What is your name? (2)
「いやぁー、長かったなあ、校長の話よぉー。」
横を歩いている鮎原一馬が、何か喋っている。俺に。
その数メートル先で、何か友達と喋っている。あの子が。
「・・・つーかやっぱ多いなあ1年生なあ。可愛い子も、まあぼちぼち・・・な?」
「あー。」
「・・・おい。誠。」
「・・・・あ、え?」
「・・遅えよ気付くのが。」
校長の長い話が終わり、教頭の閉会の言葉と共に入学式は午前中のうちに終了し、
新入生は、各クラスごとに教室へ戻った。
予定としてはこの後LHRが30分程度あって今日の日程は終了。
今は、LHRが始まる12時20分まで、しばしの休息。
教室に戻ったとき時計は、12時ちょうどを指していた。
机に20分間座ってるのもつまらないし、教室には、まあ・・あの子はいたが、ずっとじろじろ見てるのもあれだしなあ、ということで、廊下にでると、
似たような境遇の一馬を見つけ、なりゆきで二人、廊下の壁によりかかって冒頭の会話・・にはなっていなかったが、そこにいたる。
まあつまり、よりかかった壁からちょうど4組の入り口付近で喋っているあの子が
視界に入ったので、無意識に見つめていて、一馬の話は上の空。
そういう状況である。
でもそういう状況だ、と横の一馬が納得するはずもなく、
「誠・・。お前大丈夫か?熱とかあんのか?」
と、結構マジ顔で心配してきた。
「いや、大丈夫だって。うん。」
ぱっと一馬の方を向き、笑う。
「・・・ほんとか?」
いぶかしげな目でこっちを向く一馬。
「ほんとだって。」
「そうか。・・で?」
「え?・・で?って何が?」
「いや、だから、結構可愛い子もいるな、って話。」
と、一馬が言った瞬間、自分の体温が2度ぐらい上がるのを感じた。
「え?ああ、お、おお。まあな、うん。いるよな。うん。」
あれ?まずい。なんか変に意識しちまってる・・。自然な会話だろ。うん。落ち着け!
「・・?なんでお前がそんなテンパってんだよ?」
「い、いやテンパってねーし。いやまあうんいるよな、可愛い子はな。」
「へー。お前のクラスにも?どんな人?」
「え!!??いやお前、ど、どんな人ってお前そりゃ・・・あの、女の子だよ。」
「・・・・・・・。」
急に、一馬が黙りこくった。で、俺のほてった顔をじっと見てくる。
「な・・なんだよ。」
「いや・・・面白いくらいわかりやすいなー、お前。」
「へ?」
全部話した。っていっても初めて会ったのが朝だし、全部話して主要時間2分。
「あははっ。ぶつかって一目ぼれって・・。ベタだなー。」
「ベタベタだよ。」
結構まじめなトーンで話したつもりだったが、話を聞いていた一馬は、終始笑っていた。まあ、うん。こんなやつだ。
「で?どこにいんの?その一目惚れした人は?」
興味津津に聞いてくる。そのテンションに、軽く引く。
「・・・ほら、4組の入り口にいる、あの・・あれ?」
気付かれないようにあの子の方を指さした、つもりだったたが、さっきまでいたところに、あの子はいなかった。あの子と一緒に喋っていた女子数人はいるのに。
「あ、いまいないな。ま、いずれ分かるだろ。」
「ふーん。成程ねぇ。入学早々青春してんなあ、誠君バカヤロー。」
親戚に1人はいる威勢のいいおっさんみたいなノリで、がんっっと肘で小突いてきた。
「いてーよ。」
微妙な反抗。
「あ、わりい。あ、つかトイレ行かね?時間もあとちょっとだし。」
「・・いいけど、今結構人いっぱいいるぞ。向こう側の講義室のあたりのトイレにしない?」
「おお。そだな。」
廊下を歩く時も、さりげなくあの子を探してみる。でもいなかった。
わざわざやって来た講義室側、西側のトイレだったが、思いのほかぼろかった。
看板もとれかかっている。他の生徒もトイレ付近にはいなかった。
「・・なんでこんなぼろいんだここ。」
「俺が知るかよ。」
とかいいながら、ドアノブを回し、中に入る。
と同時に、一瞬思考が停止した。
あまりにもトイレが臭かった、のではない。
ゴキブリがかさかさと動いていた、のでもない。
ドアを開けて正面の蛇口にいたのは、
ゴキブリではなく、
女子だった。新品のチェックの制服を着ている。
え?なんで?女子がいんの?
鏡を向いている後姿でも、正真正銘女子だとわかる。
コンマ数秒の、沈黙。
横の一馬も、固まっている。
鏡越しに、ふと、後姿の女子の顔が見えた。
と同時に、全身の毛穴から変な汁が出てきた。ように感じた。
おいウソだろ・・・。
あの子であった。見間違いでなければ。
いや見間違うはずがない。
え?まさかそんな・・そんな事って・・
なんであの子が男子トイレに・・!?
「いやアホかお前!鈍すぎやろ!」
もし横に関西のツッコミ上手な芸人がいたら、そう俺にツッコんでいたに違いない。
でも残念ながらここは関西でもないし、横にいるのは、固まっている一馬だけだ。
少しづつ復旧していくおれの脳内回線とともに、正常な思考を徐々に取り戻していく。
そしてようやく、過ちに気付く。
ああ、ここ女子トイレじゃないですか。
僕らがドアノブを開けてあほ丸出しでインターしたのは、そう
女子トイレじゃあないですかあ。
だから前にはあの子がいるんだな。
偶然にも最悪な状況で居合わせてしまったわけだな。うん。納得。
やっと状況理解。
でも、遅すぎた。あの子は既に気付いていた。
鏡越しにこっちをもう、すげーガン見してる。
おいおいおいおいおいおい・・・。まじかよ。
やっっべぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~・・・・・・。