第92話
詰所
ソルと別れ、詰め所の一室、
三人でソファに座り一息つく、
街の様子は気になるが、アンデッドワイバーンの撃退以降大きな動きはない、所々に魔獣が侵入し小競り合いは続いているが、現状は問題なし、ソルは一度巣に戻ると言っていた、
クーマは、態度には出さないように気をつけてはいるが、いまだ何故か落ち着かない、
それでもシフォンが気づき問いかけてくる、
「クーマ様、何か気がかりが? 」
「いえ、月が重なる時・・・それは今夜」
「そう言えば・・・」
嫌な思いが一気に膨れ上がる、
轟音と共に、地響きが襲い、防壁が震える、
同時に嫌な気配が周りを囲む、
マルガが建物を飛びだす、
クーマとシフォンが少し遅れて後を追う、
『爆発音は3つ』
外に近づくにつれ剣戟の音が聞こえる、
思わず駆け出す、
詰所のある建物から奥、宿舎の方から黒煙と土煙が上がる、周辺は既に見知らぬ者たちとの戦いが始まっている、
「クーマ様、あれは吸生鬼! 」
「吸生鬼? 」
『以前聞いた話、シフォン達が故郷を離れた原因』
「クーマ様、屋敷と街が! 」
マルガが叫ぶ、
黒煙が上がり炎が見える、
「クーマ様! 」
シフォンが叫ぶ、
クーマは意識を屋敷に飛ばす、メイド達がかなりやられている、まだ死者は出ていない、
屋敷にも吸生鬼達の気配がある、その中に一つ禍々しい気配がある・・・
「シフォン! 」
「はい」
シフォンがクーマを見る、
「畏まりました」
クーマの言いたいことがわかったようだ、
シフォンが跪き目を閉じる、
クーマがシフォンに力を注ぐ、胸の飾りと指輪が浮き上がり、光を放ちシフォンを包む・・・
光が消えたそこには、ドラゴンの翼に赤い鎧を身に纏うシフォンがいた、
「シフォン、いくぞ」
「はい」
「解放! 」力が注がれる、シフォンの力が一気に上がる、力の大きさに思わず顔をしかめる、ドラゴンの翼が高々と広がり、力が溢れ出す、
ヴァシィィー! という音とともに光が波動となって駆け抜ける、
触れた吸生鬼の動きが止まり、苦しんでいる、
それとは対照的に、兵やメイド達の傷が治り力を取り戻す、
形勢は逆転した、しかし数が多い、魔獣も居る、
マルガが叫ぶ、
「クーマ様! 屋敷へ! 」
「シフォン行くぞ! 」
「はい! 」
クーマが走り出す、シフォンも全力でついてくる、
西門前ではレプタイルが侵入した敵を迎撃している、
敵が二人に襲い掛かる、
上空から光の矢が敵を貫く、
「アグネス」
「クーマ様! 女王様! 先へ! 」
クーマがアグネスに拳を上げ応える、
「皆! 誰一人此処を通すな! 」
アグネスが剣を抜き防壁を駆け下りる、
目の前に倒れたレプタイルが見える、剣を振り上げる敵、
『やられる! 』
そう思った瞬間レプタイルを庇い剣を受けていた、
無理な姿勢で受けたため、体勢が崩れる、
『追撃が来る・・・こない? 』
目の前には薄く金色をまとうレプタイルがいる、アグネスが思わず見惚れる、レプタイルも見つめている、
そこに敵が襲いかかる、振り下ろされた剣をアグネスが受ける、レプタイルが噛みつき投げ飛ばす、
レプタイルとまた目が合う、アグネスが笑って見せる、レプタイルが笑い返したように見えた、
そこからはアグネスとレプタイルが場を支配した、
街に黒煙と土煙、
『ここもやられたか』
吸生鬼と傭兵、魔獣達が溢れている、
『一体何処から』
街の一角に大きな穴が、そこから煙が立ち昇る、
『地下から来た? 』
セルファ、コニーが戦っている、俺は少し速度を落とす、
シフォンが追い抜き叫ぶ、
「クーマ様! 屋敷へ! 」
クーマはそのまま、もう一度加速、目の前の魔獣達を蹴散らして屋敷へ向かう、
途中、屋敷に向かう一団を蹴散らし、屋敷へ走る、
屋敷は跡形もなく破壊され、所々に火の手が上がる、
既に回復したメイド達が吸生鬼達と戦っている、
魔法の火球や氷の槍が吸生鬼達を襲う、
その奥では魔獣が戦っている、
かなり高レベルの見知らぬ魔獣とポニー、
ポニーの毛は白金に輝き魔獣を圧倒している・・・
『あの魔獣、何か様子が変だ、敵意が感じられない』
「クーマ様! 」ジェルダが駆け寄る、
「クーマ様、ノラン様が攫われました」
「ノランが攫われた? 」
「ジェルダ話せ」
「はい、先ほどいきなり屋敷が爆破され、アルベル様、ノラン様を初め、ほぼ全員がダメージを受けました」
「多分、屋敷を爆破したのは爆石、魔法感知にかかりませんでした」
「それと侵入経路は、多分あの魔獣マルケラ、多分爆石もあそこで爆破したものかと」
「アルベルは? 」
「はい、ノラン様を追いかけています・・・」
「どうした? 」
