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一章

 薄暗い部屋の中、カタカタと何かを叩く音が響く。ベッドがあり、本棚があり、机があり、机の上にはパソコンがある部屋の中には、一人の少年が居た。

 少年の名前は杉野正騎。日本国某県内でも有名な明日希高校に通う高校二年生である。

 正騎の弄るパソコンには、日本離れした色鮮やかな建物や大きな鎌を背負った人物などが繊細なグラフィックで描き出されている――これはMMORPGの『すべて必勝の大魔王伝説・オンライン(通称すべ必)』であり、彼のお気に入りのネットゲームだ。

 ポン、と軽い効果音が鳴ると、画面中央に立っていた二人の人物の上に吹き出しが現れた。


〔ミント+:やっぱり白銀さんはすごいですね~〕

〔イギアイラ:俺らだけだったらボスのところまで行けなかったかもT_T〕


 正騎は返事を返すためにエンターキーを一度押し、チャットウインドウを開いてキーボードを慣れた手つきで叩き、言葉を入力した。ポン、と軽い効果音と共に吹き出しが一つ増えた。


〔白銀の騎士:三人で行ったから勝てたんだよ〕


 「白銀の騎士」はAH上の正騎の名前であり、「ミント+」と「イギアイラ」はすべ必で知り合った友達だ。正騎はこのAHを大層気に入っており、心からこのゲームを愛していた。愛していると言っても、ネットゲーム依存症という訳ではない。世界観やストーリー、グラフィックにスキルシステムと言った物を評価しているだけだ。


〔ミント+:白銀さん 今日は朝早くにありがとうございましたぁ!〕

〔イギアイラ:よければまたダンジョン攻略の手伝いたのみます^‐^〕

〔白銀の騎士:うん、もちろんだよ、また誘って!〕

〔イギアイラ:では、自分はそろそろ学校へ行く準備があるので。お疲れっす!〕

〔ミント+:私もバイトがあるのでここらで失礼します〕

〔白銀の騎士:うん、じゃあね。二人とも行ってらっしゃいー〕


 正騎は幼い頃からゲームやアニメ、漫画と言った物が好きだった。その中でも特に非科学的なことを題材にしたものが本当に大好きだった。だからこそ、彼は一つの疑問を常に頭の中に浮かべている。


《 どうしてこの世界には魔法や超能力が無いのだろうか 》


 科学が発達すると同時に、黒魔術や錬金術などは廃れていった。科学的根拠のない物を皆は信じず、それが無い物だと決めつけた。正騎にはそれが不運に思えて仕方が無かった。ほんの数世紀昔に生まれていれば、黒魔術を唱えていても誰も不思議には思わなかったかもしれない――などと考えては――いっそ、すべ必の世界にでも入れたらいいのに――と考えるのだった。

 ピロン、ピロン、と安っぽい音が鳴る。正騎には何の音だかすぐにわかった。


〔ささやき:ナナシ:貴方様の住む世界には、近い内に魔王様が現れまーす!〕

〔ささやき:ナナシ:然も然も! 貴方様はそれを目撃することに成るのです!〕


 この安っぽい音はささやきモード――一対一チャットの受信音である。

訳の分からないことを話す「ナナシ」に、正騎は返事を返すべきか否か決めかねていた。暫く考えた結果、顔が見えないということ利用して暴言を吐いてトンズラする、という奴が偶にいるため、この「ナナシ」もその手の者だと判断した。


〔ささやき:ナナシ:否が応でも魔王様は貴方様を巻き込んでしまうのでっす!〕

〔ささやき:ナナシ:何故なら! 貴方様は絶対に魔王様からお逃げに成ることが、絶対絶対絶っっっ対、出来ないからで御座います!〕

〔お知らせ:「ナナシ」さんを、ブラックリストに登録しました。「ナナシ」さんからの取引、パーティー加入、ささやき、メール、フレンド登録、ギルド勧誘を遮断します〕

〔ささやき:ナナシ:魔王様に大人しく殺されるか、魔王様を殺そうと立ち上がるか、〕


「ん?」

 正騎は思わず声を漏らした。

「ナナシ」をブラックリストに入れたというのに、未だささやきを受信しているのはどういう事か。ブラックリストを開いて確認するが、確かに「ナナシ」と言うキャラクターの名前が表示されていた。バグとも取れる現象に、正騎は首をかしげた。


