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恋骨!~恋するスケルトン~田中要はVRMMOゲームでスケルトンになって恋をする事にした。  作者: 熊谷わらお
第1章 スケルトンは恋の夢を見るのか? 1話~25話【完結】
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1.田中要は恋をする事にした。

 田中(たなか)(かなめ)は恋をする事にした。

 恋なんていう物は必要か必要で無いかと言われれば必要は無い。無くてもお腹は減らないし、減っても食べられる訳では無いからだ。それなのに恋をする事にした。

 恋は落ちるもので、するものではないと友人は言ったが、落ちているものを拾っても恋は出来ると思うのだ。誰も選ばない残り物に福があるというのだから、誰も拾わない恋にも福がありそうだ。というのが要の見解となっている。

 だから、恋が道端に落ちていたので拾ってみる事にした。それで幸せになれるかどうかは分からないが、拾ったからには世話をきちんとするべきだとは思っている。


 恋の相手、皆川(みながわ)七見(ななみ)は文字通り落ちていた。仮想世界に。

 要が遊んでいるVRMMORPG「ジェネシス ガーディアンズ ライフ」通称GGLはファンタジーの世界を疑似体験出来るというゲームで、仮想空間の中で可愛い女子から強靭な肉体を持つ男子まで、なりたい自分になれてしまうものだった。

 その世界で要が選んだのは、スケルトン。つまり、骨だ。理科室にある骨格標本(こっかくひょうほん)にそっくりな骨だ。23歳女子が選ぶには渋すぎる選択であるが、なりたいものがスケルトンだったのだから仕方がない。

 なりたいものになりきった結果、誰とも遊んでもらえないという結果を招いたが、スケルトンを辞めるぐらいならゲームを辞める方を選ぶ。


 要のキャラクターは「カナメン」という名前のオス……男子である。要の男キャラなのでカナメン。そんな安易な理由で付けられた名前だが、要はとても気に入っている。

 そんなお気に入りの骨彼に、現実世界で必死に働いたお給料を毎月少しずつではあるが貢いでいる。かっこいい帽子、かっこいいマント、どれも確かにかっこいいが、骨に似合うかは話が別である。

 着れるのだから、もちろん着る。欲しいのだから、もちろん買う。そうやって集めた洋服たちは倉庫を圧迫しているのだが、女子たるもの、着せ替えを楽しみたいのだ。


 そんな着飾った骨と一緒にいるのは、これまたとても変な配色の服を着た美少女「七味(しちみ)」皆川七見のキャラクターである。何でそんな()()()()な組合せの服を選ぶのだと説教をしたくなるのだが、不思議とその辺が男子に受けている。あの子はきっと、貧困にも耐えられるほど心が綺麗なのだと。中身が男だと分かっていても、それでも良いらしい。男心はさっぱりわからん。


 そう、皆川七見の操るキャラクターは可愛い女の子。男子であるが、女子である。

 仮想空間の、空間に落ちていた。つまりは変な場所に入り込んでしまい、動けなくなっていた見目麗(みめうるわ)しい美少女に作られたアバターは、もがき苦しみながら骨に助けを求めた。そして「助けてくれたら何でもします」と言った。

 言ってしまったからには、何でもされてしまう訳で、その日から七見は要のシモベとなった。シモベの仕事が何なのかと言うと、骨と一緒に骨を倒すという、残虐極まりない行いである。

 操作するプレイヤーキャラクターの選択肢に骨があるのに、倒す相手のモンスターにも骨がいるという、作った人出てこいと言いたくなるような仕様のゲームではあるが、それがウケている。要にだけ。


 七味とカナメンが並ぶと、(とら)われた人間と捕らえている魔王のようであり、他人の目を引くわけだが、その仲睦(なかむつ)まじい様子は何故か(なご)みというものを生むらしく、温かく遠くから見守るという暗黙の了解を発生させている。乙女が魔王の呪いを解いて、辿り着くのはハッピーエンドという訳だ。要の意向でその呪いは解かれる事は無いんだが。

 骨が1人でいたら怖いので近付かれず、美少女といても近付かれないので、何処まで行っても骨は寂しいゲーム生活を強いられるのたが、それを快適に感じる要なのでスケルトンは毎日笑顔である。その笑顔が怖がられる原因だとも知らず。


「カナメンさん。今日はどこに行きますか?」

 七味は上は銀の(よろい)、下は黄色のミニスカート、頭にはカエルを乗せた格好でカナメンに話しかけた。

「そうですね。今日はネオスケルトンでも狩りますか」

 カナメンは赤い差し色が所々に入った優美な装備、赤のマント、大きなつばの付いた帽子を被った格好で答えた。手袋やブーツもこだわりの逸品だ。決めるのに1時間かかったコーディネイトである。

