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#5 ついて来ちゃった、お姫様

 街から電気を盗んでいた魔王の手下をやっつけたボクと先生は火の神殿を目指して道を進んでいた。

 すると突然、森がボク達の行く手を阻むように現れた。

 

「――なあミサキ。火の神殿へ行くにはどうやらここを進むしか無さそうだな」

「そうだね先生」

 

 森はかなり大きくて、ここを迂回して行くとかなりの時間をロスしてしまいそうだ。

 それに森を迂回できたとしてもその道が危険じゃない保証も無いし、少しでも早くこの地にいる火の精霊の力を借りたい。

 

「――かなり深い森みたいだから慎重に行かないと」

「そうだな、まあ幸いにも今はお天道様も出てるからそこまでは心配しなくてもいいと思うぞ?」

「でも出来れば夜になる前には何とかして抜けたいね。――先生急ごう」

「おうよ」

 

 ボク達は意を決して森の中へと入っていく。

 森の中は思ったより静かで思ったより涼しい。

 ――そして、思ったより明るかった。

 

「木が空を隠してるから暗いと思ったけど、なんだか結構明るいね、先生」

「この階層は火の精霊の力が宿っているからな。太陽の光も他と比べて少し強くなってるんだ」

「ふ~ん、そうだったんだ。――――なんだかそれを聞いたら喉が乾いてきちゃったかも」

「おう、それだったら丁度いい所に木の実がなっているぞ」

 

 先生が言った場所を見ると木の上に黄色い木の実がなっていた。

 

「あの木の実の中にはな、なんと美味しい水が入ってるんだぞ」

 

 ヤシの実のジュースみたいな感じなのかな。

 

「じゃあちょっと取ってくるね」 

「ミサキ、ちょっと待て」

 

 ボクが木に手をかけた瞬間、先生に呼び止められた。

 

「――どうしたの、先生?」

「ここは俺が取ってきてやろう」

「先生が?」

「おうよ。この森には厄介な猿がいるから初心者には危ないんだ。それにこう見えて俺は木登りが得意だからな。ちょちょいと取ってきてやる」

 

 先生は腕まくりをしてから木を登り始めた。

 すると先生の言った通り、何処からともなくこの森に住んているであろう猿が現れて横の木をスルスルと登り初めて先に木の実に到着されてしまう。

 

「あ、おい、お前。それは俺の木の実だぞ!」

「ウキー」

 

 猿は木を手に取って勝ち誇ったように遊び始めた。

 

「ええい、こうしてくれる!」

 

 先生は木にしがみついたまま、ゆさゆさと木を揺らし始めた。

 すると猿は体勢を崩して手から木の実を落っことしてしまった。

 

「はっはっはっ。どうだ俺の勝ちの――――――ほげっ」 

 

 落下した木の実はそのまま先生の脳天に直撃してしまい、先生と一緒に地面へと落ちてきた。

 

「大丈夫、先生?」

「――――あ、ああ。それより見ろ、あの猿から木の実を奪ってやってぞ」

 

 猿と本気で張り合うのはどうかと思ったけど、木の実が手に入ってひとまずは良かったって事でいいのかな。

 

「じゃあ早速この木の実ジュースを飲もっか」

「そうだな。じゃあ試しにそれをそこにある石に思い切り叩きつけてみろ」

「え? そんな事していいの?」

「い~から、い~から。ほらさっさとやってみろ」

「なんだか嫌な予感がするんだけど…………まあ、いいや。それっ!」

 

 ボクは木の実を近くにある少し大きめの岩に向かって叩きつけた。

 岩と木の実が接触した瞬間、ゴーンという音と共にしびれるような痛みを痛みがボクの体を駆け抜けた。

 

「いったぁ。……なにこれ?」

「や~い、引っかかってやんの~」

 

 思い切り岩にぶつけたはずなのに、木の実は傷ひとつ付かずにボクの手の中にあった。

 

「先生、さてはボクを騙したな?」

「いや~、すますまん。まあ、そんなに怒るな。その木の実は凄く硬いのが特徴でな。少しくらい強い力で叩いたくらいじゃびくともしないんだ」

「じゃあなんで先に言ってくれなかったのさ?」

「だからちょっとしたジョウンだと言ったじゃないか。まあちょっと貸してみろ」

 

