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私と彼のお話  作者: 文月
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私と彼

 私は王子に会うためにはじめて王宮に入った。

 王子はとてもキラキラしていて、そこにいるだけでその場が明るくなるような、そんな存在だった。

 私と王子が存在する世界は違うのかもしれないと。

 そう思いながら王子に挨拶をした。

 王子は私を気に入ってくれたらしく、様々なことを話してくれた。

 はじめてあった日だけでなく、何度も私を王宮に呼んでくれた。

 それだけでは足りなかったらしく、文通もはじめた。

 王子の話は他愛のない話が多かった。

 勉強が大変だった、先生が厳しいなど嬉しそうに話す王子は私には光輝いて見えた。

 何故私が、という妬みや恨みの声は幾度も聞いた。 

 だけど、私は王子に会うときだけ自分が治癒する能力があることや、無力な存在であることを忘れることができた。

 もし王子が私を気に入ってくれているのなら、彼が私を必要としなくなるまでは一緒にいたいと思った。

 勉強をはじめた。

 私には知識がなかったため、王子が話していることを聞くことしかできない。

 時々王子はどうしたら良いのだろう?と聞く。

 それに返事をしてみたい、と思った。

 勉強をはじめた当初は全く分からなかったが、徐々に分かることが増えていった。

 王子が話していることも理解できるようになり、王子の話を聞くだけでなく、相づちを打つだけでなく、話したり意見を述べたりしても良いのだろうか、と思うようになった。

 話を聞いてくれる人が欲しかっただけかもしれない、私が話したら嫌われるかもしれないとドキドキした。

 王子がどうしたら良いのだろう?と私に聞いたとき、思いきってこうしたらどうですか、と答えてみた。

 王子は驚いた顔をしていたが、とても嬉しそうに笑った。

 私は嬉しくて少し泣いてしまった。






 父が正式に王子の婚約者に決まったと知らせてくれたとき、私は泣き崩れた。

 父と母は王子に感謝していると言った。

 王子のお陰で私は良く笑うようになったと。

 今も泣きながら笑っている、と。

 私も王子にとって必要なのだとも言っていた。

 彼は私がいる時以外は笑顔をあまり見せないらしい。

 私は父がいった言葉は信じられなかったが、王子の笑顔が私のお陰で増えていると言われたらとても嬉しかった。

 王子は私さえ良ければ結婚してほしいと。

 側妃をとるつもりはないと。

 そう言ってくれた。

 王子は、彼は、私を抱きしめ口付けしてくれた。

 私は恥ずかしくて、でも嬉しくて、この世界で一番幸せかもしれない、と思った。






 彼の婚約者になり、はじめての誕生日がきた。

 今までもプレゼントや彼のきれいな文字でお祝いのメッセージがきた。

 彼の文字は右に上がりやすく、少し特徴的だった。

 だが、それでもきれいなのだからすごい。

 きっと今回もそうなのだろうと、真っ先に彼からのプレゼントと手紙を探す。

 どれだけ探しても見つからない。

 いや、きっと届いていたら使用人が教えてくれるだろう。

 何故なのだろう、彼の気分を害することをやってしまったのだろうか、と悲しくなる。

 少しうつむいたとき後ろから抱きしめられた。

 だけど私には彼だと分かった。

 忙しいはずなのに、何故ここに。

 そう思って顔を見るが、微笑むばかり。

 きっと無理してくれたのだと思うが、彼の優しさに嬉しくなる。

 自分の表情が笑顔になるのが分かる。

 彼も嬉しそうに笑みを深めてくれた。

 あまり長くはいられないようだったが、会いに来てくれるだけで嬉しかった。


「誕生日おめでとう」


 そうやってプレゼントと手紙を、口付けと一緒に、手渡してくれた。

 こんなに幸せで良いのだろうか、と少しだけ怖くなった。






 彼から出掛けないか、と手紙がきた。

 私は出掛けられることが嬉しいと返事をした。

 だが、彼は忙しいはずだ。

 大丈夫なのだろうか?と思った。

 彼は父に話を通してくれ、出掛ける日が決まった。

 彼はお忍びだよ、といつもより地味な格好をしていた。

 私も同じような地味な格好をする。

 出掛ける、ということが治癒すること以外でほぼなかった私は楽しみで仕方なかなかった。

 彼は何かあったら私を守るから、と言ってくれた。

 少人数の護衛と私には見つけるとこができない護衛を引き連れて外に出る。

 リクエストはあるか、といわれたので、お忍びで父の領地を見てみたいと言ってみたのだ。

 娘として視察したことはあるが、一人の民として見てみたかった。

 朝市やお店、視察ではいけないようなところをたくさん回った。

 私も王子も笑顔で、護衛の人たちも笑顔だった。

 帰り道、急に背中にかばわれる。

 私たちの動作に品があったらしく、ならずものに目をつけられたのだと言っていた。

 戦う、と聞いたとき不安で不安で仕方なかった。

 怪我をしたらどうしよう、と。

 その心配は杞憂に終わる。

 王子は強かった。

 私にはどれほどの実力があるか正確には分からないが、もしかしたら、護衛よりも強いかもしれない。

 戦いの中で彼が怪我をする想像ができなかった。

 私は帰ってから、母の記憶が一回無くなったときから書きはじめた日記に今日の出来事を書いた。

 彼は今まで大きな怪我も無く、重い病にもかかっていなかった。

 父も体が丈夫なのか私が一度も治癒したことがない。

