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第二姫様付き侍女のお話  作者: REDPINE
本編~ニナ視点~
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4

 目を覚ませば、そこは王宮の見慣れぬ一室であった。

 私は小さなベッド(といってもセミダブルはあるが、私がこの世界で育った環境に()る経験からすると小さい)に寝かされていて……。

 周りを見ると、そこは社交界で疲れた貴族が一休みする為に用意されている部屋の様で。

 昔、まだ実家に居た頃に社交界へと出た際――人の相手をするのに疲れた時に使用した事のある部屋とよく似ている事からそう判断した。

 華美過ぎずシンプルだが、高級感のある意匠で統一されている家具が部屋の至る所に設置されてあったし。


 ……はて?

 私は今日は社交界にでも来ていたのだろうか?

 そう考えながら自分の身に着けている衣服を確認。

 服は、いつもの侍女服だ。

 ちょっと首元のボタンが2つほど外されて、エプロンとホワイトブリムがなくなってはいるが、問題ないの範疇(はんちゅう)であろう。


 って、侍女服?

 ……あれ?

 じゃあ、社交界ではない?

 ってことは……どうゆうことだ?


 自分に何が起こったのか記憶を甦らせていると、リリーディア様の愛らしい、天使とも妖精とも見紛うばかりの姿を思い出す。

 と同時に、自分に――いや、姫様に何が起ころうとしたのかが芋づる式に思い出された。



「っひ、姫さ……痛ッ!?」



 目を見開き、慌てて体を起して部屋を飛び出そうとする。

 が、それは後頭部と背中に走ったかなりの激痛で、悔しくも布団に逆戻りさせられることになった。

 背中を丸めたら――というか、少しでも動かしたら激痛が走るので、私は仰向けのまま大の字となって悶絶する。

 本当はのた打ち回りたい。

 いや、それより姫様があの後どうなったかが気になって仕方がなかった。

 意識を失う前に見る事の出来た姫様は、怪我というほどの怪我を負った様子は見受けられなかった。

 けれども、あの時の私は無我夢中で、姫様を助けるのに必死過ぎて力加減が出来てなかった様な気がする……。

 というか、出来てなかったと思う。

 だって、思いっきり姫様を投げ飛ばしたし、反動でこの有様なんだもん、自分が。

 見た目は無事そうに見えたけど、見えない所に怪我を負われているかもしれない。

 私が原因で姫様に怪我なんて……?!!



「……っ!

ぅうっ……姫、様…………!」



 私は痛みを堪えながら体を起こし、見苦しくも若干呻きながらベッドから立ち上がろうと、足を下ろした。

 あ……靴がない。



「……いいや。

靴がなくとも、裸足でも……私は、姫様の元へ行って、姫様が御無事であらせられるのを、この目で、見なくては……うぅっ……!」



 地に足を付け、全身に掛る重力が後頭部と背中の痛みを助長させ、肺が締め付けられるような思いをしようとも、姫様の無事を確認するまでは自分がのうのうと休むことは許せない!

 そう考えてその場に立ちあがろうとすると。



 カチャリ……!


「……っ!?何をしてるんだ!」



 部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。

 そして、開口一番に強い口調でそう問いかけてきた。

 けれども、私はまるで生まれたての小鹿の様に力の入らない足を見つめていることしかできず、入ってきた人物を確認する事が出来ない。

 それに加えて、痛みが酷過ぎて声を出す事も顔を上げる事も出来ずにいた。

 すると、声をかけてきた人物はツカツカと早足に私のすぐ傍までやってきては、まるで救いあげるかのように私をお姫様だっこで抱え上げ(背中に手をやらないで!痛い……)、再び元の場所――先程まで横になっていたベッドへとソッと優しく降ろされるのであった。