 骨が服を纏っている姿は想像が難しいかもしれないが、透明な肉があると思って頂くと理解しやすいだろう。

 話は戻ってネオスケルトン、それはネオなスケルトンの事である。つまり、骨だ。どの辺が「新しい、復活」を示すのかというと、死んでいるのに動いていて、倒しても死に戻り新品になって起き上がって来る、ネオな感じなのだ。1回で2度美味しいスケルトン。とってもネオ。


「ネオは良いですね。レアドロップは確か……鎧のエクゾスケルトンですね」

 七味の言葉にカナメンはニヤニヤと不気味な笑みをこぼす。

「新しい服が買えるな」

「服だけじゃなくて、装備の強化もしてくださいね」

 七味は頬を膨らませて不満そうにカナメンを睨んだ。七味が何故()()()()な格好をしているかと言うと、もちろん先程の説明のように貧困を醸し出しているのでは無い。それは見た目の色合いよりも、装備の効果を重視した結果であった。装備にはオプションと呼ばれる特殊な効果が付いているものがある。何のオプションが付いているかはモンスターからアイテムが落ちた時にランダムで決まるため、オプション効果を重視すると見た目は二の次になってしまうのだ。それをカナメンは理解しがたいといつも思っている。見た目がばっちり決まっている上で強い。かっこ良さの次に強さ。それがカナメン美学であり、着飾ることは至上の喜びであるからだ。趣味スケルトンはどうにも止められないのだ。

 ゲームを遊ぶスタイルにおいて、七味は効率重視派で、カナメンは楽しさ重視派という訳だ。そんな合わなそうな2人が一緒に毎日を過ごせるのは、七味がシモベである他に、お互いがこのゲームを大好きだという共通点があるからである。他の共通点は今の所見つかってはいない。


 狩場に到着し、ネオスケルトンと戦い始めると七味は言った。

「僕と会ってくれませんか?」

「毎日会ってますよね」

 カナメンは不思議そうに返事をした。その言葉に七味は少し遠慮がちに言った。

「来月のGGLのイベントに一緒に行きたいんです」

「んー? 本体同士ってこと?」

 カナメンは驚きの声をあげてしまった。ゲーム内ではなくて、ゲーム外で七味が会いたがっている。その事がとても不自然に感じたからだ。


 カナメンこと要は一応、女子である。そして、七味こと七見は男子である。そうなるとつまりは、異性が出会うという事になってしまう訳で、デートとも取れなくもない。そんなつもりがあるとは思えなかったため、何か買わされるのではと不安になってしまった。

 いつも狩りに付き合ってくれて感謝はしている。だけれども、感謝以上は無い。面倒事も避けたい。


 返事に困っていると、倒したネオスケルトンが何かを落とした。


「出た!!!」

 七味が歓喜の声を上げる。


 地面には透明な鎧、エクゾスケルトンが本当に落ちていた。そして、喜んだ2人の前でレアドロップ「エクゾスケルトン」は消えた。消えたというか拾われた。横取りというものである。

 このゲームには、(まれ)に出現する「鳥」と呼ばれるノンプレイヤーキャラクターがいる。このキャラクターは、床にあるアイテムを食べるという性質がある。

 モンスターと同じで、操作しているプレイヤーはいない。突然現れて、アイテムを横取りする鳥である。横《《取り》》の《《鳥》》……骨をキャラクターにするだけある運営の(たぐい)まれなるセンス。そして、横取りされた後に鳥を倒すと、横取りされたアイテムが2個に増えるという、嬉しいのか面倒なのか分からないセンス。行き過ぎたセンスによって生まれた迷惑キャラという訳だ。

 しかしながら、2人にとってはチャンスとも言える。滅多に出ないアイテムが2倍に増える。それはすなわち、一獲千金のチャンスである。倒せればだけど。


 この鳥は非常に移動速度が速く、簡単に倒せる相手では無かった。制限時間は1時間。1時間以内に倒せなければ、飲み込まれたアイテムが消化されて消えてしまう。


「1時間か……間に合うかな」

 カナメンが不安そうに声をあげた。


 現在の時刻は0時30分。七味は深夜1時を過ぎてしまうと、自動的に動かなくなる。いわゆる寝落ちというやつである。毎日の仕事で疲れていても、ゲームにログインしてくれる。そういう優しさのある七味の事がカナメンはとても好きなのだが、突然眠って動かなくなるのには本当に困ってしまう。そのため、絶対に1時は過ぎないように気を付けているのだ。だが今回はレアドロップが相手だ。それを手に入れられるかによって今後の遊び方も変わってくるため、どうしても手に入れたい。


