第80話
食堂
食堂へ入ると三人が駆け寄ってくる、
「クーマ様、お早うございます」
「お早うございます」
軽くハグをして、朝食の席につく、
三人が集まりヒソヒソと、
『早いですね』
『そうね』
『一回だけですか』
マルガの言葉に三人が顔を赤くする、
「何を話しているんですか、やってませんよ」
「アハハハ、ごめんなさい」
「私をなんだと思ってるんですか」
「アハハハ、よく我慢できるなと」
「今から行きますか? 」
「えっ、へへへ、ジュル」
「はぁ〜、何時までも一緒に寝れませんよ」
「うっ、分かっています」
「なら結構です」
「さぁ、朝食をどうぞ」
ニーアとモリーが朝食を運んでくる、
「えっ」食卓に並んだのは、肉、
厚みのあるステーキが皆の前に並ぶ、
ミーニャがため息をつく、
「あなた達、なぜこの料理を? 」
「はい、今日はクーマ様が訓練に出られるとお聞きしましたので、しっかりした物の方が良いかと」
「だそうです」
「有難うございます、でも訓練では無く散歩ですよ」
「いただきます」クーマが肉にかぶりつく、
皆も笑いながら朝食を口に運ぶ、
「ミーニャさん美味いです」
「そうですか、良かった、二人も喜びます」
「女王様、如何ですか」
「美味しいわ、先生が良かったのかしら」
「フフフ、有難うございます」
シフォンが耳打ちする、「大丈夫」
「ふっ、私を誰だと思っているんですか、凄く我慢してます」
「やっぱり」
「はい、でもご心配なく、多分大丈夫です」声が小さくなる、
「ミーニャ〜」
フフフ、二人が笑っている、
食後のコーヒーを飲みながら今日の予定を話す、
「この後、東門で合流して散歩に出ます」
「時間は? 」
「朝食後に集まるとだけ」
「分かりましたご一緒します」
「有難うございます」
朝の東門前、
「皆、おはよう・・・早いわね」ノランが声を掛ける、
「ハハハッ、早く来すぎてしまってな」
「お前達もか? 」マルガは呆れ顔、
アハハハッ、皆笑っている、
「ふぅ~」ため息をつく、
マルガが気付く、
「皆、その装備は? 以前見たものと少し違うような」
「つかってたら、かわった」
今は子供モードのセルファが答える、
「変わった? 」
「ああ、クーマ様の武具は変化する、使えば使うほど」
アルベルが後を継ぐ、
「そう言えば私の装備も変化している」
アクスが自分の装備を見ている、
『変わって無い』落ち込む、
「アクス、どうした? 」
マルガが声を掛ける、
「いえ、何も・・・あの、マルガ様、後で模擬戦をお願いします」
「どうした? 」
「はい、まだまだ訓練が足りないと思います」
「アクス、心配するな、お前が必要とすれば、応えてくれる、焦っては駄目だ」
「わかっては、いるのですが、やはり焦ります、自分はまだ認められていないのではと」
「そんな事はない、クーマ様が模擬戦までして確認されたのだから」
「そうでしょうか」
「自分を信じろ、クーマ様は言っておられただろ、魂に応えると」
『魂に応える、そうだ、何を悩んでいる、私は護る者、この力はその為にある』
アクスの鎧が応えるように鈍く光る、
「ほらな」
「はい! この力皆のために」
「お早うございます、お待たせして、すみません」
「いえ、早く来てしまったようです」
「散歩ですよ」
「アクスさんどうしたんですか? 」
「いえ、何でもありません」
「そうですか」
ポニーに乗ったシフォンとノランも声を掛ける、
「お早うございます、アルベル、早いですね」
「えっ、これは〜、その〜」
ノランが一言、「バカタレ」呆れた顔で呟く、
「クーマ様、しっかりしごいて下さい、特にアルベルを重点的に」
「分かりました、にっこり笑う」
「クーマ様・・・」
「では、行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
「皆さん、散歩ですよ、散歩」
「クーマ様、くれぐれもお気をつけ下さい」
シフォンが言う、
「夕飯までにはお戻りください、待っています」ノランが言う、
「はい、必ず夕食には戻ります」
「はい、お待ちしています」
「では」
東門が開く、既に魔獣の気配が濃い、
「皆、これからは敬称は不要、良いですね」
クーマの気配が変わった、皆に緊張が走る、
「前衛はアルベル、マーリー、アニー」
「はっ! 」
「後衛はアルマ、コニー、セルファ」
「はっ! 」
「指揮はアルベル」
「はっ!」
「最後尾は俺がつく」
「目的地は旧坑道、では、行こう」
「はい!」
一行は暫く獣道となった旧道を進む、
「てき、セルファがつぶやく」
直ぐに草むらから、数匹の魔獣が現れる、
「前衛で潰す! 後衛は警戒! 」
マーリー、アニーが飛び出す、瞬殺!