〔ささやき:ナナシ:其れをお決めに成るのは貴方様自身ですよ、っと〕

〔ささやき:ナナシ:貴方様のお答えは今月十七日、明日希高校にて拝見させて頂きまーす〕


〔システム:悪いね、ナナシの言うことは気にしないでくれ〕


 「ナナシ」が喋り終えると同時に運営側が告知をするときに流れるシステムチャットが流れ、こういうイベントなのだと判断しようとした。しかし、「ナナシ」は確かに正騎の通う明日希高校と述べたのだ。幾らなんでも特定の地名や建造物名を挙げるのはまずい。高校から苦情が来ても何らおかしくはない。

 正騎はすぐさまAHの公式HPを開き、イベントの詳細を探した。しかし、どこのお知らせ項目を見てもイベントなんてものは載っておらず、結局わからず仕舞いだった。

「んー? GMの突発イベントか?」

 と、口にしたものの、やっぱり学校名を上げるのはまずいのではないだろうかと考えていた。


〔システム:こんな時間にイベントをする、と言うのはどうかと思うね〕


 こんな時間と言われ、時計を見れば午前六時を指していた。八時には高校へ行かなくてはならないので、身支度を済ませてしまった方がいいかもしれない――正騎はそう考えたが、次の言葉に身支度のことなど忘れてしまった。


〔システム:杉野も杉野だ。自分の息子が不規則な生活をしているというのに〕

〔システム:何故それを止めようとしないのだか〕


「何で俺の名前を知っているんだ?」

 名字だけではあったが、杉野と言うのは間違いなく正騎の名前だった。もしかして、父の知り合いがすべ必の運営なのだろうか、と考えたが、システムで大々的に話す必要は全くないのではないか、と思った。


〔システム:ああ、その点は心配いらない。この内容はキミにしか見えていない〕


 この内容に正騎は、話かけてきている人は確実に父の知り合いだと確信した。

彼の父は表向き医者であるが、本職は司書である。何もそこら辺にある図書館の司書ではない。

 正騎は知っていた、この世界は科学の世界と呼ばれ、他にも数えきれないほどの世界がある、と言うことを。虚言を言っているわけではない――正騎の父親である杉野深夜が科学の世界住人(サイエンス)ではないのだ。正騎の父親は司書の世界住人(ライブラリアン)であり、司書の世界とは無数に存在する世界の知識や歴史を監視する、無数に存在する世界の中で最も知識に富んだ世界である。彼らは空想科学と呼ばれる司書の世界住人(ライブラリアン)の持つすべての知識と技術を用いた監視システムにより、世界間の行き来や誰が何を知っている、と言ったことを常時監視している。別の世界の知識や生物、物質などを自分の居る自世界に持ち込むことは禁止されているのだ。その禁を破る者が居ないかどうかを調べるのが司書の世界住人(ライブラリアン)の仕事である。

 禁を破ったものは〝絶対の境界線〟と呼ばれる絶対の世界住人(アブソリュート)に始末されるか、〝世界警察(通称WP)〟と呼ばれる世界際を超えた警察に捕まるらしい。

 正騎の母である杉野あやめもこれまた不思議なもので、五年前に亡くなったはずなのについ二日前、何事も無かったかのように家に帰ってきたのである。このことを正騎は「父さんの仕事上、母さんが生き返る何かあったのだろう」くらいにしか思っていない。科学の世界ではありえないことは、別の世界ではありえることなのだ。深夜はあやめが亡くなった時、一世界を監視する〝管理司書〟だったが、あやめが亡くなったことを気に病み司書の仕事を辞めていた。しかし、昨日からまた司書の仕事に戻ったのだ。

 こんなにも科学からかけ離れたことがあると言うのに、正騎の目の前では両親以外にそれらしき人や生き物に会ったことも見たことも無かった。(とはいえ、実際に父や母が非科学的なことをしているところを見たことは無い)

 正騎にはそれが腹立たしくてならなかった。

「うーん、父さんの知り合いだろうってことは分かったけど、ゲーム内から話してくるってことは機械に強い機械の世界住人(メカニカル)か?」

 正騎は深夜に「絶対に科学の世界住人(サイエンス)以外とは関わるな」と言われていたが、深夜の目を盗んでは父の仕事仲間とこっそり会い、異なる世界の情報を得ていた。

 しかし、情報は情報であり、妄想話を聞かされているのと何ら変わりが無く、非科学があるという事実だけを押し付けられ、実際に非科学を自らの目で見たくて仕方が無かった。


〔システム:メカニカルではないよ。深夜くんと知り合いなのは確かだがね〕


「やっぱり俺の言ってることが分かるのか? あんたは誰なんだ?」

 パソコンに向かって一人話しかけるのは何とも妙な光景だったが、正騎は全く気にせず声を出して質問した。システムチャットで話すこの誰かも、正騎の声が聞こえているかのようにそれに答えた。