 後頭部と背中にさらなる痛みが走り叫びそうになる。

 が、それを何とか意地でもと堪え、目を伏せて耐える。

 痛みがじわじわと治まってくると同時に、フワリとしたベッドの感触が背後に伝わって来た。

 先程までの、私を苦しめていた全身を襲う重力がなくなって楽な体勢となったことで、痛みが少し和らいだ(と言っても未だにジンジンと痛いが)ので、私は安堵するようにホッと息を吐いた。

 と同時にため息が近くから聞こえてくる。

 私が瞼を持ち上げそちらへ視線を向けると、そこには、第一王子様付きの侍従であらせられる、ローライド・ノクバース様がいた。

 彼は私を呆れた目で見下ろし、ため息に続いて声をかけて来る。



「まだ然程(さほど)時間も経っていないというのに、君は何をしているんだ?

まだ、ヒーリングも施していないんだぞ?

痛むのは当たり前だ。

顔色も良くなってきていたというのに、また血の気が引いてきている。

無茶をするな。」


「えっと、あの……申し訳、ありません。」



 早口で捲し立てるようにそう言われ、私は素直に謝った。

 その謝罪を聞いて、ノクバース様は呆れた表情でまた一つため息を吐かれた。

 何とも居た堪れない……。



「……あの、本当に、大変ご迷惑をお掛けしました。」


「あんな危ない無茶な事は、もう二度としないでくれるといいがな。」


「う……は、はい。」



 彼の言う“あんな”に、先程の無謀な事を言われているのか、それともパーティ会場での無謀な事を言われているのか定かではないが、前者だと勝手に解釈して、私は返事を返す。

 後者だったらこんなに素直に返さないけどね。

 もし、似たような、愛くるしいあの姫様に危険のある様な事が起こったら、きっと私は何度でもこの身を呈してあの方をお守りするだろう。

 例えそれが後で自分に、今回みたいなかなりの激痛を伴った手痛いしっぺ返しが来ると知っていても、きっと……。

 と、そこでふと一つ、頭に疑問が浮かんだ。


 何で、ノクバース様の様な雲の上のお方がこんな所に居るんだ?


 目の前で溜息を(しき)りに吐いているこのお方――ローライド・ノクバース様といえば。

 フワフワの金髪にエメラルドを嵌め込んだような瞳の、春の暖かな日差しを思わせる様な顔つきの、穏やかな微笑みが売りのイケメン。

 どこぞの国の王子様の様な外見にもかかわらず、第一王子様付きの超優秀な侍従としてもかなり有名で。

 彼は将来、国王になる第一王子様――デュワイリス・ガスターナ様の右腕とも言われ、彼のお方が王座に着く時、ノクバース様はきっと宰相になるであろうと言われている、エリート中のエリートだ。

 そんなお方が、何故こんな所に?

 しかもその顔を、噂に全くそぐわない、秋の夜を思い起こさせるような玲瓏とした表情にして。

 いや、穏やかな雰囲気を纏ってフワリと微笑んだら、確かに春の日差しの様な噂通りの表情になるとは思うんだけど……なんで?


 私の顔に、何でここに居るの?という気持ちがありありと浮かんでいたのだろう、ノクバース様はまた一つため息をついて口を開いた。

 そんなにため息ばっかり吐いてらしたら、幸せが芋づる式に根こそぎ引き抜かれていってしまいますよ?

 誰にかって?

 もちろん人の幸せを妬む悪魔にです。



「はぁ~……私がここに居るのは、バルコニーに激突した君を抱えてこの場に運んできたのが私だからだ。

ついでに言うと、イリス様から妹の命の恩人である君の手当てをするようにと言い遣ったのもある。」


「それは、大変ご迷惑を……いえ、お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。」


「全くだ。

と、言いたい所だが、君がああでもしなければ、ディア様は今頃無傷で居られなかっただろう。

だが、無謀すぎだ。

君が体を張らずとも、魔法を使ってもっとスムーズに事が運べただろうとも思う。

だから、今回の事は大いに反省する事。

私に関しては、丁度パーティにも飽きてきた所だったし、媚売(こびう)る貴族が鬱陶(うっとう)しかったから、むしろ助かったというべきだな。

だから私については、君が責任を感じる必要性は全くもってない。」


「……はい。」



 更に表情を歪めて、その媚売る貴族の事でも考えているのか、不愉快そうにそう言うノクバース様。


 ……って、あれぇ?

