第69話
「クーマ、結構大変だったぞ、祭りの準備と並行してこっちの準備もしてたからな、女王まで手伝ってくれてたぞ」
「そうだったんですか、気付きませんでした、ありがとうございます」
「クーマ殿、それは私たちの台詞ですよ」
「こちらは? 」
「申し遅れました街のまとめ役の一人、グルナッシュです、この度は我々にも素材を頂きありがとうございます」
「いえ」
「頂いたものの、中々手が出ませんでした、しかし、ケンがクーマ殿に教えてもらったと、剣を見せてくれました、お陰で皆も理解できたようです」
「そうですか、それは良かった」
「あなたは畏まったことが嫌いだとお聞きしましたが、代表して礼を言いたい、ここに住む人族はあなたに感謝しております、今後はなんなりとお申し付けください」
「一緒にここの平和を守ってくださるなら、それで構いません、私にとっては、自分の護りたいものが全てです、我儘なので」
「クーマ殿、あえてお聞きしたい、護りたい者とは? 」
シフォンたちを見る、
「彼女達と彼女達が護るもの、この街の民、ですね」
「それは私たちも含まれると? 」
「あなた達はこの街の民ですよね」
「愚問でした、忘れてください」
「いえ、これからも宜しく」
「はい、あなたとともに歩みましょう」
「大袈裟ですよ」
「グルナッシュ、お話は終わりましたか」
「女王、申し訳なかった」
「いいえ」
「それと女王」
「どうしました」
「改めて、人族を代表して、女王達に礼を申し上げる」
「何を言うんですか、色々ありましたが、今はお互いになくてはならない存在、私達こそ感謝していますよ、これからもお互い助け合っていきましょう、この平和を手放さないように」
「はい、今まで以上に」
「じゃぁ、クーマ様を頂きます」
「はい」
「グルナッシュさん、また」
「はい」
皆の集まるテーブルに座り、皆から祝の言葉を貰う、
『何て、幸せな一時だろう』
クーマが周りを見る、
シフォンが、ノランが、マルガが、そして笑顔で囲む人達、
思わず笑顔がこぼれる、
『しかし、このひと時に、水を差そうとする者がいる』
「クーマ様、怖い顔、嫌でしたか? 」
不安げな顔、
「とんでもない、こんなに幸せなことはありませんよ」
「でも、水を差す馬鹿がいるんですよね」
「ええ、でも気にしていません」
「へっ」
「この平和は必ず守ってみせます」
皆の顔に決意が映る、
「はい、お手伝いしますよ、休暇はゆっくり過ごしたいですから」
「はい、今度はみんなでピクニックに行きましょうね」
「そうですね、でもその前に祭りを楽しまないと」
「はい! 」
「さぁ、飲みましょう」
ジェルダが声を上げる
「よ〜し、飲むぞ〜、みんな飲み物を持ったか」「クーマ様いいですか」
「はい」
「女王、またそれブランデーですよね」
「今日はいいじゃない、ノランだって、それお酒でしょ」
「うっ」
「それに夜のお供できないし」
少し拗ねてる、
「そうですね」
ノランも少し落ち込んでる? マルガも暗い、
「三人共、何かあったんですか? 顔が暗いような? 」
「へっ、あ〜、そんな事ありません! 」
「何を隠してます? 」
シフォンの目を見る、
シフォンが視線を外す、ノランとマルガも視線を合わせ無い、
「シフォン」
「はい」
「何を隠しているんですか? 」
「あの〜、婚姻の儀を行った者は数日、寝屋を共に出来ません」
「え〜と、一緒にいたら駄目ということですか? 」
「いえ、違います、ただ、日没から夜明けまでは駄目なんです、だから一緒に眠れません」
三人が暗い、
「じゃぁ、数日はゆっくり眠れるということですね」
「クーマ様! 」
三人揃って顔が真っ赤だ、
『というか、寝る気無いだろ』
「でも昼間はいいんでしょ」
「えっ、そんな昼間からだなんて〜、エヘッ、エヘヘ〜」
「お嬢様涎」
「はっ、ノランだって! 」
慌てて口元を拭う、
「ジュル」
「私じゃありませんよ」
えっ、マルガを見る、慌てて口元を拭っている、
シフォンとノランが顔を見合わす、
「この子、はまったわね」
「ですね」
マルガが顔を押さえて下を向く、
「見ないでください」
「ハハハ、暫くはゆっくり休みましょう」
「クーマ様、何を言ってるんですか」
「ヘっ」
「クーマ様はゆっくりなんてできません」
「どう言う・・・」
「言えません! 頑張ってください! 」
「クーマ様、今日は私達は防壁で休ませて頂きます」
「どうして・・・あっ、そういう事ですか」
「はい」
