十年目のすれ違い 〜言えなかった本音〜後編
エリートぶった男の言葉に、孝明は雷に打たれたような衝撃を受けた。
ショックだったのは、“ヒモ以下”と蔑まれたことではない。
──彼女が本社勤務の話を、自分に何も言わなかったこと。
(なんでだよ……!
なんで俺にだけは言ってくれなかったんだよ!!)
胸の奥で怒りと悲しみが混ざり合い、喉の奥までこみ上げる。
叫びたいのに、声にならない。
(お前が……俺の夢を信じてくれたように……
俺だって、お前の夢を応援したかったんだよ)
その思いは胸の内側で軋むように響いた。
ショーウィンドウに映る自分の姿がふと目に入る。
肩は落ち、濁った目で、情けないほど力の抜けた男。
──そんな自分自身に、殴られたような気がした。
舞台では、良い役は“チケットを捌ける人間”に回る。
孝明は彼女の力で、いつも出番の多い役をもらっていた。
最初は抵抗があった。
だが、いつの間にか麻痺し、その現実を“当たり前”だと思っていた。
拳を握りしめる。
自分の甘さが、嫌というほど滲み出る。
昔からやっかむ奴らに言われてきた。
「彼女のお陰で良い役をもらえてるんだろ」
それを、努力で黙らせてきたつもりだった。
(あいつが俺のために頑張ってくれた分、
俺だって……それ以上に頑張ってきたんだ!)
必死に自分に言い聞かせるように心で叫ぶ。
──だけど。
現実はどうだ?
他劇団から声は掛かるが、メディア露出はゼロ。
世間から見れば、
【定職にも就かず、夢を追い続けるだけの男】
……ただそれだけ。
親でさえ言った。
「いい加減、役者ごっこはやめなさい。真面目に働きなさい」
そんな自分を、それでも信じてくれると……ずっと思っていた。
(だけど……違ったのか?)
本社勤務という夢の話を、自分には言えなかった。
──つまり。
“彼女も……俺を世間と同じ目で見ていたのか?”
そう突きつけられたようで、胸がぐしゃりと潰れた。
世界が一瞬で色を失った。
人混みの中にいるはずなのに、
まるで自分だけが取り残されたような気がした。
「……俺の夢がお前の夢だったように。
俺だって……お前の夢を、俺の夢にしたかったんだよ……」
ぽつりとこぼれた言葉は、
誰にも届かぬまま、暗い虚無へと沈んでいった。




