん)にして優美(ゆうび)なその肉体は、涼し気で切れ長の、赤く光る眼を宿す。大きなツバの真っ赤な帽子は、彼女の真っ黒で長い髪を(いろど)る。

 そして、言葉を発した。


「我が名はシグマ(SIGMA)。GGLプログラムAIフェンリル5248、タイプSIGMA」


 彼女の周りには「0」と「1」の帯が渦巻(うずま)き、魔法陣を形成していく。


「ワールド干渉申請」

 骨子であった者は落ち着いた声で言った。


『SIGMAのワールド干渉申請が承認されました』

 機械音声がまるで祝福の鐘のように響く。


「状況分析開始」

『スキャン終了』


「バックアップから照合開始」

『10589258の不具合を確認』


「復元開始」

『不確定要素の分離開始』


 バグズドラゴンを見据(みす)えるとSIGMAは手を伸ばした。彼女の腕を(つた)うように「0」と「1」の(おび)がドラゴンに向かって伸びる。

 ラッピングするリボンのように、帯はドラゴンの体の回りを()い回り、拘束の力を強めていった。


『分離成功。浸食確認』


「ウィルス分析、ワクチン生成開始」

『対象の分解に失敗しました』


自壊(じかい)プログラム申請」

『SIGMAの自壊申請が却下されました』


タウ(TAU)への権限移譲申請」

『SIGMAからTAUへの移譲申請が承認されました』


「自壊プログラム申請」

『SIGMAの自壊申請が承認されました』


「さぁ、お食べなさい。お前如きがSIGMAを喰らい尽くせるとお思いならね」

 骨子はドラゴンに向かって歩くと、鼻先を()でた。


「65ルート開放」

『負荷浸食開始』


「0」と「1」の帯はズブズブとドラゴンの体の中に融け込んでいく。


「自己増殖プログラム開始」

『融合を確認……自滅プログラムを発動します』


 骨子はカナメンの方を見た。


「カナメン、このゲームは好き?」


「はい」


「それは良かった」

 骨子は微笑むと、ドラゴンと共に光となって消えた。


『プログラムは正常に戻りました。引き続きゲームをお楽しみください』

 無機質な音声が、たった1人の世界にコダマした。



 彼女は消滅した。もう二度と会えないかもしれない。だけど私、田中要は信じている。


 彼女はどこかで世界を楽しんでいると。もう二度と会えないのだとしても。そう信じている。

 そう思えば頑張れるから。


 田中要は世界に伝えたい。私は今日もゲームを楽しんでいると。


 今回は珍しくカナメンたちが戦っているお話です。今後もあまり戦わないので、珍しい回として楽しんでいただけましたでしょうか!


 恋するスケルトンは1話完結でサクサク読める短編です。お話が思い付きましたら、不定期で追加いたします。感想レビュー評価いただけましたら急いで次話更新いたします。励みになりますのでいただけると嬉しいです。

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