 先生は木の実を地面に置くと懐からナタのような物を取り出して水平に叩きつける。

 

「チェストオオオッ」

 

 スパーンと気持ちのいい音と共に木の実は縦にスパッと割れて中から芳醇な香りが辺りに立ちこめる。

 

「ほれ、美味いぞ」

「ありがとう先生」

 

 ボクはジュースをひとくち口に含む、今までに飲んだ事の無い変わった味だけど凄く美味しい。

 

「なあ、ミサキ。俺にも少しくれよ」

「はい、先生――――」

 

 ボクが先生に木の実を渡そうとすると、突然森の奥からドカンと大きい音と共に地響きが襲い掛かってきた。

 

「わわっ、なに!?」

「ミサキ、大丈夫か?」

 

 ボクはビックリして木の実を地面に落としてしまい、木の実はポンポンと跳ねながらどこかへと転がって行ってしまった。

 数秒後、地鳴りがおさまってからボク達は立ち上がり状況を確認する。

 

「――――――おさまった?」

「そのようだな。―――しかし一体なんだったんだ」

「確か森の奥の方だったよね?」

「そうだったな。念の為に一応確認しに行ってみるか?」

「うん。もしかしたら魔王の部下が何か悪さをしているかもしれないしね」

「よし、じゃあ向かうとするぞ」

 

 ボク達は音のした方向へと進んで行く。

 その間にも何回か何かが倒れる音と共に地響きがボク等を襲ってきた。 

 

「――近いな」

「先生。あそこで森が途切れてるよ」

「おう、ここからは慎重に進むぞ」

 

 ボク達は森の出口へと移動すると、その先にはハサミを持った巨大ロボが森の木を切っていて、その下にはそいつの部下と思われる機械兵が切った木材を運んでいた。

 ボク達が森の影から様子を見ていると巨大ロボから操縦者らしき人の声が聴こえてきた。

 

「グハハ。お前達、魔王様の城を作る木材をもっと運ぶんだ」

「――先生!?」

「ああ、どうやら魔王の部下で間違いないようだな」

「行こう、先生」

「おうよ!」

 

 ボク達は森から飛び出して魔王の手下が操縦しているロボットの前に立ち塞がった。

 

「おい、お前。森を壊すのを止めるんだ!」

「――なんだお前? ハッ、もしかしてお前が魔王様の復活を阻止しようとしている勇者か?」

「そうだ、ボクが勇者ミサキだ!」

「グハハ、こんな所で勇者に会えるなんて俺はついてるぜ。お前等、勇者をやっつけてしまえ」

「キーッ!」

 

 機械兵達が木を運ぶ作業を止めて雄叫びを上げながらボク達へと襲い掛かってきた。

 

「ミサキ、行くぞ!」

「うん。わかったよ先生」

 

 ボクは背中から剣を抜いて機械兵達へと剣を向ける。

 

「さあ、かかってこい!」

「キーッ!」

 

 機械兵の動きはそんなに俊敏では無く、動作1つ1つが大ぶりなのでボクでも簡単にやっつけられそうだ。

 

「やぁあああああ!」

 

 ボクと先生は二手に別れて機械兵をやっつけていく。

 けれど、思ったより敵の数が多かったのか、ボク達は少しずつ押されてしまった。

 

「ミサキ、ちょっとまずいかもしれんぞ」 

「くそぉ。こんな奴等に負けるなんて――――」

「グハハ、さあトドメをさすんだ」

「キーッ!」

 

 魔王の部下の指示を受けた機械兵達が一斉にボク達へと襲い掛かってきた。

 …………今回は少しピンチかも。

 

「――――そこまでよ!」

 

 ボク達以外に誰もいない森の中に、突然少女の声が響き渡る。

 そこ声に驚いたのか、機械兵達の動きはピタリと止まった。

 突然の乱入に驚いた魔王の部下が声をあげる。

 

「――――誰だ!?」

  

 ボク達が声のした方を見ると、1人の少女が高い崖の上に立っていた。

 流れる様な金髪の髪の毛、真紅の着物、そして腕には2メートルはあろう大剣が片手で握られている。

 そう、あの姿はまさしく。

 

「…………えっと、誰? う~ん、どっかで見たことがあるような――」

 

