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少女

ちょっと短めです。

8話目にしてやっと名前が出せました。


「ねぇ、おにーさん。ポチ知らない?」

 わたしは、どこか知らない場所で目が覚めた。白くてきれ-な部屋。窓から見えるのは2区(コクマー)とは違った景色。

 ベッドと椅子と、サイドテーブル。病室、だよね。余計な物は何にもなくて。


 傍に居たのは背が高いおにーさん。大きいけど、優しそうな感じがするの。

 でも、悲しそうな顔してる。どこか痛いのかな?


「……ポチならどこかに散歩に行ってるのかもしれませんね」

 ちょっと考えるようにして、おにーさんが答えた。なんだか苦しそうな感じがする。


「そっかー。んー……。ねぇ、どこか具合悪いの?」


「いえ、僕は至って健康です」

 でもやっぱり辛そうなの。おにーさんは大人だから我慢してるのかな。


「んー、じゃあ。ここはどこ?」

 

「ここは5区(ゲブラー)の病院です。入院してるんですよ。……先輩は」

 5区かー。来たことなかったけど、病院もあるんだね!

 んん、先輩? わたしが?


「わたしはおにーさんの先輩じゃないよ?」

 こんなに大きな後輩さんはいないもん!


「そう、ですね。……体に違和感はありませんか?」

 また、悲しい顔をするおにーさん。何でだろう?


「うーん? んんー?」

 首を傾げながら、ベッドから自分の手や足を出して、見る。どうにも変な気がするー。

 全体的に体が重いよーな? 手を開いたり閉じたり。反応が鈍いような?

 あちこち見てたら、前髪が目元に落ちて来る、黒い。黒い?


「なんかちがう!」

 わたしは大きな声でおにーさんに言う。

 金髪だもん、わたし!


「……ええ」 

 おにーさんは困ったような表情で頷いた。


「パーツメンテ?」


「違います」

 全身のメンテナンスで違う体に繋いでると思ったのにはずれだったみたい。


「新型のてすと?」


「違います」

 いつの間にか、違うパーツが入ってることなんてよくあることだから、と思ったのに違うらしい。


「おにーさんは知ってるの?」


「どのような状態なのかは、何となく分かりますが、先輩には言えません」


「むー」

 この人は教えてくれそうにない気がする。何となく頑固な予感。さくせんへんこー。


「じゃあさ、おにーさんの名前は?」

 もっと仲良くなろう作戦!


獅子レオンと呼ばれています」

 わたしが笑顔を見せると、おにーさんはやっと少しだけ笑ってくれた。


「ライオンさん! よろしくね! あ、わたしの名前はね――」

 いつもと違う体に慣れないけれど、わたしは精一杯レオンさんとお話しすることにした。





 黒髪の()()機械歩兵(サイボーグ)の男がお喋りをしている病室の外。

 白い壁と白い床、乳白色の手すり、照明の淡い昼光色が混ざり合って、病的な潔癖さを感じさせるような廊下にて。


「あの子の容態は?」

 所長が不機嫌な顔で訊ねる。禁煙であろうはずの場所で容赦なく煙草を咥えている。紫煙は天井の換気口に向けてゆらゆらと立ち上っている。


「いわゆる幼児退行に近い状態ですね。とはいえ、彼女の場合は異能(オカルト)による精神の同調が原因ですので、精神疾患として分類してよいのかは分かりませんが」

 担当医であり所長の部下でもある妙齢の女性が、電子カルテを見ながらそう答える。カルテには『杜若 百合子(カキツバタ ユリコ)』と書かれている。


「薬剤投与による治療では無理か」


「そうですね、神経伝達物質の過剰分泌や異常減少によるものでもないです。こう言っては彼女に失礼かもしれませんが、昔話のイタコの憑依状態(トランス)に近いでしょうね」


「つまり、被害者の少女が乗り移っている、と」


「正確には模倣(コピー)ですね」

 限りなく本物に近いですが、と女医は続ける。


脳外科手術(ロボトミー)、もしくは電脳化は?」


異能(オカルト)の発現メカニズムが解明されていない以上、外科的処置は難しいと思います。電脳化に際しては、緊急処置を除き、本人もしくは保護者、配偶者のいずれかの同意が必要です」

 そう答えると彼女は、電脳化処置法の項目を開き、所長に提示する。


「言ってみただけだ」

 白い壁に背中を預けて、所長は投げやりに答える。


「相変わらず、ホンキなのか冗談なのか分かりませんね」

 女医は肩をすくめる。


「ああ、そうだ。レオン(アレ)は相変わらずか?」

 携帯灰皿に灰を落とし、2本目に火を点ける所長。


「相変わらずべったりですね」


レオン(アレ)を遊ばせておくのは勿体ないんだが」

 困ったものだと、苦笑する。


イタコ(ユリコさん)の肉体面は多少の衰弱は見られますが良好ですし、()()()()()()()()()()精神状態は安定していますので、聴き取り調査は可能ではあります。どうしますか?」


「そうだな……。彼女の治療継続を条件にレオン(アレ)を走らせるか」


「いいんですか? レオン君に恨まれません?」

 会社の()()()()である彼を()きつけることに、彼女は懸念を示す。そもそも治療方法はあるのだろうか、という疑問もあった。


「あのイタ小娘(コむすめ)ならそれを望むだろうよ。そのおかげで私があちらこちらに調整に出向かなきゃならない」

 今朝も上層に行くハメになったしな、とぼやく。


「イタコってみんな()()なんですか?」

 10年ほど前に壊れたイタコを診たことのある彼女が質問をする。


「異能の性質的に感情移入しやすいんだよ。特にあの子は顕著だ。しかもなまじ頑丈(タフ)なせいで、今までカウンセリングすら必要なかったからな」


「なるほど」


「あの子のような自己犠牲的なイタコがいる一方で、野薔薇(ローズ)という金の亡者(ビジネスライク)な現役イタコもいるがね。ああ、そうだ。彼女に治療させてみるか」

 悪戯を思いついたような笑みを浮かべる。


「大丈夫なんですか?」

 その笑みに女医は嫌な予感を覚える。イタコにイタコの治療が可能なのか、とも思う。



「大丈夫だとも。あの2人は犬猿の仲でね。しかも義理の姉妹だ」


第9話は9日の午前2時予定です。

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