「襲撃者は吸生鬼達の王・・・ドラーラでした、あれは前王を手に掛けた者、許されざる罪人! 我らにとって永劫の敵! なのに、敵が邪魔で後を追えません」
「ジェルダ」
ビクッ、
『静かな声、でも、どんな氷の魔法より冷たい声、何これ怖い・・・』
「ノランを攫ったやつは、ドラーラで間違いないか? 」
「は、はい」
「なら、心配しなくていい、あいつは俺の妻に手を出した、死すら生ぬるい」
ポニーの戦いに決着がついた、
ポニーが腕を振り上げる、最後の一撃、
「ポニー! 待て」
グルァ、ポニーが振り向く、
屋敷崩壊の少し前
屋敷の執務室
アルベルは執務室を片付けている、
同じ部屋ではノランが寛いでいる、
「ノラン手伝ってくれてもいいんですよ」
「何を言ってるんですか、私は疲れています」
「それは私も同じですよ」
「私は女です」
「あのね、ノランそれは卑怯ですよ」
「フフフ、冗談です・・・皆、無事で良かった」
「そうだな」
「ジェルダのあの力、凄かったわね」
「ああ、あれは何だ? 」
「魔力と神力の融合」
「融合!? 聞いたことはある、だが実際には・・・」
「ええ、ほぼ不可能、出来たとしてもリスクのほうが高すぎる、それに少し違う気がする、まぁ、クーマ様が関わっています、わかるはずがありません、あの子だってわかっているかどうか」
「だな」
「それよりも、街がかなりやられました、頑張ってくださいね、領主様」
「ぐっ、こんな時だけ、卑怯者! 」
「女王から言われたはずです、役回りは維持すると」
「女王様〜! 」
「泣いても無駄ですよ」
その時二人が緊張する、何かが来る、警戒する二人、
作業場のジェルダとミー・スー・アン、最も作業場は半分はなくなっている、
「はぁ~、クーマ様が集めてくださった素材が駄目になる」
「本当ですね頑張ったのに」
四人はのんびりとコーヒーを飲んでいる、
「でも、やっとのんびり出来るわね」
「私はカフェが心配です」
「そうね、せっかくの新作を・・・」
その時、ジェルダが叫ぶ、
「だめー! 」
轟音と共に爆煙が上がり屋敷が吹き飛ぶ、
爆風で作業場も吹き飛ぶ、ジェルダが咄嗟に張った結界のおかげで四人は無事、慌てて屋敷へ走る、
外にいた数名のメイドが吹き飛ばされた、ただ屋敷には多数のメイドがいた、ジェルダは、魔力感知を使って仲間を探す、
『何があった』
あの一瞬感じた嫌な魔力、魔力感知が反応する禍々しい気配、
「何かいる・・・」
屋敷の残骸が盛り上がる、
「魔獣? マルケラ? なんでこんな所に」
屋敷のあった場所には大きな穴、ジェルダに怖気が走る、
『こいつの気配じゃない、まだ何かいる! 』
魔獣の穴からなにかが出てくる、
「吸生鬼! 」
穴の付近にいる奴、見たことがある、土煙が晴れる、
「ドラーラ! 」
ジェルダが魔法を放つ、魔獣がそれを防ぐ、
『強い! 』
魔力の威力を上げ、連続で魔法を放つ、しかし魔獣には効かない、
ドラーラがこちらを見る、脇に抱えているのは・・・
「ノラン様」
ドラーラが穴へ消える、その穴から吸生鬼達が飛び出してくる、数が多い、
ジェルダは魔力感知に掛かった動けない仲間に結界を張る、
『死者は? いない、ならば当面はこれでいける』
穴の周辺の吸生鬼達が飛び散る、誰か居る、黒煙と血煙の中にアルベルが居る、
ダメージが大きい、かなり押されている、先に飛び出した吸生鬼達が戻って来る、このままではまずい、何とか防戦はしているがダメージが大き過ぎる、
その時波動が走る、
「女王・・・」
『この力は、女王の力だけじゃない、クーマ様の力』
吸生鬼達が苦しむ、仲間の傷が治り回復する、倒れていたメイド達が立ち上がる、ダメージは無くなった、一気に押し返す、
アルベルの声がする、
「ジェルダ、クーマ様に伝えろっ! 」
そう言うと穴に飛び込む、
『ドラーラを追撃するつもり? 一人では危険、誰か応援を』
しかし押し返しているとは言え、戦闘は継続中、今は誰も行けない、しかも魔獣が立ち塞がっている、
『クソッ! まだ魔力が回復していない、この力を使いこなせていない』
少し離れたところで土煙が舞う、
『あれは、ポニー!? 』
土煙が魔獣に向かって走る、ポニーが土煙から飛び出し魔獣に飛び掛かる、
「ポニーだめっ! そいつは固い! 」
魔獣が前足を盾に身構える、先程魔法を防いだ強固な前足、
ポニーが腕を振り上げ叩きつける、魔獣の前足が吹き飛ぶ、
唖然とするジェルダ、
ポニーの攻撃は続く、魔獣は残りの前足で防いでいる、しかしポニーの攻撃はやまない、とうとう魔獣の前足が砕ける、決着がついた、
ポニーが腕を振り上げる、最後の一撃、
「ポニー! 待て」
グルァ、ポニーが振り向く、