〔システム:無色透明、とでも名乗っておこうか〕

〔システム:それにしても、時間が経つのは早いものだね〕

〔システム:意識を時計に向ければもうすぐ七時になってしまう〕


 ハッとした正騎は慌てて時計を確認した。

「やっべぇ! いい加減支度しないと学校遅れちまう!」

つい先ほどまで六時を指していた針はいつの間にか七時を指しており、急いですべ必を終了してパソコンの電源を落とした。

「一時間ってこんなに早かったか? 夢中になると時間が経つのは早いなぁ……」

 独り言をつぶやくと、正騎は顔を洗うために部屋を出ていった。

 誰も居なくなった部屋には何故か一つの影が存在していた。

 部屋のベッドに腰掛けるその影は青年であり、真っ黒な短髪に灰色の瞳、アメジストのピアスとマイク付きのヘッドフォンを付け、真っ黒な生地に黄金の矛と盾の装飾が施されたコートと長ズボンを穿いていた。コートは袖も裾も長く、大小さまざまなバッジが所狭しと付けられており、膝の上にはノート型パソコンが置かれていた。パソコンを弄る指先はバラバラの色に染め上げられていた――茜色、浅黄色、浅緑色、天色、菖蒲色。

「…………………」

 青年のパソコンには日本離れした風景と杖を持った人物、それから〔白銀の騎士さんがログアウトしました〕と言う文字が表示されていた。

「ナナシ、か。面倒なことになった」

 青年は誰かにいう訳でもなく、ぽつりと呟いた。

 その時、扉が開き正騎が部屋へと入ってきた。正騎は箪笥を開けると制服に着替え、通学鞄に机の上に置いてあった携帯を放り込み、鞄を手に部屋を後にした。正騎が部屋を出た時には青年も居なくなっていたが、正騎は初めから青年が居たことに気付いていなかった。

 科学こそが最も確信あるもの――その概念が覆される「魔科事件」は、「ナナシ」が「顔が見えないことをいい事に暴言を吐く人」に勘違いされたことによって誰にも気づかれずに始まるのだった。

 いや、正確に言えば二人、この事件の始まりに気付く者が居た。

 一人は「ナナシ」――後に魔科事件の首謀者と噂される神出鬼没の人物。そして、恐らくもう一人の名前は――――――――


〔システム:ん、もう名前を忘れてしまったかい?〕

〔システム:ではもう一度、無色透明、とでも名乗っておこうか〕


 ***


 明日希高校へ着いた正騎を待っていたのは、毎日のように繰り広げられているいつもの光景だった。

 一人の少女を数名の女子が囲み、不細工だとか、髪型が気に入らないだとか、適当で理不尽な理由をつけて小突いている。

「おい、その辺にしろよ。小学生みたいでみっともないぞ?」

 正騎はいつもの様に声をかけ、いつもの様に繰り広げられているイジメを静止させた。女子達はいつもの様に不服そうに正騎を睨みつけると教室へと走り去った。

「あ、い、いつも、あ、ありが、とう」

 少女はおどおどとした様子で正騎にお礼を言うと口元だけ笑って見せた。

 少女の名前は想真渚。正騎のクラスメイトであり、虐められてばかりいる童顔の少女だ。

 あまりにも見た目が子供っぽいため、高校生であるにもかかわらず小学生とよく間違えられている。

「いいって。でも、たまにはガツンと言いかえしてみたらどうだ? お前だってあんなことばっかり言われてたら腹立つだろ?」

「いい、の。初美、は、大人しく、耐える、子だから、ね」

 渚は見た目が子供っぽいから虐められているわけではない。

 彼女は〝くるっとマジカル!ういみぃちゃん!〟という女児向けアニメ(魔法少女モノ)が大好きで、自分も主人公の初美と同じく魔法が使えると言い張っているため虐められているのだ。