 彼が病にかかったり、怪我をしたりしませんように、と心から願った。






 彼と会う時間が減った。

 手紙は届くが、彼自身は会いに来てくれない。

 何故なのか原因が分からない。

 手紙に図々しくも会いたい、と書いたが、忙しいから難しいと返事がきた。

 原因が分からず、私から会いに行こうとしても許可がでない。

 悲しくて悲しくて仕方なかった。

 食事も喉を通らず、父と母がとても心配していた。

 王宮からすぐ来るように、と知らせが来たのはそんな時だった。

 私は急いで行った。

 彼に何かがあったのかもしれない、と。

 実際、彼は病に臥せっていた。

 心臓の、病らしい。

 元気だった彼からは想像ができないほど弱っていて。

 彼の周りにいる人は悲痛な面持ちだった。

 私に頼むのは間違えてるかもしれないが、助けてほしいと。

 彼がこの病のことを秘密にするために私に会う回数が減っていたのだと知ったときは、何故もっとはやく相談してくれなかったのかと思った。

 私は彼を助けたかった。

 たとえ私の記憶がなくなっても。

 彼に声をかけると、薄く目がひらく。

 私を見つけると幸せそうに笑った。

 すぐに意識がなくなったが、私はそれを彼との最後の思い出にしよう、と思った。

 もし目覚めた彼が私を必要としてなかったら、今までの思い出を胸に修道院で神に尽くそう、と決めた。

 私ははじめて自分から彼に口付けをし、手を握って願った。

 彼の病が無くなりますように、と。

 少しでも私の記憶が残ってくれたら嬉しいとも思ったが、治るだけで嬉しい。

 黒いもやもやが白い光に包まれて消えていった。






 彼はしばらく眠り続けた。

 目が覚めたとき、近くにいたいと思ったので、正式な手続きをふみ、王宮に滞在した。

 彼の命を救ったということで、彼の部屋に入ることも許可された。

 手を握り、はやく目覚めてほしいと願う。

 どれくらいの時間そうしていたのか、そろそろ、も声をかけられる。

 また明日も来よう、とベッドから離れかけたとき、身動ぐ音が聞こえた。

 慌てて彼に駆け寄る。

 彼はようやく目覚めた。

 だが、彼の瞳は見たことのないほど冷たくて。


「お前は誰だ」


 治癒したときに良く聞く台詞なのに、いつも聞いている声に、好きな声に言われるというだけで今までで一番辛かった。

 私が知っている彼はもういないのだと思った。

 私の噂は知っていたのだろうが、実際記憶がなくなった王子を見た周りの人は驚いたようだった。

 知らない内に王子の部屋にはたくさんの人がいた。

 王子は私が見たことがない、作ったような笑みで対応している。

 呆然とたったままの私を見ると、はやく出ていけというような視線を向けられる。

 私が一番王子に近い位置にいるので邪魔だったようだ。

 静かに一礼をする。

 無礼にならないように静かに後ろを向く。

 部屋を出るために歩こうとすると手を引かれた。

 見ると王子が私の手を掴んでいるようだ。

 王子は自分が何故そんなことをしているか分からない、という表情を浮かべている。

 その手はすぐに離され、私は退室した。






 王子が目覚めた次の日、王から呼び出された。

 王子を助けてくれてありがとう、ということと、なにか望みはあるか、ということだった。

 私は父と母に不自由がないようにしてほしい、ということと。

 王子が、王子が、この婚約に疑問を持ち、他の人との婚約した方が良いのではないか、といった場合、婚約を解消してほしい、と告げた。

 王は本当にそれで良いのか、と聞いてくれたが私は頷いた。

 婚約が解消されたときは、私が彼に送った手紙と、私が日記を書いている知ったとき、彼も書くと言っていた日記があれば届けてほしいと願った。

 婚約解消した後は修道院に入る予定です、と告げた私を王は痛ましそうな顔で見つめたあと、ゆっくり頷いてくれた。






 私が父と母のいる屋敷に帰ってから数日後、婚約解消の知らせが届いた。

 彼に私が送った手紙と、日記は残念ながら見つからなかったという王からの手紙を受け取った。

 私は彼との手紙を見返す。

 たわいのない話から、誕生日のお祝い、プレゼントのお礼、季節の変わり目にお花と一緒にお互い手紙を送っていたこと、彼へお花を選んでるときの楽しさ、彼からもらったお花の嬉しさ、会いたいのに会えない寂しさ。

 様々な感情が心に宿る。

 そして婚約解消された事実。

 彼にはもう会えないという事実。

 私は今までの中で一番泣いた。

 瞳が涙にとけてしまうのではないかと思うほど泣いた。

 父と母、使用人たちが部屋に来てくれたが、私は何日か部屋から出ることができなかった。

 私は泣いて泣いて泣きつかれたあと静かに眠った。

 まるで死んだようだったと皆から心配された。

 目が覚めると少しだけすっきりしていた。

 思えば、彼と会え時間が少なくなってから今まで、心が休めた日が無かったのだと気がつく。

 彼と会えなくなったことは寂しい。

 だが、命は助けることができた。

 きっと私は彼の命を救うために出会ったのだ。

 婚約解消された今、役目は終わったのだ。

 それならば迷うことはない。

 私は身支度を整える。

 今までの日記と彼と私の手紙以外、必要なものがほぼなくて驚く。

 家具などはすべて修道院に備え付けてある。

 王子に幸せになってほしい、そう思いながら私は修道院に向かった。

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