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あれから、私が侍女生活を始めて早くも4年――。
実に月日が経つのは早いもので、私は侍女歴4年――御歳20歳となっていた。
未だ良い巡り合わせ・出会いはなく、一度夢に見た王子様(この国の第一王子様は私と同い年であったので)との出会いも、特に恋愛フラグが経つ事もなく呆気なく終わり、ただただ、愛らしい幼姫様の世話で日々を過ごす、とても充実した日々を送っている。
フフフ……また今日も、目から汗が……。
この何とも言えない気持ちを切り替えるよう、私が世話をさせていただいている愛らしい幼姫様の話をしよう。
私が付いている幼姫様は、御名前をリリーディア・ガスターナ様と仰られ、王妃様の第4子――この国の王位継承権第四位のお姫様だ。
ちなみに側室はいらっしゃらない。
別に側室がいてもいいのだが――我が国の国王は愛妻家で有名なのだ!
余談として――。
リリーディア様には上に二人のお兄様――王子様がお二人と、一人のお姉様――姉姫様がいらっしゃられる。
兄弟仲はかなり良好で、しばしば一番小さなリリーディア様を甘やかしに来るほどだ。
日に一度なんてざらだ。
多くて日に10回近く来られる。
それもたいていが個別でなので、皆様方の来訪回数を合わせれば30回近くになるだろう。
仕事はしているのだろうか?
特に第一王子様(御年20歳)。
まぁでも、そうやって会いに来たい・甘やかせたいのは本当によく分かる。
だって、リリーディア様ったら愛らしいのなんのって!
齢4歳を迎えたばかりで、未だにフクフクとした頬はまるで陶器の様に滑らかで、王妃様に似たのだろう、まん丸く愛らしいサファイアを嵌め込んだような瞳に、蜂蜜を溶かしこんだような輝かんばかりのたおやかに波打つ毛髪。
もう、明らかに誰が何と言おうとお姫様って感じの(いや、お姫様なんだけど)愛らしい少女だ。
仕草も話し声も何もかも!
姫様を形作る全てがもう、奇跡の様な、愛らしい以上に愛らしい――いや、そんな言葉さえチープに思えるくらいに素晴らしい存在だ!
そんな彼女と離れるのが嫌で、ずっと彼女と付きっきりだった(あと、始めての侍女業務を覚えるのに必死だった)から出会いなんて探す間が無かった――とは、やはりただの言い訳でしょうか?
まぁ、それくらい私が入れ込んでいると言えば、聞こえが少しは良くなるかしら?
……ならない?
ま……まぁ、その事は置いといて。
今日も今日とて、そんな幼姫様のお世話に余念がないニナーヴィアであります。
うん。
このまま良い人が見つからなくても、リリーディア様のお世話が出来れば悔いは残らないかな?
いっそ、ずっと姫様について侍女をするのもいいかもしれない。
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そんなある日――。
第二王子様の成人の儀が行われるという事になった。
そして、そこにリリーディア様を出すとの事だ。
今まではまだ早いと言ってどんな席にも出席されてなかったが、もう四歳でしっかり自分で歩け、言葉もはきはきと答えられるようになったから、少しは式に出そうということだろう。
けど、私達侍女は知っている。
実は娘があまりにも可愛らし過ぎて、父である国王が皆に早く(普通、この国ではお披露目は10歳くらいだ)お披露目して自慢したいという魂胆から来るものであると……。
分かります、国王様!
確かにこの愛らしさは目に入れても痛くないですし、自慢したいですし、羨ましがられたいですものね!
私はワクワクと、そのお披露目の日――リリーディア様の晴れ舞台で巻き起こるだろう、貴族達のどよめきや唖然とした表情を妄想しながら、その日に着る衣服の準備に同僚の侍女たちと楽しくおしゃべり(もちろん、話題は幼姫様のお披露目の日についてだ)に興じながら選んでいく。
「やっぱり、リリーディア様はピンクがお似合いよ!
柔らかな乳白色で薄っすらと赤を溶かしこんだようなピンク!
これに限るでしょう!」
「いいえ、白も良いわ!
真っ白でリリーディア様の純真無垢な様相を表現するには純白が一番ではないかしら?」
「この淡い淡黄色はどう?
姫様の神々しいまでの御髪の美しさが、なお一層際立つと思うわ!」
「あら?
なら、この淡い水色なんてどうかしら?
姫様の瞳と同じ寒色系で、もちろん御髪にも似合いますわ!」
「どのお色も、姫様を引き立てるには最高のお色で迷ってしまいますわね……。」
「ええ……。」
私の締めくくりの言葉に、皆が溜息にも似た同意の言葉を洩らす。
本当に、どれも姫様には似合いすぎて選べない!
ああでもない、こうでもないと議論に議論を重ね、結局は子供らしい淡いピンク――一番最初に上がった色に決定した。
色を選んだ後はドレスの模様や形だ。
もちろん、フリフリやレースは確実に入れる!
そして、よく動く姫様の為に、転ばないような少し短めの丈(といっても踝はしっかり隠れているが……)にして、それでいて動きに支障がない様な形が良い。
皆でまたもやどんなのが良いか提案しては、ドレスを作る仕立屋の商人(ニコニコと全く笑顔を崩さない商人の中の商人の女性だ)と相談していく。
そうこうしている内に、何とかドレスについては決まり、早速とばかりに仕立屋は城を後にしたのであった。
そして次いで、宝石商(こちらも鉄の笑顔を顔に張り付けた商人の男性だ)を招いてのアクセサリー選びだ。
もちろんドレス同様、既製品ではなくオーダーメイド。
まるで花の妖精の様な姫様に似合うよう、花をモチーフにしたい。
そう私が意見を言うと、皆も同意見であったのか、当然とばかりに頷いてくれた。
そして、それぞれがまた意見を出し合って、どんな花にするか相談していく。
「もちろん、姫様の花は入れたいわね。」
「ああ、リリディアの花?
良いわね!
あれは小粒で愛らしいし、淡いピンクのドレスと相まって綺麗でしょうね……。」
ホウ~…ッと、皆が皆その花を想像してため息をつく。
リリディアの花は、国王様が愛娘であらせられる姫様の為に、わざわざ品種改良して作らせた花で、形はコデマリに少し似ているかもしれない。
淡い水色を中心に、五枚の五角形の透き通る白の花弁を付けた、 小指の爪程もない小さな花がいくつか集まってできている花だ。
中心の部分を姫様の瞳を淡くしたような色のブルートパーズで、花弁をムーンストーンかダイヤモンドで作って……。
花の大きさは、姫様の負担にならない様に小さめで、でも幾つか連なる様にしても良いかも……。
私は早速その意見を述べるべく口を開いた。
すると、私の意見に、今度は皆が納得したみたいで、中心はブルートパーズ、花弁はダイヤモンドで作る事となった。
ただ、その時の宝石商が笑顔を少し引き攣らせていた(商人根性はどうした!?)事に申し訳なさをほんの少し感じてしまったが……。
どうやら、このリリディアの花の形は加工するのが難しいらしい。
でも、そこは何とか頑張っていただかないと!
姫様の愛らしさを表現する為にはこの花が一番ですからね!
こうして大まかな宝石の発注は済み、他にもちょこまかとした物品についてや髪形、化粧について話し合って、姫様のお披露目の準備が何とか整ったのであった。
ああ、お披露目の日が楽しみ!
此処まで読んでいただき、ありがとうございました。