雀蜂
「まぁ、仕方がない」
ということにしておいてあげる。どうにも、記憶を辿る限り、後輩にも面倒をかけたみたいだし。
面倒といえば、義妹が施術してくれたみたいだけど、絶対ロクな金額請求してない気がするんだよなぁ、アイツ。
「手品師がいれば最低限の任務は達成してますから、多分」
「で、手品師連れて脱出できるの?」
私は抑え込んだままの手品師を指さす。そろそろ、抵抗する気がなくなってるっぽいから踏んづけておくだけでもよさそうだけど。
「おっと、見逃してくれる感じ?」
後輩を警戒したまま、傭兵男が軽い口調で訊ねる。
言葉の裏に、不滅の獅子形態の後輩とやりあいたくない感じがひしひしと感じられる。
「可能でしたらご同行願いたいんですが」
後輩の前腕が花弁のように展開され、内臓した銃器が露出、それを男に向ける。
「お断りするよ」
と、即答する男に――。
ぱぁん、と単発の破裂音。おお、躊躇いなく撃ったな、後輩。
「……だめですか」
どうやら、射撃は外れたらしい。
「その状態、制御厳しいんだろ? いくら内蔵型とはいえ、肉体の可動部位が減ってるんじゃ射撃のぶれを抑えづらいと見える」
「では、当たらない射撃と、通らない刺突でやり続けますか?」
見透かしたように言う男に対して、後輩は不毛な提案をする。それ、やってる間にそのうち警備やってくるんじゃないか……。
「やだよ、めんどくさい。とはいえ、見逃してくれるなら手品師と、水槽に入ってるやつ持って帰っていいぜ」
と、男は手品師と、後方にある水槽を指さす。
「な、おい! 僕を助けろよ、雀蜂!」
その返事に対して、大人しくしていた手品師が暴れ出す。やっぱ、もうちょい絞めるか。
雀蜂。雀蜂、ね。んー……私の記憶にはないか。
「チッ。これだからガキは……。まぁいい。受け取れ」
雀蜂と呼ばれた男は、私に向かって外付け型の識別票と思しきモノを放り投げる。
もちろん、爆発物などを警戒した後輩がそれを即座に解析して、代わりに受け取ったけれど。
「……工業区画内の警備の無効化ですか。規定時間後失効型のようですけれど」
「おーおー。忠犬と言うべきか、姫に傅く騎士様と言うべきか。まー、あんたらも平和に帰りたいだろ?」
雀蜂が呆れと驚きを入り交ぜた反応をし、俺も平和に帰りたいしな、と続ける。
「交渉成立ということで」
と、私。手品師をいつまでも抑え込んでられるわけでもないし。
「ではそのようにしましょう」
巻き戻しのように、内臓銃を収納する後輩。ちょっと見てて面白い。
「んじゃ、俺は帰るわ」
遊びから帰るような気楽さで背を向けて、片手を上げる男。敵対した相手に背中向けるのか。まぁ、何もしないけど。
「ちょっと待てよ! おい! 雀蜂ァ! ァ……ぅぇすぱ……」
喚き立てる手品師があまりにもうるさかったので絞め落とした。技能箱で無理やりやったので、間違いなく筋肉とか神経痛めてる感じがある。
「おっかねぇなぁ。その嬢ちゃん。生身の癖に傷つくことを躊躇わないのは、機械化した俺から見ても恐ろしいもんだぜ。アンタはそう思わないか?」
どうやらチラ見してたらしい、去り際にそれだけ言って、男は区画の奥へと消えた。
「……では、回収して帰りますか」
男の言葉に思うところがあったのか、わずかに躊躇いがちに後輩が私に提案する。まぁ、言いたいことは分かるよ。
「うん、早く帰ろう。水槽の中のって、たぶんアレだよね」
そして、おそらく周辺に並ぶのもそう。私が異能する段階に至れなかった人たち。すなわち、手品師が採集屋として証拠を残さなかったときの犠牲者。
「できればあまり先輩とお嬢さんには見てほしくないものですね」
水槽に近づきながら後輩がそう告げる。ちなみに気絶した手品師は後輩に繋げて、引きずっている。
瓶詰であったり、透明な箱詰めであったり、何かしら保存できる形で犠牲者たちは並べられている。
「あー、うん。彼もか」
そこには手品師が成り代わっていた、採集屋の一部もあった。
「調査した限り、採集屋自身が殺人をしていたみたいですし、どこから入れ替わったのかは分かりませんけどね」
手品師は自身の異能に振り回されて、自分というものがなかった。だから、他者に成り代わることで自身というものの価値や意味を見出したかったのかもしれない。
それは手品師の言うところの偽物でしかないのにね。本物かどうかなんて、自分自身がこう在りたいと決めた時に決まるんじゃないかなぁ。私はそう思う。
異能は自分の一部であって、全部ではないと思えたらよかったのに。道を間違えた時点で同情はしないけどさ。
「全部持って帰るのは無理?」
それはそれとして、後輩に訊ねる。できればみんな帰したい。
「……手品師を置いていけば」
ですよねー。
できるだけ私の意向を汲もうとする後輩がそんな便利な収納ケースになれるわけもなく。
「むぅ……」
なので、私はある提案をした。
次回は22日の午前3時予定です。