 正騎はいろんな世界があることを知っているため、別に「魔法」が使えてもおかしくないと考えているが、周りの人からすれば異常な考えだと思われている。

「おはようデス」

「あぁ、おはよー」

 抹茶アイスみたいな色の髪の少年が正騎に挨拶をした。

 この少年の名前は井水戸玄奥といい、彼も正騎のクラスメイトである。井水戸は井水戸でグレイと言う人に生き返らせてもらったなどと言っているが、正騎は疑いもせずそういうこともあるだろうと思っている。

 何せ、正騎の母親も生き返っているのだから否定しようがない。(もしかしたら、母さんもグレイって人に生き返らせてもらったのかもしれない、なんてな)

 井水戸は人当たりがよく虐められてはいないが、友達と呼べるほど親しい人も居なかった。

「なぁ、井水戸。今日火曜だからあの部活に行くのか?」

「はいデス。よければ杉野も来まセンカ? 今日来る転校生も英雄部に入ってくれるそうデス」

「転校生?」

 正騎は井水戸に尋ねたが、井水戸は笑うだけで何も答えずに教室へと行ってしまった。

井水戸の入っている英雄部とは「自分が体験した摩訶不思議な事件を話す場」らしい。そこではどんな空想染みた話も現実として聞いてくれるとか。(ちなみに正騎は英雄部を含む色々な部を掛け持ちしており、渚は部活動に入っていない)

 渚が「そろそろ、行かないと、授業、遅れる、よ?」と声をかけたので、正騎も教室へと向かった。教室の黒板には七月十一日火曜日と記されており、日直は渚だった。

 八時三十分からホームルームが始まり、担任の八千草やちぐさ(めぐる)先生は真っ先に転校生が来たと生徒たちに告げた。

「そろそろこの教室に来るはずだから、皆歓迎してやるんだぞ」

 そう言い終わるか終らないか、教室の扉が開き一人の男が入ってきた。

 見た目は未成年と言っても差し支えは無い感じだったが、彼の纏う空気は貫録のある老人を思わせるような威圧感があり、総合して言えば青年と言う感じだった。

 青年は黒い短髪に灰色の瞳、アメジストのピアスとマイク付きのヘッドフォンを付け、真っ黒な生地に黄金の盾と矛の装飾が施されたコートとズボンを穿いていて、コートには大小さまざまなデザインのバッジが所狭しと付けられていた。

 どう見ても私服の青年に、先生はおろか生徒達も言葉を失っていた。正騎は正騎で彼の持っている物に言葉を失った。

 青年の持っているバッジの一つが酷く見覚えのある物だった。

 ――あれってもしかして、『世界際資格証明書』ってやつじゃないか?

 青年は周りの様子などまるで気にしない様子で、左手でチョークを持ち、黒板の真ん中に名前を書き始めた。

「無色透明と書いてナシイロスアキ」

 そう一言述べると無色は真っ直ぐ窓際に座っている正騎の方へとやってきて、正騎の後ろ――窓際一番後ろの空いている席へと座った。無色に対して八千草先生は「みんな仲良くしてやってくれ。それから、無色、明日からは制服で来るように」と述べた。

 八千草先生が今日の日程についてあれこれ説明している間、正騎は今朝の事を思い返していた。AHのシステムチャットで話した父親の知り合いは、確か「無色透明」と名乗っていた。もしかしたらこの人が父親の知り合いではないだろうかと思ったが、話しかける機会が無いまま五日余りが経ってしまった――何故なら無色は全く授業に出ることが無く、自己紹介した時を除いて一度も会うことが無かったのだ。

 日曜日の夜、正騎は明日こそは会って話が出来るように作戦を練ろうとすべ必をしながらだらだらと思考を巡らせていた。すべ必をしているのはもしかしたらもう一度このゲームの中で「無色透明」に会えるかもしれないと考えたからである。

