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私と彼のお話  作者: 文月
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私の能力と、王子にあうまで

わずかに血の表現があります。

苦手な方は気を付けてください。

 私には特殊な力がある。

 人を治癒できる能力。

 だけど、それには代償が必要で。

 その代償は、治したい人の中にある、私の記憶。

 治したい病や怪我が大きければ大きいほど、その人の中にある私の記憶の量は多く必要となる。

 治したいと思ったら関わらなければならない。

 私は関わってしまったら助けたいと思ってしまう。

 たとえ忘れられても、助けられないよりはましだから。






 私は伯爵家の中でも裕福な家庭で育った。

 病や怪我は医者が治してくれていた。

 だから幼い頃の私は普通の子供だった。

 最初にこの能力を使った対象は母だった。

 元から体が弱かった母は病気になりやすかった。

 母が病気になると、私と父、使用人は一生懸命看病した。

 そのせいもあるのか、私たち親子と使用人は誰がみても仲が良かった。

 私が幼い頃、治療法が分からない病に母がかかった。

 父が全力で治療法を探し、使用人たちが栄養のあるものを食べさせ、腕が良いと評判の医者が手を尽くしても、治る兆しがなかった。

 母の命が無くなる直前、私は母の手を握ることしかできなかった。

 泣いて泣いて、そして願った。

 母を助けたい、と。

 母を助けられるなら、私の命すら無くなっても良い、と。

 その時のことは良く覚えていないが、後から聞いた話によると、私がわずかに光り、その光が母の中に入ったそうだ。

 その後母の体の中から黒いもやもやしたものが空中へ出ていき、そのもやもやしたものはそのあと、また母の体の中から出てきた白く光輝くものに包まれ、消えていったらしい。

 奇跡が起こり、母の病が治った。

 父や使用人たちは喜んだ。

 私も治ったと知ったときはとても嬉しかった。

 目覚めた母が私を見て、


「あら、貴方は誰かしら?」


 と言うまでは。

 父と使用人たちは母が何を言っているのか分からないようだった。

 だけど私は妙に納得してしまった。

 母が治った代わりに、母から私の存在が消えたのだな、と。

 母が私を忘れてしまったのは悲しいけれど、命が助かったのならばそれで良い。

 良いはずなのに、涙がとまらなかった。






 後日父が、忘れてしまったのならば、また一から思い出を作り直せば良い、と母と私を外に連れ出した。

 母は私を忘れてしまったが、幸いなことに私は両親に似ていた。

 顔は母、髪や瞳の色は父。


「忘れてしまってごめんなさい、それでも貴方は私の子供だって確信できるわ。また思い出を作りましょう」


 と言われたときは母が私を忘れたとき以上に泣いてしまった。

 最初はぎこちなかった関係も徐々に以前のものに戻っていった。

 父がいて、母がいて、優しい使用人たちがいて。

 その頃には使用人の子供と友達になっていた。

 たくさん笑って、遊んで、とても幸せだった。

 幸せな日々が続けば良いと思った。






 はじめて木登りをした。

 彼女は私と一番仲が良くて、はじめてのことをたくさん教えてもらった。

 花冠を作ったり、一緒に野菜を育てたり、木の果実を食べたり。

 まるで姉のようだと思い、慕っていた。

 だから彼女が木を登り、果実をとるのを見て、私もやりたくなったのだ。

 彼女は木登りは危ないといっていたが、私が強引に頼み込んだ。

 落ちても危なくないような木を彼女は選んでくれたが、私は庭の中で一番大きな木に登りたがった。

 絶対にダメだと止められたが、私は最初の木では嫌だと駄々をこね、最初の木よりすこし大きめの木を登ることになった。

 彼女が先に登り私を引き上げる。

 最初は順調だった。

 だが、お嬢様である私の体力はすぐ無くなった。

 力が徐々に入らなくなり、降りようと言う提案に頷いたとき、バランスを崩してしまった。

 大人からすればそこまで高くないが、子供にとっては十分高い位置。

 私は落ちる瞬間、彼女に抱きしめられた。

 ぎゅっと目をつぶり、衝撃に備える。

 落ちた衝撃はすごかったが、そこまで痛くなかった。

 それもそのはずだった。

 彼女が私の下にいた。

 頭から血が出ており、血を止めるために傷を押さえた。

 押さえた手から、傷が大きなものであると分かってしまう。

 いつの間にか使用人たちが集まっていた。

 私は知らない内に泣き叫んでいたらしい。

 使用人たちがこの傷では助からないというような話をしているのが聞こえる。

 彼女が私のせいで死ぬ?

