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伝えられない思い
ななこがしゃがみ込むのを見て、
孝明はゆっくりと息を吐いた。
そして——
まるで天気の話でもするかのような、
平坦すぎる声で言った。
「じゃあ……どうすればよかったんだよ」
驚くほど静かな声だった。
「……あいつは、俺みたいな男のために……
ずっと夢だった“本社勤務”を諦めようとしてたんだ」
淡々と語られる言葉は、
内容だけがあまりに重い。
「俺は、あいつの将来に……何もしてやれない。
何一つ、約束なんてできなかった」
孝明の表情は動かない。
怒りも悲しみも、
まるで別の誰かの話をしているような無表情。
「それでも……あいつは、笑ってたよ。
いつも通り、俺の前では……な」
ふっと乾いた笑いが漏れる。
しかし目は笑っていない。
「……俺なんかが、あいつの未来を縛っちゃいけないんだよ」
淡々と。
ひどく落ち着いた声で。
「だから……切った。俺から」
片桐の“エゴ”という言葉が刺さっているはずなのに、
それを悟らせないほど静かだった。
「もう嫌なんだよ。
俺のせいで……誰かが犠牲になるのは」
声は揺れなかった。
悲しみは、ただ“乾いた微笑”へ姿を変えた。
「だから全部……俺が悪者になった。それだけだよ」
それは強がりにも聞こえるし、
完全に達観した人間の言葉にも聞こえた。
感情は一滴も漏れていない。
でも……胸の奥では確実に何かが軋んでいた。




