表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペ天使 -幸か不幸か高校生活-  作者: 海老尻尾
第2話 ある日曜日の出会い
9/19

ある日曜日の出会い〈雲の上から覗いてる〉

雲の上に人は乗れるのか?

誰しもが幼少のころ、1度は考える健気な疑問。

そんな、現実を知らず、空に浮かぶ白い物体に夢を膨らませるちびっこ達に対して、

「雲?乗れるよー。」

と無責任に幻想を肯定する大人もいれば、

「雲に乗れるかって?はっ、乗れるわけねーだろバーカ。」

と夢をぶち壊す現実主義者もいれば、

「雲と言うのは、大気中にかたまって浮かぶ水滴や氷の粒であって・・」

と、前日にウィキ●ディアで調べてきた文章を得意げに述べる大人げないやつもいる。・・いや、あんまいないか、これは。

とにかく、どんな形であれ、子供たちは、成長とともに夢を忘れ、

“雲には乗れない”、とか、“サンタクロースはお父さん”

などと言った、現実を知る。



「…ったく、やっと起きたのかアイツ。」

ミュウツ…憂鬱な気分で起床した主人公・櫨村誠の自宅の上空数千メートル当たりに浮かぶ雲。

の上で、たるそうに横になりながら、地上の櫨村家を見下ろしている1人の男。

上空数千メートルから見下ろして、人とか家を認識できるわけねーだろ!

とツッコんだ方もいるだろう。でも待って。話の流れ的にまず先にツッコむ部分があるよ!

…なんでこいつ、雲にのってんのよ?てか、こいつ誰よ?

そう。まずはそこから。


正確にいえばこの男は、雲の上にのってるのではない。

浮いてるのだ。雲の上で。

…浮いてる?

普通に考えれば、舞空術を取得でもしない限り、そんなことは普通、人間には無理な話だ。

じゃ、なぜこの男は上空数千メートルを楽々と浮遊してんのかと。

こいつ、人間じゃないから。


外見は、巨大なアフロに、こわもてのサングラスと口元のひげ。

そして、背中には白い羽。


…覚えているだろうか。

プロローグにて意味ありげに登場したっきり、今まで全く本編に姿を現さなかった、アイツである。

外見は一昔前のヤンキー、でも正真正銘の“天使”。

で、再び登場したこの得体のしれない野郎。

なぜ遥か数千メートル下の櫨村家、さらに、櫨村誠自身を認識できてんのかと。


基本、天使が持つ視力は常人の数倍程度であるが、この天使がかけているサングラスは、かけた者の視力を、最大で天体望遠鏡レベルまで強化・調節することができ、

「これだけは外せない!機能バツグン!イマドキ天使の最新ツールBEST20!春号」(エンジェル出版)

では第3位に輝いている代物である。

そんなどっかのネコ型ロボットのポケットの中に入ってそうな道具のおかげで、

この男は、遥か下の櫨村誠の動きをばっちり確認、ってなわけである。


「…お、出てきたな。」

自分が千メートル上空からガン見されてるとは知るよしもない櫨村誠が、おおきなあくびをしながらドアを開け、家から出てきた。


「じゃ、仕事と行きますかね…。まずは…櫨村誠、簡単にチェックさせてもらおうか。お前がどういう人間なのかを、な。」



ガタンと自転車のスタンドを上げ、椅子にまたがり、家をでる。

現在時刻、9時33分。

軽い朝食、着替え、歯磨き、コンタクト…全て終えて合計消費時間12分。

なかなかの好タイム。

このまま何事もなくいつもの道を通り、国道沿いの“SUTAYA”まで行ければ、ギリギリ10時前に到着し、延滞料金を払わずに済む。

計画は完璧。

フン、余裕だな。

不敵な笑みを浮かべ、真正面から心地よい風をうけながら、坂を下る。

起きてからの憂鬱な気分は、外の空気に触れて、少しは良くなったが、まだ自転車のペダルを漕ぐ足は、重い。


突き当たった丁字路を右に曲がり、少し進むと、その先の十字路に踏切が見える。

「踏切注意」が、点滅し、カンカンカンと、聞き慣れた音が鳴り始めた。

あ、まずい…!

くそっ…と思いながら、ペダルをこぐスピードを上げる。

我が家から“SUTAYA”までの道のりの中にあるあるこの踏切は、俺、櫨村誠が、世界で最も嫌いな踏切である。

なぜ嫌いかって、1度捕まると、かなり長い。いわゆる「開かずの踏切」である。

この道が通学路だった中学校時代の俺の3年間は、つまり、この踏切との戦いだったと言っても過言ではない。

いかにしてこの踏切に捕まらずに通るかを考え、何時に家をでて、どのくらいのスピードで歩けばいいのかを計算する日々を繰り返した。

そのおかげで、中1の頃は、週3くらいで引っかかっていたのが、中2の冬ごろには、ほとんどひっかからなくなり、名もなき踏切との戦いに終止符を打ったのを覚えている。


だが、やられた。

スピードを上げるのが少々遅く、目の前でただ遮断棒が閉じていくのを見つめるしかなかった。

ほどなくして、ガタンゴトン、という音と共に電車が横切っていった。


マジかよ…。

中2の冬から、この前の卒業まで約1年間、ほぼ負けることはなく、俺の完全勝利で終えたはずだったこの踏切との戦いに、

負けた…だと?

日曜日の午前中。人も車も少ない路地で、人知れず屈辱感を味わう、俺。


CDを10時までに返すことだけを考えればまだ余裕はある。それでも感じる敗北感。高校生にもなって踏切ごときで一喜一憂してていいのかとも感じたが、たかが踏切、とクールに振舞える大人ではない多感な自分を受け入れることにした。


…タイムリミット残り22分。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