第89話
屋敷前
皆が忙しなく走り回っている、死傷者はいなかったがあちらこちらに火の手が残る、魔法士たちが消火に追われている、
一部の者はワイバーンの死骸を片付けている、積み上げては魔法士が炎で焼いている、
「ワイバーンって美味しんでしょ、焼いちゃっていいの」
「大丈夫、しっかり食料は確保してます、でもさすがに多すぎるでしょ」
「しばらく肉に困らないわね」
「確かに」
メイドたちが納得している、
「でも、あのでかいのはどうするの」
「うーん、何か臭いのよね、あれ」
「確かに臭い」
その時ワイバーンの目が動いた、
「えっ、ちょっと」
「何どうしたの? 」
「今、目が動いたような? 」
「ちょっとやめてよ」
ズズズッ、と地面を引きずるような音、
「動いてる・・・」
死んだはずのワイバーンが動き出す、焼けた肌がズルズルと滑り落ちる、一気に腐臭が広がる、
「これ、ワイバーンじゃない、ドラゴンゾンビ! 」
「アルベル様! 」
アルベルが声の方に振り返る、
その先には今まさに動き始めるワイバーンの死骸が見えた、
「あれは、ドラゴンゾンビ! だから痛覚がなかった」
ギシャァァァーー、
雄叫びが響く、
「総員戦闘態勢! 」
皆が一斉に集まり武器をかまえる、魔法士が魔法を放つ、しかし、ドラゴンゾンビには効いていない、
アルベル達が剣で攻撃をかける、ドラゴンゾンビが腕を振る、緩慢だが強力な爪の一撃が目の前を通り過ぎる、焼け焦げた皮膚と腐肉が飛び散る、
緩慢な動きで一歩づつ地響きを立て屋敷に向かってくる、
「クソッ! 止めれない」
食堂
雄叫びに屋敷が震える、
「何!? 」
ミーニャが身構える、
「ミーニャ、ジェルダをお願い」
ノランが食堂を飛び出す、
ジェルダの蛹に光の筋が走る、
徐々に光が広がっていく、
固まっていた外殻が力を失い服に戻る、中から光る杖を抱いた少し成長したジェルダが現れる、
光がジェルダに吸収されていく、
振動に屋敷が揺れる、
ジェルダが目覚める、
「ジェルダ」
「お早うございます師匠」
シャリーンの姿が被る、思わず目を擦る、
「シャリーン? 」
「待たせたわねミーニャ」
「シャリーン? ジェルダは? 」
「師匠、私ですよ、どういう事か二人同時に目覚めているようです」
「どうして」
「クーマ様の力、それ以外はわかりません」
また屋敷が揺れる、
「これは? 」
「突然雄叫びが聞こえて・・・」
ジェルダが天井を見る、
「あいつ、アンデッド、師匠行ってきます」
「ちょっと目が覚めたばかりで無茶はダメ」
「いえ、大丈夫です、そうしないとクーマ様にお相手して頂けません」
「えっ」
「師匠、今のは内緒です」
「では行きます」
振動が大きく近くなる、エントランスに出ると、ノランがいる、
「ジェルダ、目覚めたのね」
「はい、お待たせしました」
皆が戦っている、ミー、スー、アンも上手く結界を使ってサポートをしている、
『あの子達上手くなったわね』
「アルベル様! 」
アルベルが振り返る、
「ジェルダ、目覚めたか! 」
「おまたせしました、そいつの動き、止めれますか」
「フッ、難しいことを」
「アルベル様! 」
マーリーとアニーが戻って来た、
「北は! 」
「ハクジャ殿が来ました! 」
「わかった! マーリー、アニー、足を止めろ! 」
「えっ〜」
抗議の声、しかし二人は笑っている、
「行くわよ」マーリーが言う、
「ええ」アニーが答える、
アルベルがドラゴンゾンビの前に立つ、
「ジェルダ行くぞ! 」
「はい! 」
マーリー、アニーがドラゴンゾンビの足を切り裂く、皮膚と腐肉が飛び散る、
しかし効かない、一直線に屋敷に向かっている、
「クソッ! 」
攻撃を無視して進むドラゴンゾンビ、
「何だこの執着心は」
ミー、スー、アンの結界がドラゴンゾンビの足を掬う、
「今だ! 」アルベルが叫ぶ、
マーリーとアニーが突っ込む、
結界で浮き上がった足を同時に薙ぎ払う、
足を払われ前のめりに地面に突っ込む、
その前にはアルベル、
上段に構えた剣を頭に叩きつける、
ドォガァン!