 ノクバース様って、こんな方なの?

 春の日差しは何処に落っことしてきちゃいましたか?

 以前第一王子であらせられるデュワイリス様のお傍におられた際は、遠目でしかその御尊顔(ごそんがん)を拝見したことがなかったし話したこともなかったが、穏やかな雰囲気で暖かな春の日差しの様だった様な……?

 えっと、双子?

 いやいや、双子がいるなんて聞いた事がない。

 いや、そんな事はどうでもいいか。

 今はノクバース様がもたらしてくださった情報だ!

 姫様が無傷!無事、無傷だったらしい!

 良かった!安心した!


 私がホッと安堵の息を吐くと、彼はこの話はここまでと言わんばかりに話題を変える。



「さあ、手当てをしよう。

まずは後頭部を見せてくれ。」


「はい。」



 ノクバース様に言われるまま、私は後頭部を見せようとうつ伏せになろうと試みる。

 が、やはり相変わらず激痛が走るので、特に何も言わずに手を貸しだして下さった彼にその御手を借りながら、時間をかけてゆっくりとひっくり返ることに成功した。

 まあ、反動でまた少し痛みが増したが、しょうがないだろう。



「触るぞ?」


「はい。」



 返事を返すと、ノクバース様の少しひんやりとした掌が、熱を持っている、(こぶ)の出来ている私の後頭部に優しく当てられる。

 ちょっとヒリヒリするけど、このひんやり感が気持ちいいな……。



「思ったより腫れてるな……ジッとしてろよ?」



 その言葉と供に、波打つようなリズムで温かな感覚がノクバース様の掌から流れて来る。

 ヒーリングの魔法で治療してくれているのだ。

 まるでホットアイマスクをしているようだと思いながら、心地よさに自然と瞼が落ちる。

 その感覚は数分続き――。



「よし、ここはもういいな。」



 そう言いながら、優しく気遣うように頭を撫でられて、つい子供の頃に父に撫でてもらった感覚の様だと少しおかしく思えて笑みが漏れた。

 まぁ、うつ伏せの状態だから、私が笑んでいる様子は彼には伝わらないだろう。

 まさしくその通りの様で、彼は特に何かを言うでもなく、私の後頭部を撫でて確認した後、とんでもない一言を投下した。



「では、次は背中だな。

一先ず傷を見るから、脱げ。」


「はい、わかりまし……って!うえええぇぇっ!!?」



 私は驚きのあまり、素直に肯定の言葉を返す途中で叫んでいた。

 バッと彼の顔を見ようと首を動かすと、後頭部の痛みは全く以て感じなかったが背中が痛んで呻きたくなった。

 が、最初に比べれば頭の痛みがない分、幾ばくも楽な痛みなので、それに耐えてノクバース様を驚きの表情で見つめた。

 すると彼のお方はキョトンと小首を傾げ、何でもない事の様にさらっと……そう、さらっと!さしも当然の様に、幼い頃に誰しも習う話を持ち出してきた。



「何を驚いている?

ヒーリングを掛けて治療するのにどの程度の傷か分からなくば、どれくらい魔力を込めればいいのか、また、どれ程の範囲に魔法を掛ければ良いのか分からないだろう?

魔法学の基本だぞ?」


「いや、そうですけどっ……!?」



 私が聞きたいのは、っていうか驚いているのはそう言う事じゃないんですってば!

 少し、彼の天然疑惑が浮上したが、その事については口を閉ざすことにした。



此処まで読んでいただき、ありがとうございました。

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