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ローマの鐘

作者: カムパネルラ

甥が死んだという報告を聞いたのは彼がなくなった丁度一ヶ月後だった。


『あんたいつも忙しそうだからなかなか言い出せなくてね。』


そう母は私に言い、時差もありわざわざ起きていたのか疲れた様子で電話口にため息をついた。

『どうして自殺したのか原因はわからなかったの?』

『それが虐められてたわけでも何か脅されてたわけでもないみたいでね、色々参ってるみたいよ。』

『そうなんだ、でも若い子が自殺するなんて何か理由がないとなさそうなもんだけどねぇ。』


考えを巡らせてはみたが、それらしい理由が浮かぶことはなかった。

その後は母と近頃の報告などをして電話を切った。


それにしても甥はなぜ自殺したのだろう。

まだ高校二年生でこれからますます楽しくなるだろう年頃に、私には理解できなかった。


ふと自分の高校二年生を思い返し自殺したくなるようなことはなかったか考えてみる。

学校帰りにファミレスに寄ってくだらない話をしたり、趣味の合う友達とオススメの本や音楽について情報交換したり、それなりに楽しかったように思う。


『メメント モリ 死を思え』

高校時代に働いていた小さな喫茶店で窓際に置かれていた小説のタイトルをふと思い出した。


今、この状況はメメント モリなのだろうか?

他人の死を思うこともメメント モリには当てはまるのか小さな疑問が湧いた。

PCを開き検索してみる。


メメント モリ

『自分がいつか必ず死ぬということを忘れるな』


ということらしい、では私が甥の死を考えるのはメメント モリではということだ。

幾分さきほどよりもメメント モリという言葉が冷たく感じるようになった。


とはいえ、この離れたローマの街で彼の死を思うのは甥にとってせめてもの弔いになるのだろうか。


『どうか安らかに、彼をお導きください。』


12時の鐘が町中に響いている。


『僕もローマに行ってみたいな。このあいだシェイクスピアを初めて読んだんだけど面白かったから。』


そう言っていた彼にはお経よりもこの鐘の音の方がずっと相応しいと祈りの間、わたしは思っていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] しみじみとしたお話だなと思いました。 死は避けられる問題ではありません。だからこそ残った者がどう受け止めるのか……それを描いている小説のように思いました。 短編とはいえ、何か心に残るものを…
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