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耐え忍ぶ者

作者: ソレイユ

お下劣な内容を含みますので、食事中の方や苦手な方はご遠慮ください。

 忍ぶ、とは気配を隠して気取られぬようにすることであり、じっとこらえ耐えることである。まったく、忍ぶ者と書いて忍者とは言いえて妙だと、天井に張り付きながら思う。

 忍者は当然気配を消して忍び込んで任務を果たすのが常であるわけだが、忍び込んだ先でじっと息を潜め待つことも非常に重要だ。耐えられぬものに、命の保障はない。

 

 かく言う俺も、現在進行形で忍んでいる真っ最中だ。今回の任務は、某有名な政治家の恥ずかしい秘密を暴いてこいというものだ。

 

 正直どうかと思う。恥ずかしい秘密とか暴いてどうするんだよっていうか恥ずかしい秘密って何だよ、SMプレイに興じている写真でも撮ってくればいいのか。だいたい、現代日本においてこんなことに忍者を使うってのもどうかと思う。時代錯誤にもほどがある。まぁ、これなら正しいって任務もないんだけど。もし自分に安定した職があれば、今すぐこんなことはやめてやるのに。


 心のなかで愚痴を吐きながら、天井に張り付くこと既に3時間。いまだ対象は隙を見せない。椅子に座って優雅にコーヒーを飲みながら今流行りの恋愛小説なんかを読んでいる。

 すかすかのバーコードみたいな頭してなにいっちょまえに恋愛モノとか読んでやがる。育毛剤なんて塗っても無駄だあとは不毛地帯になるのを待つだけだろうああちょっとめくんの早い! まだ読めてないからちょっと待て良子ちゃん今なんて言ったのってだからめくるの早いって今すぐ残り少ない毛生終わらせてやろうか!?


 と、心の中で罵倒していると、対象が本を閉じて大きなあくびをした。どうやら読書はおしまいらしい。いいぞ、そのままSM嬢でも呼ぶんだ。さっさと終わらせて帰らせろ。

 しかし俺の願いに反して対象は、


 きゅるるるる!


 !!! まずい!


 対象が不思議そうにあたりを見渡すが、俺は見られぬように絶妙に梁の裏に隠れる。対象は俺の姿を見つけられなかったようで、視線を手元のパソコンに戻した。

 俺は、ほっと一息ついてうぉぉぉ!! あわてて尻に力をこめる。

 まずい非常ににまずい。なにがまずいってもうとにかくまずい。どうでもいいことをつらつらと考えて気を紛らわすフェイズは終わった。一瞬でも気を抜いたら漏れる。状況は逼迫している。ここでもらしたら、人間として大切なものを失う気がする。いや、確実に失う。

 あぁ、やっぱり朝ご飯の生たまごが悪かった。だから『新鮮取り立て生卵』にしておけといったのにあのバ……。


 年齢不詳の上司に向けて愚痴を吐いていると、猛烈な寒気に襲われ、慌てて尻の穴を締め直した。

 脳裏に浮かんだのは、慈母(おに)のごとき微笑みを浮かべている上司。嘘だろ、ここから隠れ家までどんだけ離れてると思ってんだよ。敏感すぎだろ。


 我慢しているうちに、段々と痛みが収まってきた。ふぅ、ようやく波が去って一息つける。しかし、まだ状況が根本的に改善されたわけではない。とっとと任務を終わらせて帰りたい。我慢してないで早くSM嬢呼べって。


 俺の切なる願いは届かず、対象はパソコンでなにかを検索しだした。

 パソコンの動画見てるだけじゃなー。どれだけひどいSMプレイでも、動画じゃ弱いんだよなー。やっぱり実践してもらわないと。

 