とても剣で斬りつけたとは思えない音が響く、
ドラゴンゾンビの動きが止まる、
「ジェルダァ! 」
ジェルダの杖が光を放つ、
「我は護る者、仇なす者を燃やし尽くせ」
業火がドラゴンゾンビを包む、
「師匠! 」
「我は護る者、光よ仇なす者を浄化せよ」
2つの魔法が合わさる、赤い炎が青く色を変え光を放つ、
ギシャァァァーー、
長く尾を引く2度目の断末魔の叫び、
炎の中、紙が燃え尽きるようにドラゴンゾンビが消えていく、
「安らかに眠れ」シャリーンが呟く、
生き残ったワイバーン達が飛び去って行く、
西門
屋敷の方角に特大のワイバーンが見える、
『あいつは』
クーマが止めを刺したはずの特大のワイバーン、「違和感の正体はこれか」
「クーマ様、恐らく、あれは、ドラゴンゾンビ」
「ドラゴンゾンビ? 」
「はい、それが、ワイバーン群れを引き連れていたようです」
「みたいだな、因みに教えておく」
「はい」
「ドラゴンは高位の存在だ、死ぬことは無い、再生はするがな、したがってゾンビにはならない」
「では、あれは」
「さっきの特大ワイバーン、アンデッドだったようだな」
「本来ドラゴンは滅多に人の目には見えない、よく勘違いされているが、ドラゴンと呼ばれている魔獣のほとんどが、でかいトカゲだ」
「わかりました、覚えておきます」
「ああ」
クーマは何かを考えている、
「クーマ様! 行きます! 」
シフォンとマルガが走り出そうとする、
「待て」
『アンデッドが仲間を従えて街を襲う、そんな話し聞いたことがない、誰かが操っている、何処から? 』
北の森の向こうから気配がする、
「やはり北か」
クーマが気配の正確な位置を探る、
『そこか! 』
「二人はここに」
「「はい! 」」
クーマが辺りを見回す
防壁上にアグネスが見える、
「ソルあそこへ! 」
クーマがソルに飛び乗る、
「アグネス! 弓を! 」
「クーマ様! 」
アグネスが弓を投げる、
「これも! 」
矢筒を投げる、
ソルが咥える、
「ソル! 空へ! 」
ソルが空へ駆け上がる、
クーマが集中する、
「どこだ・・・いた」
「ソル、矢を」
ソルが加えた矢筒を上げる、
クーマは一本の矢を弓に番える、
クーマが弓に力を通す、弓が輝き形を変える、小手に弓を直接付けたような形、弦が光り、光が矢に集まり鏃がひときわ眩く光る、限界まで引き絞った弓から矢を放つ、
ドンッ! と大きな音と共に矢が一条の光となり空を切り裂く、
少しして、北の方角に小さな火柱が上がった、
屋敷の方角に眩い光が見える、真っ赤な炎? その色が青く変わる、ドラゴンゾンビの絶叫が響き小さくなっていく、
『ジェルダ、目覚めたな』
クーマが防壁上に降りてくる、
「クーマ様、今のは? 」
「ええ、片付いたようですね」
「アグネスさんこれを」
クーマが弓と矢筒を差し出す、
「これは? 」
「お借りした弓と矢です」
「えっ」明らかに見た目が違う、
「あの、これは? 」
「お借りした弓と矢ですが」
「いや、どう見ても別物ですよね? 」
『どう見ても小手? 』
「ああ、ちょっと形が変わってしまいましたが、お借りしたものに間違いありません、どうぞ」
『ちょっと、とは? 』
アグネスが受け取る、
「嵌めてみてください」
アグネスが小手をはめる、
シフォンとマルガが駆け上がって来た、
「クーマ様! あの炎は!? 」
「ジェルダが目覚めました、もう大丈夫ですよ」
「ジェルダが・・・」
「クーマ様は何を? 」
「ああ、のぞき魔がいたので潰しておきました」
シフォンとマルガが北の方角を見る、遠くに煙が見える、
シフォンとマルガが顔を見合わせる、フフフ、笑みがこぼれる、
「ところでそれはなんですか」
「ああ、先程アグネスさんにお借りした弓です」
「弓? 」
「アグネスさんこれを」と言って矢を一本渡す、
矢を受け取りクーマを見る、
クーマが壊れた西門の上に立ち外の大木を指さす、
「アグネスさん小手に力を」
アグネスが小手を付けた腕を伸ばし力を込める、
シャキーン、
小手に付いた弓が起き上がる、カシン!
クーマが使っていた小手に同化した弓、薄っすら光る弦に矢を継がえる、光が弦から矢に移る、
視界が狭まる周りが見えないわけじゃない、狙った物が近くにあるように見える、直ぐそこに・・・気が付いた時、矢は大木を貫いていた、
『えっ、何? この威力? えっ〜』
シャキン、弓が小手に畳まれる、
「えっ! 」
「どうですか、使いこなせますか? 」
「はい、必ず使いこなします」
「良かった、それでは」
「はい、有難うございます」
「シフォン、マルガ行きましょうか」
「「はい! 」」
街の上空には飛び去って行くワイバーンの姿が見える、




