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始まり

みなさま、こんばんは。

新しい短編になります。


もしも──

“死ぬ前にひとつだけ願いが叶う”としたら、

あなたは何を願いますか?


そんな少し不思議で、少し切ない物語です。

最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。


休日の昼下がり──

二階建てアパートの一室に、どう考えても場違いな光景が広がっていた。


六畳の和室に鎮座する、妙に豪華なティーセット。

その椅子には、真っ黒なロングドレスの美少女が、まるで王族のように優雅に腰掛けていた。


……ここ、築30年のアパートだよな?


彼女の背後には、背が高く整った顔立ちの執事が静かに立っている。

艶のある黒髪、無駄のない動き、完璧な所作──

そのすべてが、この部屋だけ異世界のようだった。


そこで──。


「あり得ない……夢だこれは……絶対夢だ……!

 とりあえずトイレ行って落ち着こう……!」


この部屋の主・菅原孝明が寝室から飛び出し、

二人の存在に一ミリも気付かず走り去った。


黒ずくめの二人は、その背中を静かに見送る。


「……騒がしい男ですね。繭花様のお茶に埃が入るところでした」


執事は眉ひとつ動かさず、少女──繭花に新しいお茶を注ぐ。


「こちらの茶葉は急いで買ってきました。この家には……

お茶と呼ぶのも難しいものしかなく」


繭花は静かに一口含み、こくりと喉を鳴らす。


「……お気に召したようで、何よりです」


執事が微笑んだその瞬間──

トイレから戻った孝明が、ようやく現実の異常さに気付いた。


「……だ、誰ですかあなた達!?」


震える声に、執事はまるで旧知の住人に語りかけるような柔らかな笑みを向ける。


「お戻りでしたか。寝起きのお茶などいかがでしょう?」


「はっ!? いや、あの……?」


不審者なのに、断りづらい……

というか、この執事の所作が美しすぎて逆に怖い。


気付けば孝明は、座卓に座らされていた。


「どうぞ。昨夜お酒を飲みすぎたのでしょう? 

レモンを少し」


「はぁ……どうも……」


孝明は言われるまま紅茶を口にし──驚愕した。


「……うまっ!? 何これ店!? いや、うちだけど!?」


驚いている孝明と目が合い、対角線の美少女・繭花は軽く会釈する。


なぜか孝明も反射的に会釈してしまう。


(……え? なんで俺、普通にくつろいでんの?

 不法侵入だよね? これ通報案件だよね?)


だが──


気付いた時にはもう、

“黒ずくめの美少女と完璧すぎる執事”と、

まるで同居人のようにリビング時間を共有していた。


非日常は、静かに。けれど突然に。

孝明の生活へと入り込んでいた。


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