 人をバカにしたような鳴き声の鳥は、長い足と丸い胴体(どうたい)で、羽をはばたかせながら逃げ回る。鳥は鬼ごっこと言わんばかりに楽しそうだが、こっちは必死な形相だ。


 時間は刻々と過ぎていき、あっという間に1時をまわってしまった。すると、七味は右に左にとフラフラおぼつかない足取りになった。おそらく頭がガクンガクンと落ちるのに合わせて、操作が狂っているのであろう。


「無理しないで寝てくださいね?」

「イベント、行ってくれますか?」

 こんな状態で何を言っているのかと思ったが、眠ってくれるならとりあえず後で断れば良いと、思い切った。

「わかった、わかった、OKだから、寝て」

 その言葉を聞いた七味はとうとう動かなくなった。


「ただいま」

 眠ってしまったと思っていた七味が声を出した。

「あれ?寝落ちしたんじゃないの?」

「水を被ってきました」

「はぁ?」

 いったい今、どのような状態なのだろうか。

「絶対に手に入れます」

 気合の入った声で七味は言った。

「いやいや、寝ようよ」

「諦めませんから。あれを手に入れて、笑顔であなたと会います」


 そこまでか、そこまでなのか。嬉しいような、怖いような、申し訳ないような。自分に価値が無いのは分かっている。がっかりされるのも分かっている。わざわざ傷つくのは嫌だ。今の関係が壊れるのも嫌だ。嫌だ嫌だ。行きたくない。嫌な事ばかりだ。でもきっと、頑張る人が(むく)われない方がもっと嫌だ。

 大人しそうに振舞って、女らしく着飾って、嫌われないように(いつわ)って。それをやるだけの価値が相手にあるのかって考えたら、すぐ答えが出てしまった。


 ジェネシスガーディアンズライフ、イベント当日。普段は絶対に見られないスカート姿の田中要がいた。


 この女子はとても愛嬌(あいきょう)がある性格をしている。しかしながら、地味な顔立ちのせいなのか無表情だと言われる事も多く、愛想があるのにあるとは言い難い感じを与えるらしい。

 真っ直ぐすぎる髪は、柔らかい雰囲気というものをこれでもかと拒否している。肩ぐらいまでの長さである髪と、全く無い胸とが相まって男子と間違われる事もあるほどだ。醸し出す雰囲気までもが女子とは、ほど遠い。

 決して動作が粗暴な訳では無い。寧ろ紳士を研究しているほどである。何故、淑女の方では無いのかというのは野暮である。だって、スケルトン男子だもん。ゲーム内で、ではあるが。


 約束の時間。約束の場所。緊張で引きつってしまう頬を指で引っ張る。ちゃんと笑顔を出せるだろうか。


『到着しました』

 メールが届いた。


 周りを見回してみる。そこには()えない感じの、だけれども、とても嬉しそうに目を輝かせているスーツ姿の男性がいた。


 深呼吸をして、思い切って声をかける。

「初めまして」

 下げた頭を照れくさいながらも覚悟を決めて上げると、男性は目を丸くして驚いた様子で言った。

「え? カナメンさんって女の方だったのですか?」

「え? 気付いて無かったの?」

 大誤算というか、とてつもなく恥ずかしい。悩んだ私の2週間を返せ。


 開き直った。普段着ないスカートでの大人しい足取り、借りて来た猫の性格を止めた。女で無くて良いのなら、必要無いのだ。この人には。

 とても楽しかった。初めて会ったのに、沢山の会話が出来た。


 とても楽しかったんだ。


 だから、田中要は恋をする事にした。たまにはそんな冒険も良いのではと思ったからだ。未知に挑む事は楽しい。それが君と私の二人なら、きっとどこに居ても楽しめるはず。

 私はまだ恋に落ちてはいない。恋に落ちるために、恋をする事にした。そんな恋があっても良いのだ。そう思えた事がきっと大切なんだと思う。


 私の恋愛レベルは1だけど、目指せカンスト! 飛び込め恋愛異世界! さぁ新しい冒険に出かけよう! 恋の世界ではどんな魔法が覚えられるのだろうか!


 スケルトン女子「カナメン」の恋物語です。1話完結でサクサク読める連作短編にしています。楽しんでいただければ幸いです。


※追記2020年1月

 加筆修正により第1話を変更いたしました。最初の恋骨は思い付きで書いた短編でしたので、一番長く続いているお話となったのがとても嬉しいです。頑張るぞ!

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