10.田中要は凝視をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
目の前が真っ暗になった田中要は、ため息をついた。
「またメンテナンスか」
そう言って、ヘッドマウントディスプレイを外した。ゴーグルのように顔の目の部分に装着して使用するこの機械は、VRゲームを遊ぶのに使っている。
要は仮想空間でキャラクターになりきれる、VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)というゲームを遊んでいる。そのゲームでのキャラクターはスケルトン。そう、間違いでは無くて、骨のスケルトンである。
最近ゲームサーバーの調子が悪いらしく、時々遊べなくなってしまっていた。
タブレットパソコンで公式サイトを確認してみると、サーバーメンテナンス中とお知らせが出ている。仕方がないので、タブレットパソコンの画面を切り替えてお仕事をする。
田中要はスケルトングッツを売っている会社に勤めている。勤めているといっても2人しかいない会社。しかも、フィギュアやぬいぐるみ(血が噴き出しているようなやつ)が、所狭しと飾ってあるので、会社というには少し緊張感が足りない。
ゾンビが大好きで残念な女子、南桔梗と、スケルトンが大好きで残念な女子、田中要の2人しかいない会社の、主に売っているものはゾンビとスケルトンのグッズである。
少し前までは、スケルトンでは売れゆきが良くないため、頭だけ取り外して、骸骨として売っていた。不思議なもので、骸骨になると急に売れ始める。しかし、今は大きな変化が起こっていた。スケルトンの方が売り上げが上なのだ。
最初のきっかけは、骸骨にヘッドドレスを付けた事だ。骸骨と言えば、どちらかと言うと男性的なカッコ良さがあるのだが、女性の骸骨としてドレスアップをすると、凛とした美しさが生まれた。
それが話題となり、今では結婚式のウェルカムドールとして、ドレスアップした男性と女性のスケルトンが売れている。
タキシードにシルクハットの男性スケルトンと、ドレスに髪飾りで華やかな女性スケルトンのセットだ。共に骨になるまで……なんていう縁起物扱いにまでなっている。
顧客の要望により始めた、ドレスのデザインを結婚式の物と同じにする、オーダーメイドの注文が途切れる事が無いほどの売れゆきなのだ。
女性のスケルトンのモデルは骨子さんだ。VRMMOのゲーム内で出会った、彼女の美しさに見惚れた。それを表現したかった。
失った想いの残像が、支えてくれている。彼女を思い出して描く度、胸の奥がギュッと辛くなる。
携帯電話のメール着信音が鳴った。
七味から「メンテナンス終わりましたよ」
赤色53号から「メンテ終。来い」
ミフネから「俺の胸に飛び込んでおいで」
ゲームが復旧したと連絡が来た。最後のメールは、もちろん削除した。
ゲームに戻ると、目の前に少年と狼のキャラクターがいた。「赤色53号」と「ヒヨコ」だ。
赤色は「カラーリングヒストリー」というギルドのリーダーをしている人だ。ゲーム内で友達の少ない要のキャラクター「カナメン」の事を気にかけてくれて、良く遊んでくれる。赤色の種族は人間で、少年の見た目をしている。
ヒヨコは「ブロッサム」というギルドのサブリーダーをしている。ブロッサムはゲーム内で有名なギルドだ。ちなみに、リーダーは要に即座に削除されたメールの相手ミフネである。
ヒヨコの種族は獣人で獣化と人化を切り替える事が出来る。人化中は人間と獣を合わせた見た目をしており、獣化中は選んだ獣の姿をしている。
GGLの種族は3種類なので「人間」「獣人」「スケルトン」の全員が揃っている。実は、これは珍しい事だった。特にスケルトンが居ない。「骨子」がゲームを辞めた今では、多分、カナメンしかスケルトンで遊んでいる者は居ないだろう。そのぐらい、人気が無い。
しかし、要にとってはスケルトンの見た目が大好きであり、たった1人でも何の問題も無かった。
「ヒヨコさんどうしたんですか?」
カナメンは赤色の隣で大人しく座っている狼に話しかけた。ヒヨコはカナメンに会う度に、挨拶代わりの飛び蹴りを腹に食らわせてくるという習性がある。
「こいつ元気が無いみたいなんだよ」
そう言って赤色は、狼の前足の付け根の所に手を入れ、犬のように持ち上げた。獣の姿をしている時に獣人は言葉を発する事が出来ない。そのため、首を上に反らし、何かを言いたげに狼は赤色の顔を見た。
赤色に狼を押しつけられたカナメンはそっと抱き上げ、抱っこした。本当に、大きな犬みたいだ。が、急に暴れ出す。慌てたカナメンの手が滑って、床に投げ捨てられる狼。
「大丈夫ですか!? ヒヨコさんっ」
その様子を見て赤色は腹を抱えながら笑い転げている。
ヒヨコを見ると、そこには狼の耳と尻尾が生えた、男性が倒れていた。ヒヨコは女の子の獣人だ。しかし、目の前で倒れているのは……男の人……。
「赤色さん! 騙しましたね!」
カナメンが怒ると、赤色は笑いすぎたせいで涙目になりながら言った。
「カナメンが勝手に勘違いしたんだろ。ヒヨコだなんて一言も言ってない。大体にして、全然違うだろ」
「同じにしか見えませんよ!」
「こいつ、イヌカイ。俺のギルドの奴だから、よろしく」
イヌカイと呼ばれた獣人は、再び獣化すると、赤色に飛びついた。赤色は押し倒され、前足で何度も踏まれて抗議されている。赤色はイヌカイの腹に抱き付くと、横に倒して狼をひっくり返す。
「悪い、悪い」
反省しているとは思えない笑い顔で、後ろから抱きかかえたまま、体を起こして座った。両手両足を上げられ、動きを封じられた狼は、なすすべもなく抱きかかえられている。
「良く見て見ろカナメン。イヌカイは耳が真っすぐだけど、ヒヨコは外側に開いてるだろ」
「そんな所見てませんよ」
「イヌカイは目が四角だけど、ヒヨコは丸だろが」
「違いそんなに無いですよ」
「あー、これならわかるだろ。イヌカイは腰回りがモフっとしてるけど、ヒヨコはモチっとしてるんだよ」
カナメンはその言葉に脱力した。
「カナメンさんここに居たんですね」
後ろから声をかけてきたのは、人間の美少女キャラクター七味だった。
「こんばんは。赤色さん。イヌカイさん」
「わかるんですか!!!」
驚いた声を上げたカナメンに、七味は涼し気な顔で言った。
「イヌカイさんは頬がフカフカなんですけど、ヒヨコさんはプクプクなんです!」
『そんなの……わかるかあああああああ!』
心の中で叫んだ要であった。
「ちなみに、スケルトンの表情も読めるからな」
赤色が満面の笑みで言った。
ブックマークありがとうございました! MMORPGなのに全く戦ってない。そんな不安に応えるべく、次回はとうとうカナメンが戦います!
恋するスケルトンは1話完結でサクサク読める短編です。お話が思い付きましたら、不定期で追加いたします。感想レビュー評価いただけましたら嬉しいです。いただけた時は急いで次話更新いたします。




