第7話
静寂の後、俺の後で魔獣が転がる、
もう一体の方は衛兵が片付けたようだ、
俺は振り向きアクスに頭を下げる、
「有難うございます、助かりました」
「お怪我はありませんか? 」
「はい、おかげさまでなんとか」
「それは良かった来た甲斐があります」
「私を捜索に・・・」『やっぱりか』
「ええ、お嬢様が心配されていますよ」
『そうかシフォンが、皆には申し訳ないことをした』
「申し訳ありません、皆さんを巻き込んでしまって」
「いえ、お嬢様が言わなくても、私は来ましたよ、貴方とは再戦しなければ、いけませんから」
「アハハ、お手柔らかに」
「皆さんもありがとうございます」
「気にするな、アクス様が負ける所なんて、いいものを見せてもらったからな」
「そうだ気にするな」
『皆いいやつだな』
「お前ら明日からしっかり訓練してやるからな」
グァー! 魔獣の声が近づく、
全員に緊張が走る、
俺は少し前に出て皆を静止する、
皆は臨戦態勢のまま少し戸惑っている、
光の中に現れたのはポニーだった、
『やはりお前か! 』
ポニーが俺を見て飛びついてきた、
グァー、俺に抱きつき顔を舐める、
皆は臨戦態勢のままやはり戸惑っていた・・・
「重い助けて・・・ポニー退くんだ」
皆が我に返り、ポニーを退けようと駆け寄る、
ポニーは気づいて慌てて俺から飛び退き、また顔をなめる、
起き上がり頭を撫でてやると、また飛びつこうとしたので頭を小突く、
キョトンとしてその場に座り込む、
また頭を撫でてやると、頭を押し付けてスリスリしてくる、
皆が一斉に笑い出す、アクスも呆れ顔で笑っている、
「ポニーお前も助けに来てくれたのか」
グァ!
ポニーは伏せる姿勢を取り背中を勧める、
「乗れってか? 」
ガウ! 一声吠える、
アクスがそれを見て、
「クーマ殿、先にお戻りください、私たちはこの魔獣を持って帰ります」
「ほおっておくと危険だからですか? 」
「いえ、こいつは美味いんですよ」
ニヤリと笑う、
「皆に伝えておいてください、今晩はうまい肉が食えると」
「わかりました、伝えます、では、先に戻ります」
言い終わるまもなく、ポニーが全力で走り出す、
「ポニーありがとな」
ガゥ!
暫く背中にしがみついていると、門が見えて来た、
門の外にはシフォンを始め、多くの人が集まっている、アルベルトの姿も見える、
シフォンは俺に気づき走り出す、ポニーが全力でブレーキをかけ俺は背中から放り出され、シフォンの前に転がる、
シフォンが飛びついてくる、目には涙が、
『心配させてしまったな』
「シフォンさん、私は無事ですよ、皆さんのおかげで怪我もしてません」
シフォンは抱きついたまま離れない、ずっとしゃくっている、
周りに皆が駆け寄ってくる、マルガリータが差出した手を握りシフォンを抱いたまま立ち上がる、
「無事でよかった」
「アクス達はどうした? 美味しい肉が手に入ったので持って帰ると」
「美味しい肉? そうか!わかった、アグネス! 皆を集めろ! 」
「はっ、わかりました」
直ぐに中に向かって走り出した、
近寄ってきたアルベルトが、
「逃げ足"A"ランクは嘘ではなかったようだな」
と言い笑い出した、
その向こうで衛兵がマルガリータのもとに整列している、
「第一部隊! 防壁南東の警備の強化、防壁からアクス達の警護を」
「第二部隊! アクスが土産を持って帰ってくるようだ、台車を持って迎えに行け」
「マルガリータ様、台車は2台でお願いします」
「聞いたか! すぐに出発」
それを聞きアルベルトが、
『ほう、土産があるのか・・・』
「いいだろう」
振り向き皆に向かって、
「今日は宴会をダルク家が許可する、全力で楽しめ! 」
続いてマルガリータが、
「領主様の許可が出た、遠慮なく楽しめ」
皆から歓声が上がる、
アルベルトはこちらに向き直り、
「クーマ君は風呂にでも入ってゆっくりしてくれ
準備には少しかかるだろう」
「有難うございます、しかし採取した素材がありますので」
「そうかわかった、シフォンいつまでも泣いてないで」(頭を撫でる)
「クーマ君を連れて屋敷に戻ってくれ、それとノランに言って何人かよこしてくれ」
目を真っ赤にしたシフォンが、
「わかりましたすぐに行って参ります」
すごい笑顔だ、
「クーマ様行きますよ! 」
「あ、はい」
ポニーおいで!
