死神より迷惑な女、『ななこ』見参!
片桐は孝明の怒声などまるで耳に入っていないかのように、
見知らぬ女へ柔らかく微笑んだ。
「まあ……そんなに構えなくても。
そちらのお嬢様も、お茶でもいかがですか?」
優雅な手つきでカップを差し出す。
見知らぬ女は一瞬驚き、すぐにコロッと態度を変えた。
「はぁ……ありがとうございます」
そう言ってちゃっかり座卓に座り込み、上品ぶってお茶を飲み始める。
孝明は片桐のマイペースさに深いため息を吐き、
紅茶をすする女へ視線を向ける。
「で、お前……名前は?」
「え? 私? そうねぇ……
“名無しのななこ”ってことでいいわ」
軽い調子で笑う。
「あのなー!!」
まともに答えようとしない三人にとうとうキレた孝明が叫ぶと──
「まあまあ良いじゃないですか。
縁あって出会ったのです。短い時間でも、仲良くしましょうよ」
片桐は悪びれもせず、にこやかに宥めた。
孝明は両手で髪をわしゃわしゃに掻きむしりながら叫ぶ。
「なぁ! 絶対話逸らしてるだけだろ!?
俺は死んだんだろ!? だったらさっさと連れて行けよ!!」
その言葉に、ななこがぽかんとした顔をする。
「死んでるって……あんたが?
じゃあ、幽霊? うらめしや〜って?」
お化けポーズをしながらひょこひょこ近づいてくる。
「そんなわけあるか!!」
即ツッコミ。しかしななこは悪びれない。
「だよね〜。幽霊があんなに吐くわけないもんね」
「だからその話題はもう終わりだって言ってんだろ!!」
孝明が怒鳴ると、ななこはふっと物悲しげな表情になり──
すぐに明るい笑顔で上塗りした。
「はいはい。でもさ……
もし死んでるとしたら、
“最後に会いたい人”とか……いないの?」
静かに投げかけられた問い。
ななこの真っ直ぐな瞳。
その視線に胸の奥の古傷が疼いた。
あの日の……泣いていた彼女の顔が過る。
だが孝明は、記憶の扉を慌てて閉じるように冷たく答えた。
「……いないよ」
「ふ〜ん」
ななこは明らかに不満げに頬を膨らませる。
「なんだよ、その言い方」
今までズバズバ言ってきたのに急に濁すので、孝明は眉をひそめた。
「別に……」
ななこはそっぽを向き、
次の瞬間、ぱっと明るい笑顔を作る。
「じゃあさ。彼女いないんなら──
しばらく私、ここに置いてよ」
「………………はぁ!?」
理解が追いつかず、一拍遅れて叫ぶ孝明。
ななこは楽しげに笑って続けた。
「いいでしょ?
誤解されて困る相手もいないんだし?」
そう言って片桐に向き直る。
「ねぇ〜?」
同意を求める視線に、片桐は微笑だけ返した。