 あ、しかも見てるのニュースだ。情報収集は欠かさないってか。頼むからSMの情報でも集めしてくれよ。今ならおすすめのサイト教えてやるから。






 張り付いてかれこれ五時間が経過。体力的に張り付いているのは苦ではないんだが、いかんせん腹具合がいかん。

 今までで既に三回波が来てる。しかも間隔が短くなってきてる。そろそろ決壊してまうで。

 あ、波っていうのはあれ、痛みが引いたり増したりするやつ。波が引いたり寄せたりするのにかけてるのだろうか、よく知らないけど。

 そんなどうでもいいことをつらつらと考えている間にも波が襲ってきてる、ヤヴァイ。脂汗がべっとりでてる。ここまでくるともうね、もう負けても良いんじゃないかって思考がちらほらと。あぁ、もう楽になりたい……。


 

 ぷるるるる! 突然聞こえてきた電話の音で意識を取りもどす。あぶねぇ、どこかとんでた。負けちゃならんだろう。諦めたらそこで試合終了ですよって。

 対象は電話の相手と話し込んでいる。聞き耳を立ててみると、どうやらお偉いさんか何かが相手のようだ。やったらぺこぺこしながら話している。電話の相手が目上だと、見えてないのにぺこぺこしちゃうよね。良く分かるわー。


 しかし、なかなか隙をみせないな……。ガードが固い。俺の尻のガードはそろそろ限界だ。


 というかなんなの。俺はこうして脂汗流しながら腹の痛みに耐えているのに、対象はまた優雅に読書を再開した。めっちゃ腹痛いんだけど。軽く言ってるけど、七転八倒モノだからね?


 あーなんか腹たってきた。頭きたわ。同じ苦しみを味あわせてやるわ。




 俺は、懐から下剤を取り出す。こいつはとても強力なやつで、ひとたび飲めば出し尽くすまで止まらなくなる。否、出し尽くしても止まらない。しかも即効性だ。この薬の恐ろしさは、俺が身をもって知っている。あの時は5キロは痩せた。


 ばれぬよう、糸を机のコーヒーに向かって垂らし、それに沿って少しずつコーヒーに下剤を垂らす。後はやつが飲むのを待つのみ。さぁ、終わらぬ腹の痛みに苦しめ……! 


 対象はまったくの無警戒に、コーヒーを口に含んだ。そして数秒後、さっと顔を青ざめさせた。ふはは、ざまぁ! 俺が痛いの我慢している間にのんびりとしてやがるからだっふおおおお!!

 ぐおおお、やばい、今までで一番の波が来た! ちょっまずい! これは我慢できないレベル! トイレ!


 対象がトイレに向かっているのを追い越して、トイレに滑り込む。姿を見られたが、そんなもの大事の前の些事だ。漏らすことに比べれば、なんてことはない。

 そうだ、俺は何を躊躇っていたんだ。堂々とトイレに行けばよかったんだ。ここは天国だ……。


 

 どんどんとやかましく扉を叩く音が聞こえる気がするが、気にしない。今の俺は、間に合った幸福感で溢れている。ふぅ……。




 全てをやりきった顔で俺がトイレを出ると、そこには誰もいなかった。

 仕方ない、と割り切って俺は隠れ処へ帰った。


 


 後から聞いた話だが、対象の政治家は家のトイレが使えないと分かると、急いで外のトイレ目指して飛び出し、その先で耐え切れずもらしたらしい。たいしたスキャンダルではなかったが、依頼主的には満足したんだと。結果オーライ。


 ちなみに、報酬はあのバ……お姉さんが全部生卵に変えやがった。一個10万の卵ってどんだけぼられてんだよ! 

 しかも、高いから大事に食ってたら腹壊した。もう二度と卵は食わねぇ。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 地位も名誉もあるオッサンが今流行りの恋愛小説を読んでるだけでも結構スキャンダル性が? いや、逆に可愛いとか言われちゃうのかな?
2013/08/21 16:07 退会済み
管理
[良い点] まえがきの誠実さ。 内容が本当のお下劣で、まえがきに対して誠実過ぎて 好感度がうなぎのぼりで上がりっぱなしでした。 [一言] お前は本当に忍者なのかと。 段々いい加減になっていくバイト感…
[一言] こんにちは。お腹を壊した様子が詳細に伝わってきました。綺麗にまとまっていましたが、ちょっと弱いおちだった気が私はしました。
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