我、如何にして処刑台へ?
「口付けて甘い言葉でも吐いておけば靡くだろうと、王家の教えですか。
いやはや恐れ入りますよ、殿下。
聖女殿にもそのように?」
ルルヴェンは唇を乱暴に拭い、セリノスを挑発する。
綺麗事など不要。今すぐ死ぬわけではないと理解したなら、彼女が求めるものは“真実”である。
如何にしてルルヴェン・ファルコールは処刑台に送られたのか。
「腕を絡ませ、腰を抱き、頬を寄せて笑い合う。私が近くに居ようものなら顔をしかめて耳打ちし合う。
誰が見ても恋人同士と、愛し合う二人を引き裂こうとする汚らわしい邪竜の図。
しかし私は何もしていないわけで、むしろ職務を放棄した殿下の穴埋めに奔走しておりました。
――その世論を作るための労力は相当なものだったでしょう」
ご苦労さまです――更に煽ってやる。
彼女の知るセリノスと言う男は、安い挑発には容易く乗るし、その時の口の軽さは称賛ものだ。だから煽れば吐くと踏んでの挑発だった。
「……そうだな。仕事を露骨に放棄して、押し付けた俺達よりお前を支持する者も多かったよ。
簡単には行かなかった。だからあらゆる手を尽くしたさ」
膝の上で握られた両拳は白くなり、歯を食いしばる音さえ聞こえて来る。
ルルヴェンは『さあ次は顔を上げて喚き散らかすぞ』と俯いたセリノスを冷めた目で見つめていたが、返ってきたのは全く逆のものであった。
「どうしてその労力を、お前を含めた誰かの為に使ってやれなかったんだろうな」
「いや、色呆けたからでしょ」
――間髪入れずに突き刺された言葉のナイフに、セリノスは椅子から落ちかけた。
「……ルルヴェン」
「はい」
「お前……本当にそんなんじゃなかったよな」
「もう諦めましたので」
「だから――」
「何です」
「……本当に、俺は何も知らなかったんだ。
聖女こそが悪女だったなんて」
「目に見える地雷だったでしょうに」
「今はちょっと黙っててくれない?」
「はい」
セリノスが語ったのはこうだ。
聖女としてやって来た市井出身の少女を王妃に紹介されたその時から、心に靄がかかり、思考がどんどん溶けるようだったと。
何に変えても聖女を守り、聖女を一番に考えてしまうようになった。
やがて王妃と聖女が邪竜、ファルコールの血は恐ろしくて汚らわしいと――ああ、ならば排除せねばならない!と。
しかし優秀なルルヴェンの支持者は多く、考えなしに追放など出来ず。
だからあらゆる手を尽くして、邪竜の醜悪さを説き、ファルコール家を、領民ごと追放し、ついにルルヴェンを処刑台に立たせることに成功した。
やった!やった!やり遂げた!
見たか!汚らわしい邪竜を!聖女を傷つける悍ましい存在を!今この手で殺すのだ!
歪んだ悦びに浸り、竜殺しを握った頃、暗雲が立ち込め、雨がひたひたと肌を濡らして、しかしそれすら心地よいはずだった。
しかし愉悦は消え失せ、冷たい雨粒は肌を突き刺すようだ。いっそ焼けるような温度に、どろどろに溶けた思考が急速に冷えて固まっていく。
ようやく気づいたのだ。否、間一髪というべきか。
――自分は今、何をしている?
臣下も王妃も聖女も振り切って、気付けばルルヴェンを抱えて駆け出して――今に至るのだと。
「――聖女と邪竜伝説に、今回の……。
なるほど、つまり――」
涙すら浮かべているセリノスとは対照的に、やはりルルヴェンは冷静であった。
「殿下、一時休戦です。
宣戦布告を受けて差し上げたいのは本心なのですが、今は」
共闘しましょう。
紅い眼が、今度はぎらりと輝いた。
3話にして思ったのと違う話になってしまいました。
前作といい、なぜうちの女は皆こうなんだ。
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