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闇に舞う蛇  作者: 梨乃 二朱
序章
1/40

死因は不可視の怪物による惨殺

 その『闇石使い』は、書物を訳すことを生業としていた。

 彼の者は神代より遥か以前に地球を統べていた旧支配者(グレート・オールド・ワン)の一柱。

 天文の変化と地殻変動により眠りに着いた邪神に変わり、地上を支配していた。

 彼の者は巨大な蛇の下半身に女の胴体を持つ両性の異様な姿をした祟り神。

 彼の者は蠢く度、世界に天変地異を起こし、声無き咆哮を上げる度に疫病を撒き散らす。

 その巨体から出される老廃物は、醜悪な怪物となり人々を襲うだろう。


 彼の者は混沌を司る邪神。

 しかし、白痴の神なり。

 彼の者が知るのは、悪逆と破壊のみ。

 故に彼の者に人間社会の価値観、倫理観等は理解されぬもの。

 隷属する事さえ許されない。

 死する事でさえ満足しない。

 求められるのは、世界からの消失。

 彼の者の願いは、人の住む世界を破壊し、大地に降り注ぐ光を亡き者とし、創世記に記される混沌の世の再現ただ一つ。


 しかし今、彼の者は眠りに落ちている。

 闇の世界の深淵にて、その巨体を横たえ目覚めぬ眠りについている。

 彼の者をほふるならば、今が好機。


 彼の者に抗うこと、それ即ち神に抗うこと。

 人が神に勝てる道理は無い。

 彼の者を滅ぼしたくば、人である事を棄てよ。

 人を超えるのでは無い。

 人を棄てるのだ。

 人の倫理観、人としての価値観を全て棄てきり、人としての殻を捨て去れば、或いは彼の者と対峙する事も不可能ではない。

 しかしそれは、彼の者と同等の者と成ること。

 方法を間違えれば、第二の混沌と成りうる。






――――『オブスクラム学園附属図書館』の特別閲覧室にて貯蔵されている日本語版『死霊秘法(ネクロノミコン)』より抜粋。










《調査報告書》

 目撃者の証言によると、被害者は白昼の大通りにて不可視の怪物に捕縛され、恐怖に立ち尽くす大衆の眼前で惨たらしくも貪り喰われたという。

 専門家によると、これは一種の集団催眠である可能性が高く、被害者は何者かによって何処かに連れ去られた可能性が極めて高いという。

 被害者が行方不明となって三日後、千葉県警より被害者に似た水死体が『夜刀浦』の浜辺に打ち上げられたとの報告を受け、現地へ急行。鑑定の結果、遺体は被害者と判明。

 被害者は数度に渡り拷問を受けたようで、身体は内外問わず酷く損傷していた。鑑識の報告によれば、死因は溺死ではなく急性心不全という。拷問に身体と精神が耐えられなかったと推察される。

 被疑者は未だ不明。これ以上の捜査は、余りの特異性により困難と見られる。


 尚、路肩に落ちていた日本語版『死霊秘法』は、鑑識を待たずに『オブスクラム学園』理事長の手に渡り、図書館の特別閲覧室へ貯蔵された。


――――私立オブスクラム学園高等部一年、連合日本軍外郭新興部隊『ロイヤル・ロード』所属、八阿木怜心准尉

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