泣きそうな笑顔の理由
普通の人なら、ここまで言えば察してくれる──
孝明はそう思っていた。
しかし、ななこはまったくめげない。
「はいっ、勝手にします!」
勢いよく手を挙げ、ついでに片桐と繭花に向かって、
「ね〜?」
とニッコリ笑いかけている。
孝明は頭を抱え、深いため息を吐いた。
「……今日は、とんだ厄日だな」
背を向けたままこぼしたその言葉を、
ななこはじっと見つめていた。
そして──
今にも泣き出しそうな笑顔で呟く。
「私さ……信じてた恋人に振られちゃったんだよね」
孝明の動きが止まる。
ななこは無理に口角を上げ、
「だからもう、何だっていいの。
それに……あいつが少しでも心配してくれるんなら、
“ざまぁみろ”って思えるかなぁ、なんて」
と笑ってみせた。
その笑顔が痛々しくて、
孝明の胸がずきりと締めつけられた。
(……あいつも、あんなふうに泣きそうな顔をしていたな)
“あの日の彼女”の表情がフラッシュバックする。
そんな孝明の沈黙をよそに、
ななこはふっと遠くを見るような目で言葉を続けた。
「……男の人ってさ。
長い年月の思い出を、一瞬で削除できちゃうんだね」
その声には、刺すような痛みと、深い絶望が滲んでいた。
孝明は息を呑む。
「それは……」
言い返そうとした瞬間──
ななこが強く言葉を重ねた。
「女にとってね。
信じてた人から振られるって……どれだけショックかわかる?」
拳をぎゅっと握りしめながら、続ける。
「本当に好きだった相手なら──
なおさらなんだよ!」
孝明は何も言えなかった。
その叫びが、
“あの日の彼女の涙”と重なって聞こえたからだ。




