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闇に舞う蛇  作者: 梨乃 二朱
第四章:狩の時間
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五話:魔女の工房

《コラム25》

 レイは休日のほとんどを睡眠に費やし、後で後悔している。

 春休み最後の朝。

 何だかんだで潰れに潰れたらしい念願の休日を、ようやくまともに取れたらしく、八阿木怜心はまだ眠っている。何か良い夢を見ているのか、いつに無く穏やかな表情を浮かべていた。


 その寝顔を隣で横たわる海猫は、一人眺めていた。就寝前は狭いベッドに無理やり入って来たクロエ・バートリーも、日の光が差したからか漆黒の剣の姿に戻り、ベッドの傍らに立て掛けてあった為、今は彼を独り占め出来ていた。

 好きな人と同じベッドで寝て、好きな人の寝顔を眺めるなんて、こんな体になってからは一生出来ないと思っていた。これを幸せと例えないで、何と言おうか。

 しかし、そんな至福の一時は、とある侵入者によって妨げられる事となった。

 その侵入者とは――――


「もう我慢ならないわぁぁぁ!」


「おわぁぁっ!?」


 突如、ベランダのガラス戸を割って入って来た女性に驚き、怜心は飛び起きてキッチンに居たシルヴィアも何事かと血相を変えて駆け付けて来た。

 その侵入者は、海猫は初めて見る若い堅物そうな女だった。


 眼鏡に黒髪を後ろで結ったスーツのスレンダーな女で、間違いなく美人の類いだ。何故だか知らないが、何かに立腹しているようで、寝起きの怜心に抱き付いて何やら喚いている。彼は女を知っているようで、やれやれと言った風に宥めている。

 女が発する言葉の要所要所に発せられる“ユキ”というのが、女が立腹する原因を作った人物のようだ。


「あら、そちらの方は?」


 不意に女の涙ぐんだ眼差しが海猫へ向けられ、怜心が新しい家族だと紹介する。と、女は急に改まって床に正座をする。


「初めまして。私は陸瀬家に仕えている者で、名前を鈴峰弥生と申します」


 三指立てて律儀にお辞儀をする鈴峰弥生なる人物に、海猫も努めて礼儀に気を付けながら挨拶をする。


「それはそうと、聞いて下さる!?」


 と、今度は海猫の胸ぐらを掴んで、がくがく揺らす。

 それに目を回す海猫へ、鈴峰弥生は捲し立てるように愚痴を溢す。

 愚痴の内容は、概ね次のようなものだった。


 鈴峰弥生は、陸瀬優季という少女の家庭教師をしているらしい。もう三年近く、様々な分野の勉学や礼儀作法に至るまでを教えているそうだ。

 優季という少女は、とても物静かで淑やかで、日本古来の淑女を体現したような美少女だったという。過去形だ。


 鈴峰弥生が言うには、ここ最近、優季の精神に異常が来したという。

 その異常というのは、人が変わったように活発になり、以前は外出することを極端に避けていたというのに最近では連日のように朝早くから外に出ては夜になるまで帰ってこないという。その点は『闇者』が着いてる故、心配はいらないと言っているが、言葉とは裏腹に心底心配といった感じだ。