 しかし、会えた人物は『無色透明』ではなかった。


〔ささやき:ナナシ:今晩は、久し振りで御座いまーす!〕


 ブラックリストに入れたはずの「ナナシ」からささやきが来たのだ。

 正騎はこの間の「ナナシの言っていることは気にするな」と言う「無色透明」の発言から、この「ナナシ」は「無色透明」の知り合いではないだろうか、という推測をたてた。


〔ささやき:toナナシ:こんばんは、聞きたいことがあるんだけど〕

〔ささやき:ナナシ:おお? 漸く魔王様に興味をお持ちに成りましたかー?〕

〔ささやき:toナナシ:いや、魔王じゃなくて無色透明って人を知らないか?〕

〔ささやき:ナナシ:明日、十七日午前七時五十八分、貴方様は明日希高校にて、魔王シグロ様に襲われるでしょう!〕

〔ささやき:toナナシ:だから魔王じゃなく無色透明って人なんだけど〕

〔ささやき:ナナシ:其の時、貴方様は選択を迫られます!〕

〔ささやき:ナナシ:魔王を倒すか、魔王に倒されるか。誠に残念ながら、今回は逃げるという選択肢は御座いませんっ☆〕


 話しかけても無駄だと思った正騎は、明日どうやって無色を見つけるか考えることにした。

 靴箱で待ってみる――その日来なかったら自分がさぼることになってしまう。

 八千草先生に無色の連絡先を聞いてみる――個人情報をほいほい教えてくれるわけがない。

 無色の連絡先を知っている生徒を探して聞き出してみる――生徒が多すぎて探すのが大変だ。


〔ささやき:ナナシ:貴方様には選ばざるを得ない状況に成る事でしょう!〕

〔ささやき:ナナシ:?〕

〔ささやき:ナナシ:あの、〕

〔ささやき:ナナシ:先程から、何の相槌も御座いませんが、お聞きに成っておりますか?〕

〔ささやき:ナナシ:………〕

〔ささやき:ナナシ:余談ではありますが、〕

〔ささやき:ナナシ:魔王様を打倒すために貴方様が奮闘なされば、〕

〔ささやき:ナナシ:無色透明様を含めた様々な非科学とも関わることが出来まーす!〕


〔ささやき:toナナシ:え? 本当?〕


 正騎は思わず返事を返していた。

 ――非科学と関わることが出来る、だって?

 それは正騎が何よりも望んだことであり、甘い蜜に群がる蟻の様に正騎は話に喰いついた。


〔ささやき:toナナシ:ホントに、関わることが出来るのか?〕

〔ささやき:ナナシ:はいっ☆ 勿論で御座います☆〕

〔ささやき:ナナシ:然も、このすべ必に出てくる英雄オールウィン大魔王様の様に、伝説に成る事が出来まーす!〕

〔ささやき:ナナシ:もっとも―――――〕


 扉越しにあやめの声がかかる。

「正騎さん、お風呂が沸きましたよ?」

 あやめの声に、正騎は「はーい」と返事を返すと同時に、「ナナシ」に向けて言葉を放った。


〔ささやき:toナナシ:悪いけど、風呂行くから落ちるよ〕

〔ささやき:toナナシ:話の続きは、学校から帰ってきてからで!〕

〔ささやき:ナナシ:……解りました、お待ちしておりまーす☆〕


 正騎は「ナナシ」との約束を交わすとすべ必を終了し、パソコンの電源を落とした。


〔ささやき:ナナシ:もっとも――――〕

〔ささやき:ナナシ:――――英雄に成れるのは、貴方様が死ななければの話、ですがね!〕

〔ささやき:ナナシ:きゃはははははははは! あははははははははははははははは! あははははははははきゃはははははははあはははははあはっはははははははきゃははははhh……〕


 ***


▽ 世界と言うものは、御覧に成る御方によって異なります♪


(俺様の名前はモウザ。この某県に来て今日でまだ四日目。俺様には目的があってこの某県に居る。俺様はオモテ通りにある真新しい小さな店に足を踏み入れた)

 いやあ、態々私なんかの元へ御越し頂けるとは、光栄で御座います!

(店の内壁一面に電子パネルが貼ってあり、俺様が入ると同時に言葉が浮かんだ)

 ああ、申し遅れました! 私は「ナナシ」と申します♪ 以後お見知り置きを☆ ええ? それは偽名じゃないか、ですって? 大正解! そうで御座います、ナナシは偽名で御座います♪ ああ、本名ですか? 困りましたね、私の職業上あまり名乗りたくは無いのですが。

(文章からして妙にテンションの高い「ナナシ」と名乗る人物から、俺様は情報を得ることにした)

 ええ? 魔王シグロの居場所ですか? いやあ、幾ら貴方様が子供とはいえ、タダで御教えするわけにはいきません! その様な事をしてしまうと、私は最愛の人に嫌われてしまいます!

 ああ、最愛と言っても、私から一方的に愛を送り付けているだけですがね(笑)

(仕方が無いので俺様は諭吉三枚を懐から取りした。何処から見ているかは知らないが、すぐに言葉が内壁一面にある電子パネルに大々的に映し出される)

 ああっ! 違います、違います! 私は、そんな! 情報を提示する代わりに御代を頂こうなんて考えておりません!

