第9話
風の音が心地いい、周りから景色が消える、
前方から何かが一気に近づく、
『ノランか』すれ違いざま、
「先にいきます! 」
先行するノラン、後ろから何かが近づき、横を疾風が通り過ぎる
『一瞬クーマ様がこちらを見て笑った』
「ポニー! なんて速さ」
あんなに速いポニーは初めてみた、
思わず笑みが浮かぶ次の瞬間、私は馬を疾走させた、
だが、ポニーはどんどん小さくなっていく、馬が苦しそうだ、速度を落とし速足にする、
『クーマ様が来てから、女王は色々な顔を見せる、あんなに楽しそうなのは、何時ぶりだろう、今はこれでいい・・・』
「ずっと続けばいいのに・・・」
ノランを追い抜き、暫くすると遠くに町の入口が見える、
『遠くに・・・近い! ポニー速度を落とせ!』
グァ?、
「町が近い! 」
急激に減速する、俺は足に力を入れ身体を固定する、
シフォンが背中に押し付けられる、
「うっ! 」シフォンが呻く、
速度が落ち着き、シフォンが声をかけてくる、
「楽しかった・・・」小さくて聞こえない、
「シフォンさん大丈夫ですか? 」
「楽しかった! あんなの初めて! ポニーがあんなに速いなんて」
興奮している、
グァッグァッグァッーポニーもご機嫌だ、
正直俺も気持ちよかった、
少し遅れてノランが追いついてきた?
「お嬢様大丈夫ですか!? 」
「クーマ様! ポニーのあの速度はなんですか!
びっくりしました! 」
「ああ、ポニーが張り切っちゃって」
「ノラン楽しかった! すごく早かった! あんなの初めて! 」
シフォンはまだ興奮している、
グァッグァッグァッ、
ポニーもまだご機嫌のようだ、詰所に向かいながらも何故かステップを踏むような歩き方だ、
三人と1匹は興奮冷めやらぬまま詰所に向かった、馬だけはどこか疲れているようだ・・・
詰所につくと、皆が慌ただしく働いている、
料理のいい香りが漂ってくる?宴会には間に合ったようだ、
俺達はポニーから降りて一緒に歩く、シフォンとポニーはまだ少し興奮しているようで、仲良くじゃれている?
たまに、ポニーが俺にパンチをくれる、結構痛い、
ノランも馬を引きながら、優しい顔でそれを見ている、
近寄ってきた衛兵に馬を預け、
「お嬢様、私は皆の手伝いに参ります」
「ノランありがとう」
「はい、それでは後ほど、クーマ様も、お嬢様をお願い致します」
「わかりました、後ほど」
アクスが近寄ってきた、
「クーマ殿、ご無事で何よりです、お体は大丈夫ですか」
「はい、おかげさまで助かりました、皆さんにもお礼を言わないと、後でうかがいます」
「わかりました、しかしリザラ相手に逃げ切るとは、恐れ入りました」
「リザラ? 」
「はい、あの魔獣です、肉は大変美味しいのですが、かなり手強い魔獣で、とても素早いんですよ」
「そうなんですか」
「はい、普段であれば何人か、薬草のお世話になるところです、普段であればね・・・」
「まるで一戦して弱っていたような、しかも2匹とも」
「そうですか、では、私と会う前に一戦していたのかもしれませんね、だからあそこまで逃げれたのか、いやー運が良かった」
「クーマ様! 」
「はい、これからは気をつけます」
「ハハハッ、そうかも知れませんね」
『確かに運が良かった・・・』
「それでは後ほど」
「はい」
「クーマ様こちらへ」
シフォンに引かれ皆の所へ、
アルベルトとマルガリータが、テーブルで話をしている、こちらに気が付き手を振っている、
シフォンをエスコートして、そちらに向かう、
かるく挨拶をして、勧められ席に座る、
「クーマ殿は何を飲まれる? 」
「アルコールのないものを? 酒はだめか? 」
「はい、お酒は苦手で」
「わかった」
マルガリータが手を挙げると、メイドが小走りに駆けてくる、
「何をご用意いたしましょう」
「クーマ殿に何かジュースを、シフォンはどうする? 」
「クーマ様と同じ物を」
「承りました」
メイドさんが去っていく
「クーマ君、初日にしては大した成果だな」
「えっ」
「先程ノランから報告を受けた」
「作業台に山積みの素材、しかもほとんどが蘇生薬の素材だと聞いた、正直驚いている」
「有難うございます、ご依頼いただいた以上、期待に応えるよう頑張ります」