 他にも最近では勉強を怠って、何かよく分からない素材を集めては妖しげな軟膏を作ったり、妙な魔法円を描いては何かの魔術を執り行っているというのだ。

 更には口調まで変わり果て、天真爛漫に振る舞うようになったという。


 一連の話を聞いた海猫は、何か心配して良いものか判断しかねた。

 確かに妖しげな軟膏を作ったり魔術の行使については不安はあるものの、行動や態度については時に心配すべきでは無いと思った。

 思春期の難しい時期故に、性格の変化があっても何も可笑しな所は無いだろう。


 それを鈴峰女史に言ってやると、「他人事だからそんなことが言えるのです!」と怒鳴り返された。


「レイ、どう思います!? 義理とは言え兄妹なのですから、何か心当たりはありません!?」


 鈴峰女史に問い質される怜心は、何とも言えない顔をしていた。

 恐らくその優季という少女の変化の理由を、彼は心得ているのだろうと思う。それを鈴峰女史に告げて良いものかどうか、迷っているといった感じだ。

 というか、彼に義妹がいるとは初耳だ。


「何か問題があるのかな?」


「問題も問題、大問題です! このままでは私、陸瀬家から追い出されてしまいます!」


「な、何で?」


「だって勉強を教える事が出来ない家庭教師なんて、雇うだけお金の無駄じゃありませんか! ――もう私は路頭に迷う運命なんだわぁ!」


 ヒステリックに叫んだかと思うと、怜心の胸にすがって泣き崩れた。

 追い込まれると弱いタイプのようだ。


 怜心はシルヴィアに目配せを送るが、当の彼女もお手上げと言わんばかりに苦笑している。

 海猫にしても、掛ける言葉を見付けられずにいた。


「と、取り敢えず落ち着いてよ。まぁ、理由はどうあれ、ユキの変貌は喜ばしい事だと俺は思うよ?」


「良いんですぅ! 内気で引きこもりがちだったあの子が元気で明るくなってくれたのは、私としても喜ばしい事なんですぅ! けど、そのせいで私の仕事があぁぁぁ!」


 目下、鈴峰女史の苦悩は自身の首が皮一枚で繋がっていることだった。

 怜心はどうしたものかと悩む。軍属とは言え、まだ高校生の彼に仕事を紹介出来るようなコネは無いだろうし、かといって自身が雇う余裕は無い。


「分かった。俺から話してみるから」


「ほ、本当に……?」


「あぁ、上手く行くか分からないが、話すだけ話してみるよ」


 そう怜心が持ち掛けると、鈴峰女史は顔をパアッと輝かせた。

 彼はやれやれと溜め息を吐くと、「すまないが陸瀬家に電話をしてくれ」と傍らに控えていたシルヴィアへ声を掛けた。彼女は何か意味深な苦笑を浮かべると、スマートフォンを取り出して早速電話を始めた。