 其の代わり、と言っては何ですが、私を賭けで勝たせて頂けませんか?

(俺様は首をかしげながら賭けの内容を問うた)

 まあ、これは私とあの御方との賭けですので口外出来ませんが、貴方様にして頂きたいことが御座います。それはズバリ! 「魔王を倒す」事で御座います! 私が貴方様に必要な情報を差し上げますので、どうか魔王を打ち取って頂きたいのです☆

(そんなことは当然だ! と俺様はパネル越しに怒鳴りつけてやった)

 ああ、ああ、あああ! それは素晴らしいお返事です☆ 私は安心いたしました、貴方様は間違いなく魔王を打ち取る事が出来ます!

 所で、貴方様はご存知ですか? 世界と言うものは、御一つでは御座いません☆ 職人の世界や男の世界等と言う言葉をお聞きに成ったことは御座いませんか? 正に其の通り! 世界と言うものは無限に存在致しまっす!

(無限に? そんなにあるわけがないだろう? と俺様は素直な疑問を口にした)

おやおや、貴方様はご存知無い様なので私で良ければ御教え致しますよ?

(そうか? なら俺様に話してみろ、と続きを催促した)

 はいっ! 私で宜しい様なので、解り易くお教え致しまっす!

 既に何方かが仰いましたが、世界と言うものは其れこそ無限に存在するものです。魔法の世界・科学の世界・司書の世界・軍の世界(全ての世界の名を挙げていてはお時間が無くなりますので、少々省かさせて頂きます)等、色々な世界が御座います!

 世界の違いとは、その世界を表す『公理』と言うものです。この『公理』はお早い話が『この世界はこういう世界です』と言う決まり事の事です! 魔法の世界なら、火・水・草・光・闇等の属性と魔力と呼ばれる生命力を用いたエネルギー反応(この通称が魔法で御座います)を主軸にした世界の事で御座います♪ 科学の世界なら、原子があり分子があり、分子の組み合わせによって物質が異なる(これは俗に化学と申します)などを主軸にした世界のことで御座います♪

(俺様はうんうんと相槌を打った)

 尚、世界と世界の境目は「線」で御座います! 其れをひょいと越えることにより、世界を移動することが出来るのです!

(俺様は、どうやればそれを越えられるんだ? と方法を尋ねた)

 この線を超えるのは、何も難しい事では御座いませんよ! 眠る・起きると言った生理的な行動や、遊ぶ・休む・働くと言った生活的な行動等に於いても、貴方様は世界を移り住んでおりまーす☆

(世界っていえば、もっと想像もつかない様なものだろ? と俺様の考えを述べる)

 確かに世界の中には貴方様の住む世界とは全く異なる世界――其れこそ空飛ぶ車が走る街や火を噴くドラゴンが住む山等も存在致しますが、若しも世界を輪に並べることが出来ましたら、それは宛ら色相環を眺める様なものでしょう。

(色相環? どういう事だ? と再び尋ねた)

 世界を色で例えた場合、赤い世界と青い世界では全く異なる物に思えますが、間に紫を置けば如何でしょう? その三つは関連した一連の世界の様に思えないでしょうか? 世界とは必ず別の世界と何処か似た所が御座います。全く無関係な世界等存在しないのです☆

 さて、世界について御分りになって頂けたでしょうか?

(今まで話したことは理解できたと答えた)

 それでは、お次はもう少し現実味の帯びた御話を致しましょう!

 世界と言う言葉では分かり難いでしょうが、世界も大きな国の様なものと考えて頂ければ幸いです。

(国、か。なるほど、それは結構分かりやすいな、と素直な感想を述べる)

 現在、各世界から一名ずつ代表を選び、選ばれた代表達により「世界際条約」、「三異条約」、「世界際外交条約」、「二次異交条約」、「共通の敵条約」等の条約が布かれております!

