第95話
「ああ、済まない、自己紹介がまだだったな、だが、する気はない、俺の妻を、甚振ってくれたようだな、それだけで充分だ」
ノランの顔が嬉しそう、シフォンは少し拗ねている、ノランが気づき謝っている、
横を見るとマルガも拗ねている、
『緊張感がない・・・』
ポニーが二人の前に立ち身構える、
俺は、ゆっくりドラーラに近づく、
ドラーラの頭の中に警告が鳴る、
『逃げろ! 』
本能が存在の危険を警告する、
『逃げろ! 』
『この俺が逃げるだと! 』
プライドが本能を抑え込む、
『俺は強い! 人族ごときに負けるはずなどない! 』
ニヤリと笑う・・・背中のマントが触手に変わり四方に伸びる、
ポニーが薙ぎ払う、
シフォンとノランの翼が弾く、
「ちっ! 」
他の触手がクーマを襲う、
マルガが剣を一閃する、
触手が消える、
「クーマ様ここは私が、マルガの目に怒りが見える」
「マルガ・・・良いだろう任せる」
「はい! 」
マルガが飛び出す、剣がドラーラを捕らえた、
ギシィッ!
触手が剣を受け止める、
『なにぃっ! さっきは切れた、何故! 』
「フハハハ、やはりその程度か、さっきのはまぐれだな」
「クソッ! 貴様如きに負けるかぁー! 」
マルガが剣を振る、ドラーラが薄ら笑いを浮かべながら、触手で受け流す、
「フハハハ、さっきの勢いはどうした、あ〜、もう疲れたのか、あの時の騎士も大したことはないな、だから今度も守れないんだよぉ〜! 」
ドラーラの触手がマルガを弾き飛ばす、
「クソォー! 王と民の仇ぃー! 」
「マルガ、下がれ、物静かな声」
「クーマ様・・・」
クーマが悲しそうな顔で見下ろしている、
「クーマ様、何故? 」
「お前のその力は何のためにある、思い出せ」
クーマが歩き始める、触手が襲いかかる、いつの間に抜いたのかクーマの剣が触手を霧散させる、
「ほぉ~、その駄目騎士よりは使えるようだな・・・」
ドラーラの首が落ちる、
『何だと? 俺を切ったのか? 』
「やはり、注意すべきはお前だな」
ドラーラの身体が首を拾って本来あるべき場所に乗せる、
「しかし、所詮人族、いくら強かろうが、そこまでだ」
ドラーラが周りを見渡す、
「やってくれたな、丁度いい」
ドラーラの触手が伸び、仲間に突きき刺さる、まだ生きている者がいる、とたんに干からび絶命する、
ドラーラの魔力が上がる、周りに漏れ出る程の魔力、その場の空気が震える、圧力が襲う、
「はぁーー」
ドラーラが息を吐く、その顔には邪悪な笑みが浮かぶ、
「お前達出ろ」
影の中から三人が姿を現す、
『三人? そうかグルフはやられたか』
「カル、ギグム、ショーガ、行くぞ」
ドラーラが小さく呟く、
カルは騎士風、
ギグムは筋肉隆々の大男、
ショーガは細身のインテリ風、
ギグムがポニーを見る、
ポニーが二人を離れ前に立つ、
ギグムがニヤリと笑う、
その瞬間驚きの顔に変わる、
ポニーの一撃が肩口から腹のあたりまでを切り裂いた、
ギグムがまたニヤリと笑う、傷口が塞がる、
「今度は俺だ、小手から刃が伸びる」
同じ様に肩口から斬り裂こうとした刃が飛び散る、
ギグムの顔が驚きに変わる、
「硬いなお前」
その時ポニーの一撃が顔面を捉える、おかしな方向に曲がった首をもとに戻し、ギグムが笑う、
「お前は強いな、でも俺達は不死身だお前達に勝ち目は無い」
ポニーの一撃がギグムの首を飛ばす、転がり落ちたギグムの首が笑う、無駄だと言ったろ、ギグムが首をひらおうと歩き出す・・・
『体が動かない、何だ? 』
ポニーが肩口に噛みついている、
両手で押さえ腕ごと噛み千切る、
「いくらやっても無駄だ」
転がったままのギグムの首が笑う、
そのギグムの顔が変わる、嘲笑から驚愕に、
噛み千切った腕を咥え体を地面に叩き付け押さえ込む、
ポニーが座り込む、音がする、何かを噛み砕き咀嚼する音、
「お前、何をしている、何を食ってる! 」
ポニーが振り向く、その口には、ギグムの手首が残っていた、ポニーが頭をしゃくる、手首が消えていく、
『食われた、俺の腕が食われた、どうなるんだ? 』
ポニーがギグムの体をはたく
首の前に転がってくる、
「お前よくも俺の腕を」
ギグムの体が立ち上がろうとする、
それをポニーが押さえ込む、ポニーの顔がギグムの顔に近づく、
一瞬、ニヤリと笑ったように見えた、
ギグムの体が急速に治っていく、だが腕が再生しない、
『食われたから、クソッ! 』
嫌な思いが頭に浮かぶ、咄嗟に起き上がろうとした体が動かない、ポニーががっしり押さえている、
目の前に大きな牙が見える、
『やめろ』
ポニーが目の前で見せ付けるように腹に喰らいつき、引き千切る、また喰らいつき引き千切る、
「やめろ、やめろぉー! 喰うなぁー! 俺を喰うなぁ! 」
ポニーが見せ付けるように咀嚼する、
『駄目だ、駄目だ、喰われたら再生しない』
頭が痺れる、無いはずの痛みが襲う、必死で抵抗する、しかしポニーには全く効かない、