「んじゃ、弥生さん。俺はこれからユキと会ってくるけど、貴女は――――」


 怜心は鈴峰女史の肩を掴んで、全壊したベランダのガラス戸を見た。


「俺が戻って来る前に、あれを直しておくこと」


 すると鈴峰女史は、気まずそうに顔を背けた。

 そもそも、何故彼女はわざわざベランダから入ってきたのか、海猫には謎だった。











 怜心は『舞蛇神社』の長い石段を上っていた。

 陸瀬家へ連絡を入れたシルヴィアによると、目的の人物である陸瀬優季は朝から出掛けているという事で、必然的にこの神社の事が頭を過った。


 昔から何かにつけて『舞蛇神社』を利用している優季だが、今がどうかは分からない。

 もう怜心の知る優季は居ない。

 陸瀬家の未来を小さくか細い双肩に背負わされ、腹違いの兄である怜心に何より尊敬の念を抱いていた彼女は、もう怜心の知らない世界へ旅立ってしまった。


 そして今、優季の皮を被って好き放題動き回っているのは、平行世界から精神交換によりトリップしてしまったという、『魔女宗』という宗派に属するの魔女・ユキだ。

 僅か二度の邂逅だが、彼女がどのような人間かは右目の『闇石』が計ってくれた。


 天真爛漫、活発で人懐こい少女。が、その内に秘めたモノは底暗く、常人では理解出来ない恐怖を持つ危険な魔女。

 神話レベルの自己再生能力、魔術を超えた魔法としか言い様の無い神秘の力、そしてそれらを完璧に扱っている精神力。

 敵に回す無かれ、と『闇石』は言っている。例え戦闘能力に長けた怜心と言えど、あの自己再生能力と魔法を前にしては、太刀打ちする事は不可能であると。

 困難なのではない。不可能なのだ。


 このような人間は初めて出会う。

 正直に言うと、恐怖より興味が勝っている。それを危険と『闇石』とシルヴィアは言っているが、知ったことではない。

 知的好奇心は時として人を滅ぼす程に危険な性質を持つが、それに抗うことは人間である限り不可能に近い。そして怜心は抗うことをしない。

 あの時から決めている。

 好奇心の赴くままに、誰の意見にも左右される事なく生きてやろう、と。


 ユキと会うのは楽しみだ。優季ではなくユキと話すことを、病的なまでに心待ちにしている。

 彼女が何を語るのか。どういう嗜好をしているのか。そして何を悦び、何に恐怖を抱くのか。

 全てが興味深い。


 さて、石段も残すところ十段程。

 このくそ長い石段を上った先に、彼女が居るかどうかは一種の賭けであるが、それでも構わない。居ないなら居ないで、彼女の行動を予測し町中を捜し回るだけだ。それはそれで面白そうでもある。


 さぁ、もう直ぐ石段も終わる。

 薄汚れた鳥居が見え、その先にある小さな社が見えてきた。

 上りきった先に彼女は居るのか居ないのか。

 いざ、賭けと行こうか。


 期待に胸を膨らませる怜心。

 石段を上りきり、知らず閉じていた瞼を開いた時、彼のダークブラウンの瞳に飛び込んで来たものは、全く予想に反したものだった。


 一言で現すなら、それは殺気だった。

 無意識にヒップホルスターに納めた『コルト・パイソン カスタム』を抜き放ち、撃鉄を起こしていた。


 用心しながら鳥居の中へ完全に踏み入ったその時、眼前に黒い影が現れ何の警告も無く魔力を放って来た。

 怜心はその性質を瞬時に『闇石』に分析させ、『コルト・パイソン』の銃身で受け流す。追加装備した装甲の魔術が作用し、拳銃弾の比ではない亜音速で飛来する魔力の軌道を滑らかに屈曲させた。