 少女の顔には仮面が付けられていて、誰なのかよくわからない。

 

「私の名は世直し仮面よ!」

「世直し仮面だとぉ?」

 

 手下と少女が睨み合っている中、先生が冷静に解説を始めた。 

 

「あれは世直し仮面だな」

「えっと、先生。その世直し仮面って何なの?」

「ああ、ミサキは知らなかったか。あれは世の中の悪を撃つべく活躍する時に天姫が変装している姿だ」

「ふ~ん。そうだったんだ…………って先生、今さらっと正体ばらしちゃったけどいいの?」

「ん? 俺と天姫は世直しの旅をしている時に知り合ったって言わなかったか?」

「――――そう言えばそんな事を言ってたような」

「まあ、そういう事であいつは仲間だから安心しろ」

「――どこかで見たことがあると思ってたけど、そういう事だったのか」

 

 天姫はそのまま仮面を外して胸元にしまうと、その場所からジャンプをして崖の上から降りてきた。

 

「先生、仮面外しちゃったよ?」

「そういえば戦っている最中に無くすと困るから戦う時はいつも外してると言ってたな」

「そんなのでいいのかなぁ」

 

 天姫はそのままボク達の近くに着地すると、大剣を横に振り払い機械兵達を何体がまとめて一気に吹き飛ばした。  

 

「ミサキ、おっまたせぇ~」

「えっと、お城で待ってるんじゃなかったの?」

「私がそんな呑気に待ってる事出来るわけ無いでしょう。さあ行くわよ――――っとそっちの人は久しぶりだっけ?」

「ああ、少し前に会った事はあるが。今はコイツ等を何とかする方が先だな」

「そうね、じゃあここは私達2人で何とかするからミサキはあのボスをお願い」

「――わかった!」

  

 ボク達はお互いに頷きあって戦いを続ける。

 ボクはそのまま天龍騎を呼んで敵ロボと対峙した。

 敵ロボは手に巨大なハサミを持っていて、どうやら森林伐採をするロボットのようだ。

 そして、そのハサミは武器としても使ってくるんだと思う。

 

「来るぞミサキ!」 

 

 敵はハサミを構えて突進してきた。

 ボクはジャンプをして敵の攻撃をかわして、床に転がっている木材を後ろを向いている敵ロボに向かって思いっきり蹴飛ばした。

 木材は敵ロボの背中に命中してそのまま地面に倒れ込んだ。

 

「よし、このまま一気に行こう!」

 

 ボクは天龍騎の腰に付けてある剣を抜いて敵に向かって距離を詰める。

 敵ロボは少しふらつきながら立ち上がったけど、武器を拾っている余裕は無さそうだしこのまま一気に決めてしまおう。

 

「行くよ、必殺――――」

「いかん、ミサキ!」

「――えっ!?」

 

 敵ロボは頭に付いている小型のハサミを取り外してボク達に向かって投げつけてきた。

 

「いけないっ! よけてっ!」

「オウ!」

 

 ボク達は横に飛んでギリギリで敵の不意打ちをかわすことが出来た。

 

「――危なかった。けど、不意打ちはもう通用しないぞ!」

「それはどうかな?」

「どういう事だ?」

 

 敵は不敵な笑みを浮かべているようだけど、そんな事は関係ない。

 

「行くぞ! ――――――ぐぁああっ!?」

 

 ドカンと大きな音がしたと思った瞬間、ボク達は突然後ろから攻撃を受けて倒れてしまった。

 

「――――な、何が起こったの?」

「どうやら相手の投げたハサミがブーメランの様に戻ってきたようだ」

 

 後ろを確認してみると、そこにはボク達が避けたはずのハサミが転がっていた。

 後ろからの攻撃も注意しないといけないとなると、かなり厄介な相手かもしれない。

 

「ハサミブーメランを喰らえぃ!」

 

 敵ロボは次々とハサミを投げつけてきた。

 ボクは剣で叩き落として何とかしのいているけど、このままだとやられてしまうかもしれない。

 

「なんとかハサミに勝つ方法を考えないと――――そうだ! 天龍騎、このまま敵の近くまで一気に近付いて」

「何か考えがあるのか?」

「うん、大丈夫。ボクに任せて」

 

 ボクは天龍騎で思いっきりジャンプをして相手に向かって飛び上がった。

 相手は下でハサミを構えて待ち構えている。

 

「ククク、俺様のハサミの餌食にしてやる」

「おい、お前。ジャンケンで勝負だ?」

「――いいだろう」

「じゃあ行くぞ! ジャンケン――――ポン」

 

 ボクが出したのはグーで相手はハサミでチョキを出した。

 

「へへ~ん。ボクの勝ちだ!」 

「し、しまったぁ!」

 

 相手が動揺している。

 今がチャンスだ!