二人は改めて自分の剣を見る、
「つぎがくる」
上空に数匹の魔獣、
「コニー、結界だ! 対空戦! セルファ落とせるか? 」
「わかった」
セルファから光弾が飛ぶ魔獣に命中、
「いっぴきにがした」
「任せろ」
アルベルの正面に急降下から低空での攻撃、構えた剣が切り裂く、落下した数匹をマーリー、アニー、アルマが仕留める、
その後も魔獣の襲撃は続く、
「おかしい、こんなに襲ってくるなんて」
戦闘は続き皆に疲れが見え始める、
ここまでクーマは手を貸していない、
少しして、旧坑道が見えた、
坑道前の広場に着いた時、
クーマの緊張が解ける、
「ここで休憩しましょう」
クーマが結界を張る、
皆の緊張が解け、その場にへたり込む、それぞれの想い
『これはきつい! 』
『きっつー! 』
『わかっていたけど、これは散歩じゃない』
『身体が鈍ってる』
『この結界は、私の比じゃない』
『おなかがへった』
『クーマ様は? 』
皆がクーマを見る、クーマは鼻歌交じりで食事を用意している、その姿に緊張感はなく、いつものクーマだ、
アルベルが声を掛ける、
「クーマ様、すみませんお手伝いします」
他の者も集まる、
「いいえ、構いません、並べるだけですから、休んでいて下さい、後がきつくなりますよ」
「此後のご予定は? 」
「そうですね暫く休んだ後、坑道の中を散歩して、夕食までに帰りましょう」
「坑道ですか・・・」皆が呟く、
「はい、ですからしっかり休んで下さい」
皆が改めてその場にへたり込む、
「さぁ、準備できましたよ、食べましょうか」
辺りにコーヒーの香りが漂う、急に空腹を感じ皆這うようにその場に集まり食事にかぶりつく、
「いただきます! 」
「美味い! 」
皆が声を上げ無心でかぶりつく、暫く無言で食べ続け、やっと落ち着きコーヒーを飲み始めた頃、皆が話し始める、
「皆、装備はどうだ」
「最高です」
「想像以上でした」とマーリー、アニー、
「クーマ様程では無いけどかなり神力が上がっています、しかも負担が少ないのである程度戦闘も可能です」コニーが答える、
「威力もそうですが、身体能力がかなり上がっています、まだ少し振り回されています」とアルマ、
「それとセルファ、あれは何だ? 魔力なのか? 」
「クーマ様がつくってくれた、まりょくのたんけん、かいしゅうしなくていいからたすかる」
「しかしあの威力なら、かなり消耗するのでは? 」
「しんぱいない、ぼうぐにためたまりょくをつかっているから、じかんがあるときにためてる、まだいっぱいにならない」
「鑑定してもいいか? 」
「だめ、クーマ様とのヒミツ」
皆がクーマを見る、
「えっ、セルファさん誤解を招きます」
「ごめんなさい、いってみたかった」
セルファの顔が赤い?
「アルベル、みてもいいよ」
「いや、いい、多分頭が痛くなる」
「うん、たぶんそうなる」
皆が笑い出す、
「クーマ様、ありがとう、だいじにする」
「こちらこそ喜んで頂けて良かった」
「さてと、皆さん、すいませんが片付けをお願いして良いですか」
「はい、勿論です」
「では、お願いします」
クーマの雰囲気が変わる、
「客が来たようなので」
「客? 」
全員の動きが止まる、
「あれは、ソアー・フェンリル! 」
「伝説? 」
「アルベル片付けが終わったら、先に坑道の散歩に行ってくれ」
「クーマ様、我々も! 」
「あれは俺の客だ、命令する、実行せよ! 」
「・・・わかりました」
「皆行くぞ! 」
「はい」
「お待ち下さい」
皆の動きが止まる、
「フェンリルが喋った? 」
「突然の来訪お許しください、戦闘の意思はございません」
「では、なぜ魔獣をけしかけた」
「出来れば、お帰り頂きたく、軽率な行動でした、申し訳ございません」
「何故? 」
「それは・・・」
「では、敵だな」
「お待ち下さい、この先には、巣が有ります、我が子がおります」
クーマから緊張が抜ける、
「そうか、すまなかった、お前の子を襲う気はない、何処にある」
「丘を越えた所に」
「坑道は? 」
「問題有りません」
「わかった坑道を散歩したら帰る、構わないか? 」
「はい」
「子供、大事にしろよ」
「ありがとう御座います、主よ、失礼いたします」
「ちょっと待て」
「はっ、何か? 」
「俺はお前の主ではない」
「では何とお呼びすれば」
「クーマだ」
「クーマ様、確かに我が魂に刻みました」
「では、失礼いたします」
フェンリルが飛び去る、
「クーマ様、今のは、ソアー・フェンリル、この辺りでは伝説級です」
「そうなんですか、言葉が通じるのはいいですね、余計なトラブルがない」
「はぁ、そうですね」




