秋
「また素人が一人……困るねぇ。なろうも軽くみられたもんだ……」
「なろう道」の教室に新たな生徒が加わった。
龍二である。
「なー。こんなもんかな?」
「本当に……小説書くのはじめて?」
「うん」
龍二の書く小説はすごかった。
村上春樹のようにスラスラと読め、東野圭吾のようにハラハラさせられ、三谷幸喜脚本のように引き込まれる。
「とりあえず一万文字はこえたし……『なろデミーコンテスト』に参加しよう」
『なろデミーコンテスト』は秋から始まる登録者全員が参加できる大会のようなものだ。
ここで人気ベスト10に入れば書籍化確定。
全員参加できるといっても過去の受賞歴を見れば実質ファンタジー小説大賞だ。
なろう道の生徒達の間では受賞可能性があるのはジワジワアクセス数があがり、ついに大爆発した俺の小説と坂本の小説と言われていた。
坂本の無敵で無敗な主人公と俺の無敵だけど少しずつ弱くなりいずれ負けるかもしれない主人公……
この頃にはモデルの龍二も少しずつ弱くなる……というか優しくなった。
髪の色も緑一色に落ち着き(?)
留年しないよう学校にも姿をみせるようになり、俺以外の友達もできたようだ。
そこは俺も同じなのだが。
「せーの!……送信!」
俺と龍二は同時になろデミーコンテストに参加した。
まぁ可哀想だが文学ジャンルの龍二の小説はお情けでも無理かな。
「運のいい奴!」
「どした?」
坂本の小説が『なろう今月のピックアップ!』に紹介されている。
なろう今月のピックアップ
はなろうがランダムでえらんだ作品のリンクをトップページに貼るイベントで、なろデミー期間にここに紹介されるのはズルい!
これが持ってる奴と持ってない奴の差か……。
いいさ……とりあえず200位以内に入れば一次は突破できる。
坂本が53位。
俺が186位。
おまけに龍二が26999位。
いける!
「なあ龍二の小説は最近どうだ?」
「毎日投稿するんだけどよー。二時間もするとアクセス0だよ。いいけどさ」
「ふーん」
これがなろうの現実だ。
人気ジャンルじゃなくてタイトルも長くなければ一時間ですぐ新着の山に消える。
「あれ?」
「どうしたの?」
「一時間のアクセスが1800?」
「うそ!?」
龍二の小説は『なろうにはちょっとない小説』としてネットで話題になった。
『なろうにはちょっとない小説』なんてワードは人気作の感想欄で山ほどみるが、龍二の小説が『小爆発』したのは確かだ。
「よしっ!」
「やったな!京平!」
「僕は当然だね。恥ずかしいからそんな喜ぶなよ。シロートだねぇ……」
秋の終わり、俺と坂本は教師になろデミーコンテスト一次予選突破を知らされた。
「それでは二次予選も頑張るよう……えっ?」
なんだ?
「すまん……もう一人予選通過していた。……国光龍二!」
「えっ!?」
「おれ?」
ランキングを見てみた。
ファンタジー小説だらけのランキングの一番下に龍二の小説の名前があった。