現実ってーのは。
『携帯小説を投稿することにより想像力、コミュニケーション能力、計算力、倫理力がみにつく。若者よ!さあ『作家になろう』に小説を投稿し、人間力を高めよう!』
……これを『なろう道』という。
戦車は関係ない。
なろう道を選択科目にしている学校は全国でも結構ある。
我が母校『雛高等学校』にもなろう道はある。
なろう道を選択している生徒たちは授業中ひたすらスマホかPCで小説を書き、サイト内の活動報告『割烹』をSNS代わりにしている。
投稿は本名で、タイトルから何まで学校に管理されているのでごまかしが利かない。
もちろんランキングに載るような小説を書ける奴は学校のスターだ。
ごく普通の高校三年生の俺『近藤京平』もなろう道を選択している。
現在『なろう道』の授業中……ぶっちゃけ後悔している。
俺はなろう道を選択した高校一年の春にライトノベルコーナーで本屋の店長をわざわざ呼び出して宣言した時のことを思い出して顔が熱くなってきた。
(店長さん……いずれこのコーナーに僕近藤京平の本が並ぶことでしょう!その時はこの本屋でサイン会をしてあげますよ!ハッハッハッ!)
(えらい!うちのバカ息子にも聞かせてやりてぇよ!夢を持つのはいいことだ!ところでよ。俺の夢は本屋とパン屋を混ぜた『ポン屋』ってのをやりてぇんだが……)
……関係ないことまで思い出した。
店長はどうでもいいんだ。
そんな自信満々に宣言しておいて……二年後。
俺のなろうでの最高ポイントは……『129』ポイント……
トップとは四桁も違う。
小説タイトルがまたひどい。
『異世界チーター地位たけお!』
だもんなぁ。
書かなきゃよかった……
『異世界ファンタジーブームに乗っかって外す』のほど恥ずかしいことはない。
学校に無断で削除もタイトル変更もできないからな……
この小説は確実に俺の黒歴史になるな。
やばいなー。
そろそろ進路も決めなくちゃ……
なろうのランキング上位になれば『雛三沢大学』通称『雛大』に推薦入学できるだろうが……
「夢のまた夢だな……」
俺は窓際の席でヘッドホンでアニメソングを聴きだした。
ラノベからアニメ化した『宇宙の誘惑』のオープニングソング……
『むちゃめちゃハッピーせーしゅんロード♪』
俺はこのラノベの主人公のキャラクター『恭兵』を真似(人間嫌いでいつも窓際の席で音楽を聴いている。口癖は『やれやれ……』の高校二年生)し、気がつけば三年間友達も彼女もいやしない。
そして俺は先月18になった。
好きなアニメやライトノベルの主人公がどんどん年下になっていく……切ない。
つまんねー。
現実つまんねー。
俺は『恭兵』にもなれないし『宇宙の誘惑』のようなおもしろいライトノベルを書くこともできない。
『不思議がいっぱい♪とーもだちサイコー♪せーいしゅんハッピー♪ラーブラブふぃーばー♪むちゃめちゃハッピーせーしゅんロード♪』
やべ……泣けてきた。
青春アニメの歌詞が最近涙腺にくる。
現実との差がハンパねーよ……
俺はプレーヤーの電源を落とした。