 

「今だ、ミサキ!」

「行くぞ。必殺、天龍斬!」

 

 ボクは落下しながら相手のロボを真っ二つに斬り裂いた。

 ロボは大爆発を起こして、操縦していた敵は遥か彼方へと飛んでいった。

 

「へへっ、やったぁ!」

「お~い、ミサキ~。どうやら終わったようだなぁ~」

「先生!」

 

 どうやら先生達の方も終わったみたいだ。

 ボクは天龍騎から降りて先生達と合流する。

 

「敵はやっつけたけど、この木材はどうしよっか?」

 

 ボク達が戦った周辺には敵が魔王の城の素材に使う為に切っていた木材が大量に積まれていた。

 

「それなら大丈夫よ。確かこの先に木材加工で有名な街があったはずだから、そこの人達に引き取ってもらいましょ」

「そうなんだ、それなら安心だね。…………って、しれっとそこにいるけど、お城で待ってるんじゃなかったの?」

 

 そこには大剣を鞘に収めてボク達に着いて来ようとしている天姫がいた。

 

「あら? 私の実力はさっき見せたはずだけど?」

「いや、そういう事じゃなくて王様が心配とかしてないのかなって」

「それは大丈夫、書き置きをしてきたから」

 

 ――――ボクはお城で書き置きを見て起こっている王様の姿が頭に思い浮かんだ。

 

「それでこれからどうするの?」

「どうするって、モチロン私もついて行くに決まってるでしょ?」 

「……いいのかなぁ」

「別にいいんじゃないか?」

「――――先生?」

「仲間は1人でも多い方が良いだろう。それに引き返せって言っても素直に聞くような相手でも無いだろう?」

「――――う~ん」

 

 天姫はニコッと笑い、他に選択肢は無いぞと無言の圧力をかけてきた。

 

「まあいっか。じゃあ一緒に行こう」

「あら? もうちょっと反対すると思ったけど意外とすぐに納得するのね?」

「どうせ言っても無駄なんでしょ?」

「まぁねぇ~」

 

 天姫はもう1度笑顔を作って、1人で一足先に道を進んでいく。

 

「ほ~らぁ、もうここには用は無いんだし早く行くわよ?」

「解ったよ」

「じゃあ行くとするか」

 

 ボク達は森の出口への道を進んで行く事にした。

 

 ――――しばらくして。

 

「――――なんだか少し喉が渇いたわね」

「あっ、それならあそこにある木の実にジュースが詰まってるよ」

 

 ボクはこの森に入ったばかりの時に飲んだ木の実を天姫に教えてあげた。

 

「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、あれを取るからちょっとまってくれる?」

「え、いいけど。この森にはあの木の実を狙う猿がいるし木登りも大変じゃない?」

「なんなら俺が取ってきてやってもいいぞ?」

「大丈夫よ。こうすればっ!」 

 

 天姫は木に回し蹴りを食らわすと、凄い音がして木が揺さぶられて上から木の実が落ちてきた。

 

「まっ、ざっとこんなもんね」

「――乱暴だなぁ」

「別にいいでしょ」

「あ、でも。その木の実って凄く固くて――――」

 

 ――ドゴッ!

 

 鈍い音が聞こえたかと思うと、天姫の拳が固い木の実に突き刺さっていていた。

 ……確か岩に思い切りぶつけても割れなかったと思うんだけど。

 

「ん? 何か言った?」

「……何でも無いです」

「はっはっはっ。これは強力な助っ人が仲間になったな」


 ――これならボクじゃなくて天姫が生身で敵のロボと戦っても良かったんじゃないかなぁ。

 

 それからボク達は30分くらい歩いた所で森から抜け出す事が出来て、新たな仲間と共に火の神殿へと歩いて行くのだった。



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