 次の一手が来る前に片付けようと銃口を影へ向け、トリガーを弾こうとして咄嗟にその指を止めた。

 これは勘であったが、その行動は正解だったようだ。


 影はそれ以上、攻撃をすること無く、ただの木偶人形のように佇むだけだった。

 影と対峙すること数秒、「あわわっ、ごめんレイさん!」と慌てた様子で社の中から飛び出してきたのは、着物を妙な着崩し方をしたユキだった。











 本堂に招かれた怜心は、その異様な光景に居心地が悪かった。

 最後に来たときは何も無い本堂だったが、今は机や棚、そこに並んだささやかな実験器具によく分からない植物や肉片、液体の入ったビンや小箱等で模様替えされていた。

 東洋の神社に西洋の実験設備とは、何ともミスマッチだ。


 ユキは何かの作業をしていたようで、三脚の上に置かれたフラスコにはガスバーナーの代わりの魔術による炎で中の液体が温められていた。

 その液体は無色透明で、ぽこぽこと小さな気泡が浮かんでは消える以外に変化は見受けられなかった。立ち込める蒸気にも臭いは無い。


「ごめんね。あれ、侵入者撃退装置なんだけど、クウちゃんが設定間違ったみたいで、レイさんを襲っちゃったんだ」


 そう言って愛想笑いを浮かべるユキの傍らには、頭に大きなコブを作った白いニャンコ、光風空がちょこんと行儀良く、そしてふて腐れながら座っている。

 相当怒られたようだ。


「過ぎたことは気にしないので、構いませんよ。ところで、陸瀬さんはここで一体何を?」


「うん、ちょっと魔術研究を、ね」


「魔術研究ですか?」


 「クトゥグアでも召喚を?」なんて冗談めかして言ってみたが、「召喚出来るの?」と逆に首を傾げられた。


「研究って言っても、大方“魔導具”の製造とか“軟膏”の精製とかなんだけどね」


 ユキは棚に並べたビンを指差し、「あれ、全部魔術的に価値があるものなんだよ」と教えてくれた。

 なるほど、と言ってみたものの、どうにもその価値がよく分からなかった。


「何でまた、研究なんて?」


「うん、何かこっちの世界は私の居た世界に比べて物騒だから、色々と準備しとこうと思って。これは謂わば、魔女の工房なのだ」


「そうですか。そのフラスコの液体も、何かの実験ですか?」


「え? お湯沸かしてるだけだよ?」


 何故そんなことを聞くの、と小首を傾げるユキに、何故そんなもので湯を沸かすのか問い掛けたい怜心だが、その前にじっとふて腐れて黙っていた空が口を開いた。


「それで、貴様は何をしに来た? よもや茶飲み話に来たわけでは無かろう?」


「クウちゃん、そんなことばっか言ってると――――」


「言ってると?」


「ねこ鍋にしちゃうよ?」


 声のトーンを一段落としたユキの背後で、フラスコの中の液体が沸騰を始めた。

 “ねこ鍋”が何物かは知らないが、空の怯え様から察するに、食す系のものらしい。それにしても、空はすっかり彼女に逆らえないようになったようだ。


「ははっ、フォローは悼み入りますが、残念ながら茶飲み話をしに来たのですよ」


「ん? そなの? んじゃ、お茶淹れないとね!」


 ユキは棚から急須と茶葉を取り出すと、手際よく準備して沸騰したばかりのフラスコの中の液体を湯飲みに注ぐ。「湯飲みは一回温めた方が良いって」淹れたばかりのお湯を捨てながら教えてくれた。


「手慣れてますね? こういったご経験が?」


「うん、前の世界で師匠が淑女の嗜みだって言って、一杯教えてくれたのだ。――ところで緑茶とほうじ茶、どっちが良い?」


 お気遣い無く、と言うタイミングを完全に逃した怜心は、「ほうじ茶でお願いします」と何と無く気分に従って答えた。

 快諾したユキがせっせとお茶を淹れるのを待って、怜心は先ずは伝えるべき事を伝えることにした。


「話と言うのは、貴女の家庭教師である鈴峰弥生さんの事です」


「弥生ちゃんがどうしたの?」


「最近、外出の多い貴女が授業を受けてくれないと、嘆いてらしたんで」


「フッ、あの女史は事もあろうに貴様に泣き付いたのか? 全く、少しは恥を――フギャッ!」


 毒づく空の頭にユキのげんこつが落ちた。


「私、高校生レベルの勉強ならマスターしちゃってるから、今更学ぶものなんて無いよ?」


 空を懲らしめながら、彼女は衝撃的な発言をした。

 それには怜心のみならず、空まで絶句していた。


「え? っと、それはつまり?」


「つっても普通科の科目に限るけどね。専門科目とか、あんましやったこと無いのだ。あ、魔術とかは別ね」


「ユキ、そんな嘘をついてどうするんだ?」


「ムッ。嘘なんてついてないよ! あ、その顔はレイさんも信じちゃいないな?」


 それはそうだ。

 申し訳無いが、今の今までユキの学力は小学生レベルに止まっていると思っていた。彼女の振る舞いがそう見せていた。

 能ある鷹は、というヤツなのか?


「だって仕方無いじゃん。私、前の世界じゃ何か知らんけど年取らなくなっちゃって、高校生を何回もやったんだよ?」


「何で何回も?」


「そりゃあ、異端討伐の連中を欺くためっしょ? 私、日本人なのに魔女狩りで何度か殺されたんだよ!? 酷くない!?」


 物凄く必死に訴えかけられても、背筋がゾッとするだけだ。随分と壮絶な人生を送って来られたらしい。

 それにしても、やはりこの子の不死身体質は、魂から来るものなのか。それどころか不老までとは。その昔、“人魚”の肉を食して不老不死となってしまった尼僧を連想してしまう。


