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魔法少女エンジェリックサンレイ。参上!

無い方が違和感あったので投稿

近日中に全部書き直して上げ直す予定です

「うあー。海真っ黒だ。夜すごー。海やべー。こわっ」


 赤髪の少女は、周囲に聞かせるつもりであろうかと邪推する程の音量で独り言を呟く。静かなBGMでも響いていれば、きっと似合うのであろう。


 夜とはいえまだまだ蒸し暑く、制服である、膝上程の長さのスカートからすらりと伸びた白い足には汗が伝い、健康的なエロスを発揮する。

 少女の名前は赤坂朱莉。近隣の小中高一貫学校。海光学園高等部一年だ。最も、彼女は小学生の時代からこの学園に在籍していた訳ではない。彼女は親の都合で東京から引っ越してきたばかりであり、親が暮らす地域の近くの公立高校ではなく、少し離れたこの学園で寮生活を営んでいた。


 この学園を選んだ理由というのが、制服が可愛かったという実に馬鹿げた理由であったのだが、彼女の両親は何故か彼女の意思を尊重し、この学園へ入学させた。

 学園は嘉手納基地の敷地だった場所の一角に存在する。基地は数年前に廃止された。その跡地は著名な教育者である一人の女性が、地主たちを説得し買い上げ、学園を設立した、という事になっている。


 ともかく、彼女はそこの所属であり、今現在夜の海を眺めている真っ最中であった。

 何故この様な事になったのか。それは彼女が、自身と先輩二名。計三名だけしか所属しない「部活」の活動に勤しんでいたからである。


「こんな時間になったのは、朱莉の手際が悪かったからだっぴ。もう少し思い切りよく行けばよかたっぴ!」


 彼女の下げるカバンに吊り下げられた小さなぬいぐるみ。キーホルダーと呼んでも差し支えない大きさの、何の動物か呼称に困る不思議な造形のそれから言葉は発せられた。


「もう、うるさい! なったばかりなんだから仕方ないでしょ!」


 ぬいぐるみが喋る。もしかするとそれは、単縦に録音された言葉を外部に出力しているだけであるのかもしれない。しかし彼女の行動。ぬいぐるみと会話する。その行為だけは、社会常識からみて非常識と言われる行為だった。


「それは分かるっぴ。だからアドバイスしてやってるっぴ」


 ぬいぐるみはなおも喋る。少女は顔を真っ赤にする。傍から見れば彼女は精神に重大な疾患を抱えていると思われても仕方がないだろう。ぬいぐるみの言葉は現状、彼女しか聞き取れないのだから。

 しかしそれは彼女の幻聴ではなかった。実際に喋っているのだ。このぬいぐるみは。実際に生きている。場合によっては動きもする。彼女には周囲の「人間」とは違う点があった。それはこのぬいぐるみに起因するものであった。少なくとも彼女の周囲と、彼女はそう思い込んでいた。


「それはそうと、なんで海なんて見てるっぴ。帰らないっぴ?」


 心なしかぬいぐるみの首が傾いている。疑問を体も使って表現しているのである。中身には綿しか詰まっていないのに、どうやって動いているかは謎である。


「ああ、ほら私、東京から来たからさ、南国の海がね。憧れにだったの!」


 彼女はうんっと背伸びをする。同時に深呼吸も忘れない。潮の匂いが鼻腔をくすぐり、彼女に南国気分を味合わせる。実際亜熱帯の島なのであるから、気分も糞もへったくれもないが。


 その時、一陣の潮風が吹き抜ける。改造しても無ければ、短くしてもいない。規定通りに穿くと膝上になる様に作られたスカート。選んだ責任者の正気を疑う代物である。

 そのスカートはおそらく責任者の狙った通りに、風で見事に煽られ、桃源郷とも称される秘所。布があった方が、無い方よりも何だか興奮する秘密の花園を世界に赤裸々に曝け出す。


 と思いきや、突如空中を浮遊した、ぴっぴと語尾が不快なぬいぐるみが布を押さえる。少女のスカートはまるで鉄のカーテン。圧倒的な秘密主義により閉ざされた神秘のヴェール。その堅牢さは、まるで戦前のフランス人がマジノ線に対して感じていた物と同等。

 早い話が難攻不落。鉄壁のシンガポールである。


「危なかったっぴ。うら若い乙女がみだりに肌を晒してはいけないっぴ。もう少しで赤と白の縞々がっぴ!?」


 BGMはコメディチックな物に切り替わるのだろう。


 少女の裏拳がぬいぐるみに炸裂する。風を、空気を切り裂き、いや違うだろう。ぬいぐるみは少女の拳に直撃する前から既にへこみ、吹き飛んでいる。拳の全面の大気。それが少女の速度について行けてないのだ。それはさながらスペースシャトルの大気圏突入。前面に圧縮された空気が高温と化す。断熱圧縮。その一撃を少女はぬいぐるみに食らわせたのである。腕のしなり、腰の回転。体幹と体のばね。全てが見事に調和した芸術。人知を超えた一撃である。


 しかし、それでもぬいぐるみの尊い犠牲は無駄ではない。人がまだ、文字を持たなかった時代。知識を継承するための手法は、言葉によるものであった。言葉こそが人を人たらしめる。人類文明は言葉によって始まったのである。