ゴリィ、ゴリィ、ゴキィ、背骨が砕けた、
ギグムの身体は上下に分かれ動かなくなった、死んではいない残った体が再生する、しかしギグムの魂は死んでいた、
ショーガがシフォンとノランに攻撃を仕掛ける、魔法による連続の攻撃、
しかし結界がそれを遮る、一瞬攻撃が止まる、シフォンが飛び出す、
『かかったな愚か者』
火球がシフォンを襲う、その火球がシフォンに吸い込まれていく、その瞬間シフォンがカルを切り裂く、
『その剣は何処に? 』
しかし、ショーガの傷が回復する、
「馬鹿め! 」
風が巻き起こりシフォンを襲う、
「細切れにしてあげましょう」
風が消える、そこには青い風が舞っている、その中から無傷のシフォンが飛び出す、
「何故! 」
『ならば! 』
雷鎚がシフォンを襲う、また青い風がシフォンを包む、雷鎚が風に巻かれ消えていく、
「バカな!? 」
青い風がショーガに纏わりつく、
『何だこれは? 』
ショーガの体が切り刻まれていく、
『何!? 』
ショーガが岩の壁を作る、青い風が岩を切り裂く、
『どうして? 』
いくつもの岩壁を作ってその場を離れる、傷が回復する、
「フハハハ、驚きました、これ程とは、しかし私は不死身、この程度では勝てませんよ」
ゴリィ、ゴリィ、ゴキィ、
『なんの音だ? 』
振り向いた先にギグムの無残な姿が見える、
「何だ? どうした? ギグム! 」
景色が傾く、
『しまった! 』
落とされた首が転がる、
『しかしこの程度では』
ショーガの体の前、シフォンが剣を収める、
「諦めましたか」
シフォンが一瞥して、ニッコリ笑う、
「ポニー食べやすくしておきました、食べ過ぎないようにね」
「えっ」
ショーガの体がバラけていく、その向こうにホーンベアの牙が見える、
『ギグムは食われた? 』「やめろぉー! 」
ぐわうっ、
バラけた肉片をポニーが食べる、
「うわぁー! やめろぉー! 喰うなぁー! 」
体が再生していく、その身体の胴体が縦になくなっている、のたうち回る手足、気の触れたショーガの笑い声が響く、
カルとマルガが対峙する、
カルが剣を抜き正面に構える、マルガが剣を構える、
「私は負けない、王と王妃、民の仇、決して許さん」
マルガが剣振る、ギンッ!
カルが正面から受ける、力と力の押し合い、
『互角か』
双方が剣を引き、構え直す、
「どうした? お前の力はその程度か? 」
カルが剣を振る、
『速い! 』
剣を受け流し剣を振る、少しずつ速度が上がる、
『何故だ? 剣が重い』
少しずつマルガの剣が遅れていく、
『思う様に裁けない、徐々に押されている、何故? 鎧も何故かしっくりこない、どうして? 』
マルガの顔に焦りが滲む、汗がつたう、
「どうしたんだ? まったく張り合いがない、少し本気で行くぞ」
「何!? 」
その瞬間、脇腹に激痛が走る、
「ぐあっ! 」
思わずよろめく、そこを突き飛ばされ地面に転がる、直ぐに立て直し剣を構える、
「いい鎧だな、傷一つ付かないか、お前、その鎧と剣は借り物か? 」
「何だと! 」
「実力に見合っていない、それとも手を抜いているのか? 」
「ふざけるな! 」
マルガが斬りかかる、
『体が重い! 何故! 』
カルが避け、足を払われる、
転がるマルガ、
『何故だぁー! 』
魂が叫ぶ、でも鎧も剣も応えない、
『あの悲しそうな顔・・・見離された? クーマ様に・・・』
「マルガ! あなたは誰ですか! 」
シフォンとノランの声が聞こえる、
「私は誰? 私は・・・護る者・・・女王と民を護る者」
カルが剣を振り被る、
「最後だ」
剣が振り下ろされる、間に合わない、
「マルガぁー! 」
シフォンとノランが叫ぶ、
ギシィ!
マルガの雰囲気が変わる、
「ほぉぉー」カルの顔に笑みが浮かぶ、
カルが剣を引く、
立ち上がるマルガが剣を構え直す、
「それが本来の姿か」
先程までの鎧と明らかに違う、鎧が薄っすら光を放つ、剣も光を宿している、
カルが剣を構え直す、
「騎士よ、すまなかった、我を忘れていたようだ」
「構わない」
「クーマ様、申し訳ありません、私は護る者、忘れていた様です」
鎧の違和感が消える、剣が軽い、
「いきます」
「来い! 」
シュン!
カルが驚きに目を見開く、目の前にマルガはいない、
受ける間もなかった、
剣が中程から斬れて地面に落ちる、
カラン、軽い金属音が辺りに響く、
「見事だ」
カルの上半身がずれ落ちる、ガチャ!
鎧ごと斬られた体が地面に落ち、鎧が金属音を鳴らす、
マルガが振り返り剣を構える、
「不死なのだろ、立て」
「いや、確かに不死ではあるが、これ以上の戦いはしない、今のお前には勝てない、俺の完敗だ」
「潔いな」
「俺も騎士の端くれだからな」
「で、どうする? 」
「王の戦いを見届ける」
「良いだろう」
マルガが剣を収める、
カルが体を元に戻そうと足掻いている、
マルガがそれを助ける、
「済まない、感謝する」
体が繋がり傷口が消える、
カルが立ち上がり、斬れた鎧を外す、