 世界際条約――

・第一、世界の代表者の許可なしに、その世界への侵入を禁じる。

・第二、自世界へ戻る際に侵入先の世界で得た知識および力、物質等を全て破棄する。

・第三、異なる世界の知識及び力、物質から生命に至る全てのものを自世界に引き入れてはならない。

・第四、自分が存在する世界とは異なる世界の力を使ってはならない。

・第五、以上四つを破りし者は罰と償いの名において制裁を下す。

 また、世界際条約違反者を「異名」と呼び、異名を狩るのが絶対の境界線の仕事で御座います☆(本来「異名」は違反者もそうでない者も含んだ「異なる世界の住人及び異なる世界の主たる力の保持者」を指しておりましたが、近年では異名=世界際条約違反者と言う意味合いで使われております)

 三異条約――

・第一、世界三大権力世界である司書の世界住人(ライブラリアン)軍の世界住人(ソルジャー)王の世界住人(ルーラー)は異なる世界の知識を所持しても良い。

・第二、突然変異であるワールドベントクリティカルは異なる世界の知識及び力を保持しても構わない。

・第三、所持した知識及び力を悪用してはならない。

・第四、三異条約違反者は世界警察が粛清する。

 ワールドベントクリティカル(通称ワベク)とは、異なる世界と何らかかわりを持たずに異なる世界の力を得た方の事で御座いますっ。尚、「悪用してはならない」の「悪用」は、非常に曖昧であり、三異に有利な条約となっておりまーす。

 世界際外交条約――

・第一、一世界の人間が異なる世界の力を使う場合でも、定期的に開催される世界際資格試験を受験し、合格した時にのみ発行されるそれぞれの力に対応した世界際資格の所持が認められた場合は条約違反にならない。

・第二、世界より個人の功績が称えられた場合、それに対応した称号を授け、その称号の信頼と栄光により世界の境界線を越えること及び重要建造物への立ち入りを許可する。

・第三、世界際資格及び世界際称号を持つものは、異なる世界の知識を持っても構わない。

 早い話が車の運転には自動車免許証が要ると言う事です。世界際資格は全部で二百二十三個、世界際称号は全部で五十六個あり、全て「バッジ」と言う形の資格証明書及び称号が発行されます。それを一つでも所持するものはタイトルキャパシティー(通称TC)と呼ばれており、世界の行き来が認められております。TCで最も有名な話を申し上げれば、国際単位のリーダーである無色透明様――この方は最も多くの称号及び資格をお持ちに成っており、何をしても条約を掻い潜ることが出来るのです! いやあ、凄い御方ですね☆

 二次異交条約――

・第一、異名・ワベク・TCとの接触により、本人の意思に反して異なる世界の知識及び力を得た者は、力及び知識を破棄するか所持するか選ぶことが出来る。

・第二、所持する場合は問答無用に世界際資格試験の受験資格が与えられ、一年以内に受験しなくてはならない。

・第三、一年以内に受験しなかった場合は知識及び力を強制破棄し、不合格だった場合も力及び知識を強制破棄させる。

・第四、所持する場合でも破棄する場合でも、世界警察より心身の安全を保障される。

 さて、最後に申し上げる共通の敵条約と言う物は、戦争を回避する為の条約で御座います。

 この条約の名にもある共通の敵とは「国際単位(通称SI)」と呼ばれる二十九名からなる小組織のことで御座います♪ 無敵で不滅と言われておりました「絶対の世界」を滅ぼしたのもこの組織の者でした☆

 今までの世界際歴史と言うものは、残念な事に争いばかりなのです(涙)

 今から凡そ三千年前、初めて異なる世界を見つけ、行き来に成功した錬金術師ニュートンは死ぬ間際にこう申しました。

「すべてを手にした私が言おう、〝∞≠±一=0〟を解いたものには富も名誉も不死も、全てが与えられる、と。だがこの式は解いてはならない式だ。それでもこれを解きたいというならば、全ての世界を知るがいい」

 それより様々な世界の者が全てを欲して異なる世界の知識を求め奪い合いました。これにより、世界同士の戦争が始まったのです! ニュートンが提示した式は長らく解かれる事が無かった為、《永遠の命題 》と呼ばれるようになり、命題の答えを求めて始まったこの戦争は「命題戦争」と呼ばれるようなっておりました。

 そして、今から二十年前、命題戦争が始まって以来、世界際的に権力を持っていた絶対の世界住人(アブソリュート)と真逆の存在である虚無の世界住人(ドッペルゲンガー)をグレイ・パラドックスと言う男が発見致しました☆ その功績により、グレイ様は世界最高の天才と呼ばれ、永遠の命題を解く為三人の弟子を取りました。

 一人の名はモノクロ・グレー様――グレイ様がお認めに成る程の天才で、何でもそつなくこなしました。

 一人の名は無色透明様――他のお二人に比べて出来の悪かった無色様は、人一倍努力なさいました。

 一人の名は英雄家勇魚様――呑み込みがとても早く、出来る事を確実に増やしてまいりました。

 三年の後、永遠の命題は解かれたのですが、嫉妬や妬みに駆られた様々な世界の者達はグレイ様を殺害致しましたー☆

 然ぁし!