 そして彼、あるいは彼女は、この言葉により、少女の鉄のカーテンは開き、神秘のヴェールを焼き払い、秘密主義から公開主義への貴重な転換点となる。マジノ線は言葉による電撃戦で迂回され、シンガポールは陥落。

 聞く人が居れば、白い肌がまぶしい少女の大人な花園に咲き誇る、緩やかな三角の、白と赤の縞々な柔らかい布地をはっきりと思い浮かべるであろう。


「言葉に出したら意味ないんだよ……ないんだよ!」

「ぴぎゅう……ぴぎゅう……」


 吹き飛ばされ、やや離れた所の空中で相変わらず浮かぶぬいぐるみ。横に倒れ、ぴくぴくと痙攣するその様は、まさに瀕死というのが相応しい有様である。キーホルダーの金具部分がすっぽ抜け、穴が開いた頭頂部が痛々しさを感じさせると思いきやそうでもない。差し込み直さねばならぬと思わせるだけである。


「もう! ふふ……」


 ぬいぐるみから眼を離し、後ろを振り返る朱莉。視線の先には瀟洒でありながら、ところどころに沖縄風の意匠をあしらった校舎の影が見える。彼女たちの「部室」の辺りには光が灯っている。顧問がそこに居るのだ。部室はその顧問の寮も兼任している。

 普通に職員用の宿舎は無いのだろうか。彼女の頭にそんな疑問が一瞬だけよぎる。しかし、自らがこの学校の学生であるという事実。そして愉快な仲間との非日常な新生活。それを校舎を見ることで発生させた高揚感が塗りつぶす。


「ぴい……ぴっ!? 邪悪な気配がこっちに近づいてるっぴ! 何をするつもりなのかは分からないけど、絶対ろくでもない事になるっぴ。やっつけるっぴ!」


 呻いていたぬいぐるみは突如再起動する。少し慌てた風の口調である。少女は弾かれた様にぬいぐるみを見る。

 BGMは焦燥感を感じさせる物に切り替わるのだろうか。


「え!? さっき戦ったばっかり――」

「つべこべ言わずに! 学園を守るっぴ!」

「学園を……」


 朱莉は再度学園を見る。光は灯っていた。そこには優しい顧問。恩師が居る。再度ぬいぐるみに視線を向けた彼女の表情は、決意に満ち溢れた物だった。


「わたし、やるよ! 行くよ! 月は出てるね!?」


 明るい曲調に切り替わる。

 朱莉は右腕を突き上げる。そして息を吸い、高らかに叫ぶ。彼女が戦う為の形態へと変化するのだ。月に反射した太陽の光が一点に降り注ぐ。中心に居るのは、彼女だ。


「チェンジ! ソーラエナジー!」


 その瞬間、体が浮き上がり、彼女の衣服が消え、その下の肌が露わになる。人が認識できる速度を超え、白い皮膜が彼女を包む。それは透明感有るものの、向こうが透けて見えないボディスーツとなり、実体化される。早い話がレオタードである。その上から、赤を基調とした、フリルが各所に使われたスカート、ジャケットが出現する。足にはピンクのブーツが。腕は白い、随所にピンク色のフリルが付いた長手袋が。

 髪はショートカットから長髪に変化し、大きなリボンが頭に乗っかる。最後に両手には、仰々しいガントレットが装着される。


「悪い人も救うため、清浄少女、エンジェリックサンレイ参上!」


 少女は接近しつつある者達を物ともせずに、悠長に名乗りを挙げる。謎のポーズもしっかりとる。余裕があるのだろうか。顔は満面の笑みだ。


「サンレイ! いきなりだけど新技だっぴ。あれを打ち落とすっぴ!」


 ぬいぐるみの指さした方向に目を凝らすサンレイ。しかし彼女には何も見えない。


「何も……見えないけど?」


 サンレイは首をかしげる。ぬいぐるみは指さし続ける。そこから飛んで来ると。


「眼を良く凝らすっぴ! サンレイの強化された視力なら見えるはずっぴ!」


 彼女は目を凝らす。力を込める様に、全てを見通す様に。そうして彼女は視界に収めることが出来る。飛翔するもの。白に近い灰色。小さな翼を広げた、高速で滑空するそれを。


「あれって……飛行機……ミサイル!?」


 少女は驚愕する。生まれてこのかた、ミサイルなど実際に見たことが無かったからだ。しかもそれが自分の方に直進してくる。故に少女は驚愕し、恐怖する。


「迎撃だっぴ! 大技いくっぴよ!」

「う、うん。出すよ必殺! 月の光は十分だね!?」


 音楽は勇壮な物に切り替わる。

 サンレイは叫び、右腕をやや後ろに引く。その拳の前面を開いた左手で覆う。力を溜めているのだ。彼女の前方には、黄金の膜が形作られる。

 彼女を中心に風が吹き、光に照らされた髪がなびく。


「月・光!」


 彼女は勢いよく右腕を前に突き出し、膜を殴りつける。その瞬間に溢れ出る光芒。


「ムーンレイ!」


 その光の筋は夜空を切り裂き、飛翔するミサイルへ向かう。少女は腕を薙ぐ。光はそれに追随する。

 サンレイの額には、玉の様な汗が噴き出る。激しく体力を消耗しているのだ。そうそう撃てない大技である。


 彼女とぬいぐるみは気が付かない。その様子を遠距離から監視している者達が居ることに。

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