 ダメだ。

 私は無意識に彼女に覆い被さった。

 生きて、と。

 その後は母と同じことが起こったらしい。

 黒いもやもやが白い光に包まれて消える。

 彼女の傷はいつの間にか治っており、その代わり彼女の中にあった私の記憶は消えた。






 母も彼女も奇跡が起こったように、病や怪我が治ったのは私の力だと誰が言い出したわけでもない。

 だが、治せるかもしれない、と思ったら藁にもすがる気持ちで頼んでしまうのは分かる。

 母が死にそうだったとき、私も何がなんでも助けてほしいと思ったから。

 そうして高熱でいつ儚くなってしまってもおかしくなかった庭師の息子も、仕事中の不注意で大怪我してしまったメイドも、他にもたくさんの人々を私は治した。

 私の記憶と引き換えに。

 仲が良かった人から誰?と言われるのはとても辛いことで。

 父や母はいつも無理しなくて良い、と言ってくれた。

 だけど、私と仲良くしてくれたり、世話をしてくれた人を私の力で治せるのなら、私は忘れられても助けたいと思った。

 だけど私は何でも、誰でも治せるわけではない。

 小さな怪我は治せなかった。

 命に関わるものでなければ私の能力は発動しなかった。

 そして私の力が発動するのには他にも条件があった。

 それが分かったのは従者の娘を治してほしい、と頼み込まれたとき。

 従者の娘は何度か会ったことがあるが、普段は遠くで暮らしており、遊んだ記憶は少なかった。

 だが、良い子であることは知っていたし、助けたかった。

 従者の娘は流行り病で意識がなかった。

 手を握り、治ってほしいと、いつものように願う。

 黒いもやもやしたものが従者の娘から出てきた後、白い光が僅かに出てくる。

 黒いもやもやが完全に消える前に白い光が消えてしまう。

 症状は少し良くなったが、治りはしなかった。

 私は分かってしまった。

 記憶が足りない、と。

 従者の娘の意識が戻らなければ新たな記憶を作ることはできない。

 私はなにもできないまま、従者の娘を看取った。

 私は無力なのだと痛感した。

 その時の従者の、何故私の娘だけ助けられなかったのだという目は忘れることはできなかった。






 そこらからは私は治すためにできるだけ人と関わるようになった。

 治してほしい、と頼まれたら全力で看病し、関わり、最後に忘れられた。

 それでも私では助けられない人がおり、自分は無力だという思いは消えなかった。

 従者の娘が亡くなり数年たった後、父から会わせたい人がいると言われた。

 案内された先には従者がいた。

 久しぶりにあった従者は誰がみても助からない、というほど衰弱していた。

 従者は私が娘を助けられなかったことを恨んでいたと言った。

 だが、死の直前になり、ようやく受け入れる事ができ、お礼と謝罪をしたかったのだ。


「娘を助けようとしてくれてありがとう」


 そういって彼は微笑んだ。

 私は彼を助けようとした。

 手を握り、彼を助けたいと願う。

 彼の中から黒いもやもやと白い光が出てくる。

 だが、今回はいつもと違った。

 彼の中から黒い光も出てきて、白い光が黒いもやもやに触れることを阻んだのだ。

 私はその黒い光が彼が私を恨んだ記憶なのだと分かった。

 たくさんの人を治した経験でそう分かったのだ。

 私は泣きながら治せないことを告げた。

 彼は少し困ったように笑いながら、気にすることはない、と私の頭を撫でた。

 前に撫でてもらったときより、手が小さくなっていて私は驚いてまた泣いた。

 彼は笑って、静かに息を引き取った。

 父は頑張ったね、と抱きしめてくれた。






 治癒し忘れられる、ということを何度繰り返したか分からない。

 記憶の量によってはすべて忘れられないこともあったが、態度が以前に比べてよそよそしくなることは変わらない。

 心が傷つきながらも、忘れられたらまた仲良くなれば良い。

 そう思いながら治癒し続けた。

 私はこのまま生きていくのだろうな、と思い始め、私が修道女になろうか考えていると両親に相談したとき。

 王子の婚約者候補になっていると告げられた。

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