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詩とか純文学とか

白いスイートピー

作者: 山内 琴華
掲載日:2026/04/06

「卒業、おめでとう」


 そんな声が目の前から降ってくる。視線を上げれば、ほとんど関わりのなかった校長が、こちらを見て柔らかく微笑んでいた。



 数日間しか与えられなかった練習期間。そのときを思い出しながら、私は一歩後ろに下がって礼をした。

 壇上を降れば、もう私は主役ではなくなる。校長も、次の卒業生に微笑みを向ける。何も、卒業生は私だけじゃないのだから。




 卒業証書の授与というのは、酷く緊張する。「はい」というたったの二文字に。

 声がはっきり出るか。裏返った声になりそうで、私は怖かった。

 たまに、大きな返事が聞こえる。私はそれをすごいなぁ、とぼんやり思う。


 卒業の歌というのは、泣きそうになる。涙脆い子は練習ですら泣いていたけれど、私は練習では泣かなかった。

 でも、当日は違った。歌の歌詞について一瞬でも考えると、そこから思い出が溢れ出す。

 すると、思い出と一緒に、涙まで溢れるのだ。曲が終わったとき、隣に座ってる子に心配されちゃって、ちょっと恥ずかしかった。


 卒業生代表の答辞というのは、またもや泣かせにきている。

 卒業生代表の人が泣くとさ、こっちまで泣きたくなっちゃうよね。




 そうやって、卒業式はすぐに終わってしまう。体感だけどね。


 卒業しても、卒業したという実感はすぐには湧かない。

 もう中学生が終わったのか、とか。高校生になるのか、とか。ちょっとは思うけどね。

 だって、春休みが終われば、クラスメイトと会えると思ってるところがあるもの。

 でも、実際にはそんなことはなくて。高校生という新たなスタートが始まるらしい。



 ぼんやりと、私は桜の並木道を歩いていた。大きすぎてかばんに入らなかった卒業証書と、後輩がくれた小さな花束を持って。


 卒業式に、私の両親の姿はなかった。母は既に故人で、父は出張。一緒に帰る友達がいるわけでもないから、私はこうやって一人で歩いている。



 まだ、桜は咲かない。まだ三月の初旬だから、蕾すらない。

 早く咲かないかなぁ。入学式の頃には、咲いてくれるかなぁ。


「お母さん」


 お墓がある方角。確か、ここから北の方だったかな。


「わたし、卒業したよ」


 誰に向けたものだったのだろうか。天国にいるお母さんにも出張に行ってしまったお父さんにも届けばいい。



 大きな風が寂しげに桜を揺らす。咲いていれば、きっと美しい桜吹雪が見えたことだろう。

 


 何となく、気配を感じて。



 振り向けば、花壇に植えられていたのは、白いスイートピーだった。

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