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第2話 世界初!? 戦闘補助AI使ってみた!

「――世界初!? 戦闘補助AI使ってみたーっ!!」


 香奈が人差し指を立て、にこにこしながらタイトルを読み上げた。


 :こんカナー!

 :待ってた!

 :やっぱカナちゃん可愛いわ~


 朗らかな声が響いた瞬間、コメント欄が一気に動き出す。

 香奈はテンション高く手を振り、カメラに向かって満面の笑みを浮かべる。


「今日はこのイヤーカフに搭載された戦闘補助AIを使って、ダンジョンを攻略していくよ!」


『初めまして、私はAIDA(アイダ)。アナタを危険からお守りします』


「なんとなんとこのAIDAくん、モンスターとの戦いをかんっぺきにサポートしてくれるそうなんですっ!

 が、果たしてその効果は……? 私たちがばーっちり検証していくよ!

 視聴者のみんなっ、応援よろしくっ!」


 慣れた様子でビシッとオープニングを飾る香奈。

 俺は少し離れたモニターで、その光景を眺めていた。


「通信状態は良好、音声処理も正常だ。……順調だな」


 香奈のマイクから拾われる音声と、AIDAの応答にズレはない。

 コメント欄には「AIすげー」「コイツの声聞き取りやすい」なんて反応もある。


『では、今日も張り切って参りましょうか。レディ、あなたの輝きに敬意を。』


 :AIってこんなノリなの?

 :紳士で草

 :声カッコよすぎて震える


 AIDAがしゃべるたび、コメント欄がざわつく。

 まったく、安藤の趣味がよく出てるな。

 俺が担当したのは戦闘データの解析と、補助ロジックの設計。

 AIの応答や音声出力、キャラ設定は完全にアイツ任せだ。


「さあ、それじゃあ今日のダンジョンは――!」


 香奈がタブレットでマップを確認しながら、明るく話し続ける。

 その背中を見ながら、俺は一人で感慨に耽る。

 初期段階からトラブル続きだったAIDA開発。

 命を守り、勝率を上げ、悲しむ者を出さないための存在。

 この場面を迎えるまでに、五年もの歳月を要した。


「よーし、それじゃあ行っくよー!」


 彼女のかけ声と共に、パーティが一斉に進み出す。

 俺もAIDAと繋がるテスト用タブレットを取り出し、香奈と視点を共有する。

 転移ゲートを抜けた先――ダンジョン内部は、まるで廃墟と森を掛け合わせたような風景だった。

 半壊した石造りの遺跡に、根を伸ばすツタ。

 湿った空気の中、パーティが慎重に足を進めていく。


『――接敵、接敵。前方十五メートル先に低級魔物二体。種族はゴブリン』


 ふいに、機械音声が発される。

 AIDAが魔物を発見したらしい。

 よしよし、索敵機能も正常に動作している。

 それを聞いて香奈が手を上げた。


「接敵まであと十五メートルーっ!」


 パーティメンバーに敵の襲来を伝達。


「ボクが引き付けるよっ、リサ支援よろしく!」


 香奈が腰に差した長剣――アークブレードを引き抜く。

 内部に搭載された魔力バッテリーからエネルギーを供給し刃を超高熱化する、対魔物用の一般的な武器だ。

 その背後では、リサと呼ばれた仲間の一人がボウガンを構えた。

 

「ゴブルル……」


 瓦礫の隙間から、ゴブリンが躍り出る。

 人間の子供ほどの背丈で、緑褐色の皮膚に鋭い牙。

 小さな棍棒を手に、ギョロリと血走った目でこちらを睨んでいる。


『三秒後、飛び掛かってきます。回避角度は右へ約二十度。ニ……一……今です』


「ふっ!」


 香奈が地を蹴った。

 と同時に、アークブレードの刀身が赤く熱を帯びる。

 一直線に飛びかかってきたゴブリンを流れるようにかわし、すれ違いざまにブレードを振り抜く。


 ――ザジュッ


 高温の刃が敵の胸部を裂き、焦げた臭いが一気に広がる。


 :動きいいな今日

 :香奈ちゃんキレッキレ……というより、AIが凄いなコレ

 :AI有能


 コメント欄に驚きの声が流れる。

 二体目も、サポート役の少女が敵の足を撃ち抜き、香奈がとどめを刺した。


『戦果確認。被害なし。進行可能』


 俺は戦闘の様子を眺めながら、小さくうなずいた。

 この程度の敵であれば、問題なくAIDAの予測の範疇だ。

 その後、何度か戦闘を繰り返し、順調にダンジョン攻略を進めていった。

 AIDAの動きは思った以上に良い。


「うっわ~! オークもあっという間にやっつけられちゃった!」


「普段はカナとケンタが引き付けて、私やショウタがちょっとずつ削っていって……って感じだもんねえ」


「もうすぐボス部屋だぜ? 普段の半分以下のスピードだ!」


 香奈たちパーティが口々に賞賛する。

 彼らならAIDA無しでもオーク程度にやられることは無いだろうが、ダンジョン攻略は《《死なないこと》》が最重要事項。

 ゴリ押しは避け、時間がかかっても安全な一手が求められる。

 その点AIDAがいると、敵の攻撃を予測することができるので、効率的な戦闘が可能だ。


 :え、いつもと別人みたいに強い

 :マジでAIすげえなこれ

 :これがあれば誰でもダンジョン攻略できるじゃん


 うむ、世間の反応も上々。

 現在の視聴者数は少し増えて1832人。

 このまま何事もなく進んでくれればいいが――そう思った矢先だった。

 

『――接敵反応。上空からウィスピック接近。レディ、左斜め後方へ回避を』


「了解っ!」


 香奈がすばやく跳びのいた。

 バチン、と軽い衝撃音。

 彼女の背中が何かにぶつかった。


「――えっ!?」


 それは空中に浮かんでいた配信用のドローン。

 香奈と激突し、バランスを崩して岩壁に激突。

 地面へ落下して火花を散らした。


「ドローンが!」


 香奈が思わず駆け寄る。

 手のひらサイズの球体型ボディは、すでにひしゃげて動かない。


「ごめん! ボクのせいだ……」


『いえ、私の責任です。ウィスピックの接近判断が遅れました。

 狭い空間での回避ルートに、ドローンの位置を含められなかった私の落ち度です』


 AIDAの声が低く響いた。

 このドローンは高度な判断や素早い移動はできない。

 香奈が想定外の方向へ動いた結果、衝突は避けられなかった。


「くっそぉ……これじゃ配信が続けられない……!」


 香奈が悔しそうに顔をしかめる。

 俺はタブレットに目を落とす。

 画面は完全にブラックアウトしていた。

 そしてその横では、視聴者コメント欄が騒然としている。


 :配信止まった?

 :今の音やばくなかった?

 :ドローン落ちた? 香奈ちゃん大丈夫?


 どうやら通信部は生きている様子。

 しかし肝心の映像が無い以上、続けることは不可能そうだ。

 俺はドローンに近寄り、操作盤のフタを開けてマイクをオフにする。

 周囲を見ると、ウィスピックを処理したパーティメンバーたちもこちらに集まってきていた。

 短く息を吐き、香奈に告げる。


「撤退だな。ボスとの戦闘も検証したかったが……。

 課題も洗い出せたし、初回のデータとしては十分だ」


 俺が言い終える前に、香奈が地面に膝をついた。

 そして揺れる瞳でこちらを見上げる。

 次の瞬間、香奈は思いもよらぬことを口走った。


「お願いっ……零士くん、《《カメラマン》》やってくれない……?」


「――は?」

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