ガゥー!
ポニーが走ってきて俺たちの前で止まり伏せる、
シフォンが飛び乗り、差し出したその手を握り後に乗る、
「ポニー屋敷までお願い」
ガゥー! ポニーがかるく走り出す
ポニーの背中で揺られながらシフォンがもたれかかってくる、
シフォンはこちらを見ずに、
「夕暮れになっても帰って来られないので心配しました」
少し怒ってる、こちらを向き、
「本当に心配したのですよ」
「すいません」
「すごく心配しました」
じっと見つめてくる目には、涙がたまっている、
「申し訳ありません」
「後でしっかり説明して下さい! 」
「わかりました、心配してくださり有難うございます」
シフォンはそっと俺の腕を取り抱きしめる、
俺はそのまま優しく抱きとめた、
ガウッ! ポニーが吠える、
屋敷に着いたようだ、
ノランが迎えてくれる、
「ノラン何人かを衛兵詰所へ、今日は宴会です」
「わかりました」
「マーリー」
「はい」
「聞きましたね、すぐに何人かを連れて詰所に行ってください」
「わかりました直ぐに向かいます」
マーリーは屋敷に走って行った、
「ジェルダはどこです? 」
「はい、作業場で待機しています」
「わかりました」
「ポニー作業場に行ってちょうだい」
グァ!
ポニーがゆっくり歩く、
作業場からジェルダが出てきた、
俺達はポニーから降りて作業場の中へ、
「クーマ様素材はこちらへお願いします」
示された作業台にアイテム袋から素材を出す、
直ぐに作業台が一杯になった、
それを見て、シフォンとノランも唖然としている、
横ではジェルダが呆けている、頭を振って我に返ったジェルダが、ノランを見つめて、応援をくださいと懇願している、
「残念ですがあなたたちを除き全て応援に出しました」
「応援・・・て、なんですか? 」
「今日は領主様公認の宴会があります、何でも、いいお肉が手に入ったようです、ですので一部を除き、全員参加でと言ってくださいました」
「じゃあ私達も」
「あなたには仕事があるでしょ、さきほども言ったように一部を除きです、あなたとミー・スー・アンはその一部です」
ジェルダはノランを見つめ、最後の悪あがきをする、
わんわん鳴き真似を始めた・・・
「お肉食べたーい! 」
明らかに嘘泣きだ・・・
それを見ていたシフォンが、お腹を押さえている、目が笑っている、必死に声を抑えているようだ、
俺は、その顔を覗き込み、じっと見つめる、
見つめる・・・
シフォンに限界が来た、
その場に座り込み大きな声で笑い出した、
「アハハッアハッハハハ
くるしい・・・やめて・・・ヒッヒッヒ」
ノランがこちらに来て、シフォンの背中を擦りながら、
「お嬢様どうされたのですか? 」
シフォンはジェルダを指さしながら、息を整えようとしている、
ノランはジェルダを見直して・・・
限界が来た、
シフォンと顔を見合わせ笑い出す、
「ノラン・・・やめて・・・くるしい」
「お嬢様こそやめてくっくっくるしい」
二人はその場に座り込み暫く笑っていた、
ジェルダは悲しげな顔で作業台を見る、
その姿を見て、二人はまた笑いだした、