届かなかった言葉、残された指輪
『RRRR……』
スマホの着信音で、孝明は目を覚ました。
「……寝てたのか。
懐かしい夢……見てたな……」
重い頭を押さえつつ身を起こす。
見渡した部屋は──
どこから見ても“いつもの部屋”だった。
「……あれ? 誰も……いない……?
今の……夢……?」
そう呟いた瞬間、再び着信音。
うんざりしたようにスマホを取ると──
「お兄ちゃん!! やっと出た!
何回かけたと思ってるの!?」
妹・菜穂子だった。
ただ、その声が普通じゃない。泣き叫ぶように震えていた。
「沙紀ちゃんが……沙紀ちゃんが……
飛行機事故に遭ったんだよ……!
さっきまで重体ってニュースで出てたのに……
今……“死亡”って……流れたの……
なんで……連絡取れないのよ……!!」
言葉が、全部、遠くへ消えていく。
「もしもし!? お兄ちゃん!! 聞いてるの!?」
菜穂子の叫びが、霧の中の声のように遠ざかる。
孝明の手からスマホが落ちた。
気づかないまま、通話は切れていた。
「……沙紀が……死んだ……?」
嘘だと思いたい。
だけど、身体の震えだけは止まらなかった。
外へ飛び出そうとした足が──
座卓の上の “それ” を見て止まる。
指輪。
震える手で掴んだ瞬間、胸が焼けるように痛んだ。
「これ……なんで……」
それは、孝明が最初のギャラで買い、
沙紀が“ずっと外さなかった指輪”。
別れた日でさえ、
『餞別として、もらっておくね』
と言い、決して外さなかった指輪。
……それが今、なぜ、この部屋に?
(どうして……ここに……?)
胸の奥で、何かが一気につながる。
ななこの姿。
声。
涙。
笑顔。
全部が一つの答えへ収束していく。
──ななこは、沙紀だった。
「……っ……ふ……」
視界が滲み、
堪えていたものが、どうしても抑えきれなかった。
拭おうとしても、手が震えて動かない。
そのまま床に崩れ落ちて、
孝明は初めて声を漏らした。
「バカヤロウ……!」
震える声で、ただそれだけを吐き出す。
後悔しても、
時間を巻き戻そうとしても、
もう……何ひとつ届かない。
孝明は、ただ打ちひしがれるしかなかった。




