春
「また異世界ファンタジーの犠牲者が一人……近藤はもう被害者か? 異世界チーターだっけ?129ポイントの?」
坂本がそう言うとクラスの皆が遠慮がちに笑い出した。
かまうもんか。
「近藤……今からファンタジーなんて書いて大丈夫か?卒業までに完結させないとダブりだぞ?ダブル連載なんて……」
「かまいません」
この日のなろう道の授業中、俺は担任に新作『異世界転生ドラゴン無双』の投稿許可を願い出た。
「異世界転生モノ?舐められてもらっちゃ困るね。なろうは遊びじゃないんだよ?」
うるせーな!
こっちだって……これにかけてんだよ!
俺も坂本を意識しすぎだ。
コンプレックスだろうな。
なにせ俺が『異世界転生』を書き始めたキッカケはこいつの本を読んでからだからな……
作品の面白さに作者の人間性は関係ない。
「まー。俺も友達なんていたことないからよ。とりあえず花見でもして交流を深めようぜ」
「……」
どうしてこうなった。
俺は国光龍二の運転する車の助手席に座っていた。
「もうこっちは桜散ってるけどさ。東北ぐらいまでいけばまださいてんじゃないかなぁ……」
「国光君……もう免許もってたんだ?車もあるなんてすごいね……」
「ダッハッハッ!免許も車もねーよ!」
……おろしてくれ!
結果からいうとその日はめちゃくちゃ楽しかった。
俺は初めて酒を飲み、酔っ払ってアニメソングを歌いまくり、絡んできた地元ヤンキーと初めての喧嘩もした。
敵が何人いても国光は無敵だった。
まさに無双!
まさにドラゴン!
俺はぶん殴られながら小説を書きボロボロになった。
「このあとーどーするのー?くにみつきゅーん♪」
「前みろバカヤロー!それに龍二でいいぞー!ワッハッハッ!」
帰りは俺が運転した。
酔ってるし、ぶん殴られてボロボロだったので当然事故った。
龍二が素早く相手の運転手をボコボコにして逃げた。
盗んだ車は龍二の知り合いの『怖いおじさんたち』に引き取ってもらい、俺たちはコンビニでアルコールをチャージして一人暮らしをしているという龍二の部屋に向かった。
「うわっ!」
驚いた。
龍二の部屋は本でいっぱいだった。
「意外だろ?読書家なんだぞ?」
「へー!」
「友達のお前にだけ特別に教えてやろう。この『wing』っていう小説あるだろ?」
「うん」
龍二はwingという本を手にとってパラパラめくった。
「これの主人公のヤンキー。ハルヤってのが俺のあこがれでよー……俺はしたくもねー悪さをして嫌いでもない親に逆らって今では一人暮らしよ……友達いずひとりぼっち……」
ん?どっかで聞いたことある話だな?
「ハルヤは一匹狼だけど自然に仲間が集まってくるんだ……俺はハルヤを真似して生きてきたけど……仲間なんて一人もできやしなかった……気づけばハルヤより年上だよ。せつねーよ。小説みたいにうまくはいかねーな」
「わかる……すげーわかる!俺もそれ!」
こいつは俺だ!俺も全てを打ち明けた。
「わかってくれるか兄弟!」
「わかるぜ兄弟!」
わかるマジわかる。
俺と龍二はこの瞬間初めて本当の友達になった。
「二人で青春を掴み取ろうぜ!」