「頼もしい限りだ、しかし命は大事にしてくれ、シフォンがうるさくてな」
「お、お父様! 」
「そうだな、アグネスが困っていたぞ、
"クーマ様はまだですか? "
"何かあったのでは? "
と頻繁に聞いていたそうだな」
「お姉様まで! 知りません! 」
プイッとそっぽを向く、
「シフォンさん有難うございます」
シフォンは顔を真っ赤にして、下を向いてしまった、
程なく飲み物と料理が運ばれてくる、
アルベルトとマルガリータは立ち上がり周りを見る、皆に飲み物が行き渡るのを見て、
マルガリータに視線を送る、
マルガリータが大きな声で、
「皆のもの注目! 」
一斉に周りが静かになる、それを確認してアルベルトを見る、アルベルトは少し頷き、
「諸君の変わらぬ忠誠心に感謝する! ご苦労だった! 今日はアクス率いる討伐隊が最高の土産を持って戻って来た、これは、諸君の日々の訓練と都市を守るという信念の現れと思う、今日はダルク家の名において諸君を労いたいと思う、遠慮なく飲んで食べてくれ」
「オー! 」皆から歓声が上がる、
アルベルトが高く盃をかざす、皆が乾杯し一斉に賑やかになる、
二人は席に座り、俺に向かって頭を下げる、見るとシフォンも頭を下げている、
「どっ、どうしたんですか? 」
「特に理由はない気にするな、さぁ、食べてくれ
こいつは美味いぞ! 」
横でシフォンが食べ物を取り分け俺の前に置く、
「さぁ、クーマ様食べましょう」
歓談しながら他愛も無い話をする、
ただ頭を下げた理由は決して教えてくれなかった、
『多分バレているな・・・』
暫く歓談したあと、俺は三人に許しをもらい席を立つ、何故かシフォンも席を立つ、
「どうしました? 」
「私もお供します」
「しかし・・・」
アルベルトが、「構わん連れて行ってやれ」
マルガリータが、「愚痴をこぼされたら叶わないからな」
「お父様! お姉様! 」顔が少し赤い
二人に頭を下げ、シフォンをエスコートしながらアクスを探す、
少し離れた席にアクス達を見つけた、近寄っていくと、アクスが気づき席を立って迎えてくれる、
一緒にいた衛兵も、立ち上がって席を空け、シフォンと俺に勧めてくれる、
「クーマ殿! 」そう言うと皆が一斉に頭を下げる、
『気づいたのはアクスか』
「勘弁してください、皆さんどうかしてますよ、私は"F"ランク冒険者ですよ、皆さんのおかげで今回は生き残った、こちらこそ感謝しています、
シフォンがアクスに目配せをする、
(俺は気づかなかった)
「そうでしたね"F"ランクでしたね・・・でもあなたの無茶のお陰で今日の宴会が有る、領主様もご機嫌ですしね、やはり、あなたのおかげですよ、
ですが、これからは気をつけて下さい」
「はい、肝に銘じます」
「そうしてください、そうしないとお嬢様が大変で・・・」
「アッ、アクス様! 」シフォンが睨んでいる、
「失礼しました、後はお嬢様からお聞きください、さぁ、飲んでください」
「アクス様、クーマ様はお酒がお得意ではないようです」
「そうでしたか、アンジー! 」
「はい、飲み物ですね、すぐにご用意します」
「あ、すいません」
「取り敢えず、食べて待っていましょうか」
「はい、それでは遠慮なく」
飲み物が、すぐに運ばれてくる、シフォンは横でニコニコしながらジュースを飲んだ、
『何! これ、美味しい! 』一気に飲む、
「すみません! これのおかわりを下さい」
直ぐに新しいジュース? が、運ばれてくる、
シフォンは横でニコニコしながらジュースを飲んでる・・・『ジュース? 顔が赤い? 』
「シフォンさん、何を飲んでますか? 」
「ジュースで〜す・・・」
アルコールの臭がする・・・
「シフォンさんお酒飲んでます? 」
「いえっ! ジュースです! 」
目が据わっている、
「あっれ〜・・・クーマ様いっぱい居ますね」
アクスはシフォンのコップを取り、匂いを嗅ぐ・・・頭を押さえる、
「アンジー! お嬢様に何を渡した? 」
「えっ、あの〜・・・」
「ジュースと王の・・・」
「ワァー! 」
アクスが絶叫する、
「お、じょ、う、さ、ま、に何を渡した」
「あっ、すいません! お嬢様の好きな物をと・・・」
シフォンは横でコロコロ笑っている、
その日、宴に終わりはなかった、