 命題を解いたのはグレイ様ではなくそのお弟子様だったのです!

 それに気づいた時にはもう遅く、お弟子様はのちに世界共通の敵と呼ばれる「国際単位」と言う組織を創っておりました☆ 国際単位は命題を解こうと異なる世界の知識を求めて略奪や侵略をするものを容赦なく殺して参りました♪ 十五年前に絶対と呼ばれていた者達が殺され、初めて様々な世界に住む者はこのままではいけないとお気づきに成ったのです! 各世界から代表を一人ずつ決め、話し合い、十年かけて幾つもの条約が定められた。そして、最後に国際単位のリーダーを招き「共通の敵条約」を定めました☆

 共通の敵条約――

・第一、国際単位に宣戦布告された者(被布告者)は、異なる世界に協力を仰ぐことが出来きる。

・第二、被布告者と協力世界は国際単位を相手取る場合に於いて一切の条約を無視して物資支援や戦力支援を行うことが出来る。

・第三、国際単位は「内戦」及び双方の同意を得て行われる「承諾戦争」には関与しない。

・第四、ただし、「内戦」及び「承諾戦争」に於いては国際単位に対して、戦争世界から仲介を乞うことが出来る。

・第五、国際単位は空想に於いての組織であり、現実には存在しないものとし、いつまで経っても構成員が不明であり、自ら国際単位と名乗っても虚言として捉え、永遠に捕まえられないものである。

 国際単位は世界共通の敵と呼ばれているにも拘らず、条約により保護されております。今では条約により戦争仲介組織という意味合いがお強いですが、この様な保護条約が無くとも構成員を誰一人捕らえることはできないでしょう。何せ、構成員がリーダーしか分かっていないのですから(笑)

 世界際条約違反者は『絶対の境界線』が、それ以外の条約違反者は『世界警察』が取り締まることになっております。然しながら、世界警察なんて物はお飾りにも等しく、世界際条約以外の条約違反者は国際単位の者が始末しております。

(なるほど、大体わかった。それにしても、お前って本当に詳しいんだな? と素直に感心したことを伝えた)

 え? 何でしょう? ああ、何故私がこんなにも詳しいか、ですか?

(どうして詳しいかを聞くつもりはなかったが、答えてもらえるなら返事が欲しいと伝える)

 私は詳しく等御座いません! 私よりも物知りのお方など、其れこそ五万といらっしゃる事でしょう(笑)

(情報が少しでも欲しかった俺様は、お前より詳しい奴は誰なんだ? と尋ねた)

 私よりも詳しいお方は誰か、ですか?

 そうですね、私よりも詳しいと言えば、まず国際単位のリーダー「無色透明」様。このお方は本当に素晴らしい知識をお持ちです。次いで世界最高の天才が認める天才「モノクロ・グレー」様。そして嘗て魔王を打倒した英雄「オールウィン大魔王」様。それから、全てを手にした錬金術師「ニュートン」様でしょう。探せば沢山の人が居らっしゃいますが、私が知っているのはこの方達だけです。

(接触する機会があれば会ってみようと思った。どうして死んだニュートンの名を挙げたのかは謎だったが、まだ魔王のことを聞いていないのでそっちを尋ねた)

 はいはい、魔王シグロ様の居場所ですね? 今現在それがしタワーにいらっしゃいます。場所はご存知ですか? オモテ通りから繋がっている中央通りに聳え立つ真っ赤な塔で御座います!

(俺様は慌てて立ち上がり、軽く礼を言って真新しい小さな店を後にした)

 モウザ様、行ってらっしゃいませ☆

 …………。

 まあ、モウザ様が某タワーに着く頃には、シグロ様は明日希高校にいらっしゃいますが(笑)

 無駄なご足労ご苦労様です!

 あは、あはははははは! きゃはははははははははははは!あははははあはははははははははははきゃはははははははきゃははははきゃははははあははははははあははh…………


 誰も居なくなった部屋一面に取り付けられているパネルには、延々と笑い声が表示されていた。

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