遅過ぎた真実②
そんな繭花の頭を、そっと片桐が優しく撫でていると──
「でも、ずるいですよね……。
どうせなら、最後まで嫌な男でいてくれればいいのに……」
ななこはぽつりと呟き、堰を切るように涙をこぼし始めた。
片桐が静かに問う。
「別の姿で彼と会ったのは、彼の本心を確かめたかったからでは?」
「そう……。
“うざい女”って言われると思ってたの。
別れる時に言われたあの言葉……
“尽くす女って顔、うざいんだよ”って。
あれをもう一度聞けたら……大嫌いになれるって、思ってたのに……」
ななこは顔を歪め、泣き崩れる。
繭花は悲しそうに視線を落とし、
片桐は繭花が“初めて人の痛みに反応した”ことに気づき、
わずかに目を見開いた。
やがて、ななこは涙を拭い、顔を上げる。
「ありがとう。私のわがままを聞いてくれて」
片桐は静かに頷いた。
「では、約束通り──」
片桐がゆっくり近づく。
ななこは静かに目を閉じ、覚悟を決めたように微笑んだ。
その瞬間──
繭花がすっと二人の間へ割って入った。
静かに唇を開き、
まるで言葉そのものを選びながら押し出すように、
繭花は初めて“自分の意志”で言った。
「……いいの?
最後……本当の姿……戻せる」
ななこは一瞬、目を見開き──
すぐに、切なげな笑みを浮かべて首を横に振った。
「今の……本当の私の姿は、孝明に見られたくないよ。
包帯だらけの、痛々しい姿なんて……。
孝明の記憶の中では、
いつまでも綺麗な私のままでいてほしいの。
……わがままだけどね」
繭花は悲しそうにまつげを伏せた。
ななこはふと、思い出したように言う。
「あ……ねぇ、最後の最後に……
もう一つだけ、わがまま言ってもいい?」
繭花が静かに瞬きを返す。
「最後のお別れの時間……
もう少しだけ、くれないかな?」
繭花はそっと頷いた。
ななこは指輪を外し、
そっとテーブルの上へ置いた。
そして──
眠る孝明の髪へ、宝物に触れるように指を滑らせる。
「孝明……ありがとう。
さようなら」
声は震えていたが、涙は見せなかった。
かわりに“最後の笑顔”だけを残した。
そっと孝明の唇に触れ、
ななこは死神たちへ向き直り、柔らかく微笑む。
「ありがとう。
優しい死神さん達」
次の瞬間──
ななこの身体は光に包まれ、
静かに、ゆっくりと消えていった。
残されたのは、
青いサファイアのように透き通る“想いの結晶”。
片桐はそれを拾い上げ、ひと息つき、
眠り続ける孝明を見下ろした。
「……では、繭花様。次の街へ参りましょう」
小さく指を鳴らすと、
二人の姿もまたふっと消えていった。




