ティーセットと死神と俺
リビングに注ぐ温かな日差しと、驚くほど香りの良い紅茶。
その優雅すぎるひとときに、孝明はしばし現実を忘れていた。
──が。
対角線上に座る黒髪の美少女を見た瞬間、記憶が一気に戻る。
しかも彼女は、和室にまったく似つかわしくない“豪華すぎる洋風テーブルセット”でくつろいでいる。
「あっ、そうだ!
……あんた達、一体何者なんだよ!?
俺の隣で寝てた女の仲間か!?」
慌てて立ち上がる孝明。
執事姿の男は、感情の見えない声で静かに答えた。
「心外ですね。彼女は我々が到着した時には、すでにあなたの隣で寝ていましたよ」
「は……? いやいやいや、絶対何かの間違いだろ……!」
顔面蒼白で頭を抱える孝明を、執事は冷静に見下ろす。
「ありますよね、若さゆえの過ちというもの。
……はて、あなたは“若い”分類に入るのでしたか?」
「そこ!? そうじゃなくて!
まず、お前ら何者なんだよ! それにその茶葉と茶器、なんなんだよ!」
孝明が叫ぶと、執事は微動だにせず答える。
「繭花様が紅茶を飲みたいとおっしゃいましたので。
しかし、この家には“飲料”と呼ぶのも難しい茶葉しかなく……急ぎ、購入してきました」
完璧な所作で優雅に一礼する。
「……購入って、その金はもちろんお前が出したんだよな?」
孝明の問いに、執事は美しく微笑んだ。
「まさか」
その瞬間、最悪の予感が走る。
孝明は慌てて財布を開き──
「……無い!!
俺の全財産が無い!
給料日まで一週間あるのに! どうしてくれるんだよ!!」
空っぽの財布を前に絶叫し、怒りで座卓を叩いた。
その音に、美少女・繭花がびくりと震え、手を止める。
「いけませんね……。
そんな手荒な態度では、繭花様が怯えます」
執事の声は、氷のように冷たかった。
「いやいや!
朝起きたら知らない女が隣に寝てるし!
お前らは勝手にくつろいでるし!
しかも全財産が消えてるんだぞ!?
冷静なれるかっ!」
孝明が吠えると、執事は深くため息をついた。
「……やはり人間は面倒ですね。些細なことで大騒ぎする」
「些細じゃねぇよ!? どこが──」
「何か?」
執事が鋭い眼光で睨んだ瞬間、空気が凍りついた。
孝明は反射で正座し、そっとお茶をすする。
「…………すみませんでした」
やけに丁寧な謝罪が漏れた。
そのとき──
繭花がそっと執事の袖をつまんだ。
怯えたように、震えている。
執事はその手に気付き、表情をやわらげる。
「大丈夫ですよ、繭花様。
私が人間ごときを相手に、手荒な真似をするとでも?」
優しく囁かれ、繭花は小さく首を振り、また静かに紅茶を飲む。
その姿は──
どう見ても、この世界の住人ではない“何か”のようだった。