「んで、年取らないんじゃ高校生しか出来ないし、専門科に行くのも色々と厄介だから、普通科に行くしか無かったの。それを何回も繰り返してたら、普通科目とか完璧になっちゃって、後半は面白くも何とも無かったのだ。目立つわけに行かないから、テストとかじゃ頭悪いキャラ作らなくちゃならなかったし、虐められんのも面倒だから適度に明るくしなくちゃいけないしで、めっちゃ大変だったのよ?」


 少しふて腐れた様子に語るユキを、怜心は興味深く感じた。


「けど、この世界だと魔法の事とか隠さなくて良いっぽいし、超ラッキーって感じ」


「ははっ、そうですか」


 彼女はあくまで明るく振る舞っている。が、その苦労や傷心は僅か十七年と少ししか生きていない怜心には計り知れないものだろう。

 恐らく、彼女はずっと一人きりだったのだろう。不老不死であると言うだけで異端扱いされ、挙げ句の果てには殺されるような目にもあったと言うなら、その秘密をひた隠しにして生きなくてはならなかった筈だ。

 その苦しみを、誰とも共有することが出来ず、目立たないよう明るく振る舞いながら、孤独に生きたのであろう。


「その性格は、キャラ作りしての事なのか?」


「そうだよ。て言うか、性格とか口調とかって、変えようと思えば幾らでも変えられんじゃん? そんな不思議がる事じゃ無くない?」


 それは怜心が一番良く分かっている事だ。

 怜心のような極端なものは異例と言えようが、大人の世界では外面とか内面とか言って使い分けしてる人間は少なくは無い。それについて咎める気は無い。

 と言うより、何か話の趣旨がずれてしまってる。


「それは分かりましたが、鈴峰さんもお仕事ですから。勉学が詰まらないなら、他の事でも良いのでは無いのでは?」


「他の事って?」


「そうですね……。最近の社会事情とか、ですかね? 彼女、そう言うことに敏感ですし」


 取り敢えず提案してみると、「え? 面倒臭い」の一言で却下された。


「けど、そうだなぁ。このままじゃ弥生ちゃん、仕事無くなっちゃってクビになっちゃうのかぁ。それはちょっと残念って言うか、あの人いつもカリカリしてるけど割りと好い人っぽいし。お菓子作ってくれるし」


 これは予想外の反応だった。

 どうやらこのユキは、鈴峰弥生を嫌っているわけでは無いようだ。ただ勉強が嫌というだけで、人間的には好みの部類に入るらしい。

 以前までの優季は、鈴峰弥生を心底毛嫌いしていた。怖いから苦手なんだと、何度と無く怜心の元へ逃げてきていた。


「よし、分かった。ちょっと考えてみるね」


「それは良かった。彼女も喜ぶでしょう」


「うん、任しといて。あ、お茶冷めちゃうから、どうぞぐいっと行っちゃって」


「ははっ、それではお言葉に甘えて……」


 怜心は進められるままに、湯飲みに汲まれたほうじ茶を口に含む。

 何はともあれ、目的は達した。ユキという少女についても色々と聞くことが出来たし、上々だろう。


「……渋ッ」


 ほうじ茶は思いの外、渋く仕上がっていた。











 

《ユキちゃんとクウちゃん》


 何だかんだあって怜心を見送ったユキは、安堵の息を吐いた。


「危なかったな、ユキ」


「うん、けど、レイさんになら見られても別に良いんじゃ無いかな?」


「いや、奴は危険だ。私は長い年月の中、幾人と人間を見てきたが、奴ほどの最低な人間は居なかった」


「酷い言い様だね? 何がダメなの?」


「奴は好奇心の権化だ。自らの欲求を満たすためなら、何の躊躇いも無く他人だろうと肉親だろうと手にかける。そんな奴がこれを見たら、何を仕出かすか分かったもんじゃない」


 ユキは半信半疑で空の話を聞きながら、棚の影に魔術的な施術で隠していた棺桶を開けた。

 そこにはあの黒い影のような人物が、標本のように針で留められ入っていた。


「ところで、この魔術師さんどうしようか?」


「まだ生かしておけ。死ぬと他の個体が活動を始めるやも知れんからな」

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