死神より怖いのは、昨夜の自分。
しかし、いくら記憶を辿っても──
思い出せるのは“二軒目の居酒屋”までだった。
三十を過ぎて、ヤケ酒で記憶を飛ばす日が来るなんて思わなかった。
……最後にこんな深酒したのは、いつだったか。
そんなことを考えていると、また“泣いていた彼女”の姿が脳裏をよぎり、胸がきゅっと痛む。
ハッと目を開けると──
目の前には、軽蔑の眼差しを向けてくる三人。
「ま、待て! 絶対思い出すから!
だからお前も、もう泣くな!!」
慌てふためく孝明。
泣き真似をしていた女は、ぴたりと涙を止め、呆れ顔で言った。
「本ッ当に覚えてないの?
あんた昨日ね、酔っ払ってゴミ捨て場で寝てたの。
で、私が声かけたら──あんた、私の顔見た瞬間に吐いたのよ!」
手振りつきで怒りを爆発させる。
「……え?」
孝明が固まると、女はさらに続ける。
「その上、
“気持ち悪いから背中さすれ”だの、
“水よこせ”だの、文句ばっかり!
運んでる途中で、頭から全部浴びたんだからね!?」
(…………)
孝明は女の話を聞き終えた瞬間、ふうっと深い安堵の息を吐く。
「なんだ……そんなことか。
てっきり……」
言いかけて、慌てて口をつぐんだ。
片桐が逃さない。
「てっきり?」
見知らぬ女も身を乗り出す。
「や〜らし〜い。何考えてたわけ?このスケベ!」
だが孝明の耳には、二人の声はもう届いていない。
“何もなかった”という事実だけで胸を撫で下ろし、
なぜか自信満々になって女の方を向く。
「まあ……俺にだって選ぶ権利はあるよな〜」
「なんですって!?」
女が本気で怒りの炎を燃やす。
片桐は大きくため息をつき、
「だから言ったんですよ。本当のことを話すのはやめておけと」
女も悔しそうに口を尖らせる。
「全く……。落ち込んでたからガチで説明してあげたのに、可愛くない!」
「男が“可愛い”なんて言われても嬉しくないね」
孝明はケロッと笑った。
「ほんっと可愛くない!!」
女は怒りのまま孝明の頬を掴み、左右にぐいっと伸ばす。
「やめろって!」
孝明が振りほどくと、今度は片桐と繭花を鋭く睨んだ。
「──で。
あんた達がここにいる理由は何なんだ?
俺を……どうするつもりだ?」
その声を合図に、
空気が一気に張りつめた。