三人がじっと見つめる、
腕を広げ三人を抱き寄せる、三人に軽くキスをした後、
「明日の朝食はご一緒できますか? 」
「はい! 勿論です、夜明けに伺います」
「早いですよ」
「でも」
「さぁ、ゆっくり休んでください」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい、また明日」
三人が何度も振り向き部屋を後にする、
ジェルダが挨拶に来た、
「クーマ様先に失礼します」
「はい」
「クーマ様、早く寝てくださいね」
「あ、ありがとうございます」
意味深な笑顔を残し部屋を出て行く、
近衛の皆が挨拶に来る、
「クーマ様我々も先に失礼します、お早いお戻りを」
なぜか少し皆の顔が赤い、『飲み過ぎたか? 』
そして、また、意味深な笑顔を残し出て行く、
「クーマ様」
ミー・スー・アン、の三人がやって来た、
「ジェルダ様を見ませんでしたか? 」
「ジェルダさんなら、先程挨拶をされ、帰られたかと」
「しまった」
「えっ」
「あっ、なんでもありません、失礼します」
また、意味深な笑顔を残しジェルダを追っていく、
「クーマ」
声の方を見るとケンとマイカがやって来る、グルナッシュも一緒だ、
「俺達もそろそろ帰るとするよ」
「そうですか、今日はありがとうございました」
「いいや、俺たちまで呼んでもらえるとは思わなかったよ」
「私も驚きましたよ、こんなに盛大になっているとは」
「ハハハ、羨ましいよ、可愛い嫁さんが三人もいて」
マイカがケンを蹴る、
「あいた! 」
「なんか不満があるの!? 」
「ないよ、あるわけ無いだろ」
ケンがマイカを抱き寄せ頰にキスする、
「ちょっと、あんた人前で」
怒ってみせるマイカの顔は少し赤く笑っている、
「お前達、仲の良いのは分かった、続きは家でしろ」
「なっ、グルナッシュ! 」
「さぁ、帰るぞ」
「クーマまたな」
「はい、また」
「マイカ今日はありがとう」
いつの間にか横に来ていたミーニャが声を掛ける、
「ミーニャさん明日手伝いに来ます」
「ああ、宜しく」
「おやすみなさい」
気が付けば宴会場にはほとんど人がいなくなっていた、
そんな中一つのテーブルに目がいく、
アルベルとセルファが座っている、いい雰囲気だ、アルベルが気付いた、杯を上げ呼んでいる、セルファも気付き呼んでいる、
「クーマ様、コーヒー、ご用意しましょうか? 」
「いえ、用意してくれているようです」
「大丈夫ですか」
「ええ」
「無理はなさりませんように」
「はい」
「それでは、私はこれで失礼いたします」
「はい、いろいろとありがとうございます」
「とんでもありません、楽しみにしています」
「えっ」
ミーニャも意味深な笑顔を残し去っていく、
「何だったんだろう? 」
「クーマ様」
二人が呼んでいる、
「仲が良いですね」
「ええ、クーマ様のおかげですよ」
「何を」
「いえ、これは私達の本音です感謝しています、こうして酒を汲みかわせる日が来たことが私は何よりも嬉しい」
「アルベルそれは私もよ、こんな美味しいお酒が飲めるなんて」
「おい酒か!? 」
「ウフフ、冗談よ、今は幸せよ」
「それは良かった」
「さぁ、クーマ様どうぞ、飲めない訳ではないとお聞きしました」
「確かに、頂いていいのですか? 」
「是非に」
「では頂きます」
差し出された杯は少し小さく陶器で出来ていた、
「この杯は少し変わっていますね」
「これは盃です」
「へぇ~」
「別に決まっているわけではないのですが、酒を飲む時はこれがいい、ちょっとしたこだわりです」
「そうでしたか、頂きます」
「花の香り? 果物? これは何のお酒ですか」
「私もよくは知らないのですが、コメから作っているらしいです」
「コメから? 」
「ええ、こちらでも何度か挑戦はしたんですが、うまくいかなく」
「そうなんですか」
「あっ、アルベルさん、よろしいですか、あまり当てにはなりませんが、カビ? 菌を使って作っていたような気がします、しょうゆや味噌と同じだと」
「それは」
「はい、知らない記憶です、なので当てにはなりませんが」
「いえ、それらしい話を以前聞いていました、また、挑戦してみます」
「はい、できたらまたご一緒したいです」
「その時はきっと」
「はい、楽しみにしています」
「では、私はこれで、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
立ち去るクーマを見送り、
「果たして、寝かせてくれるかな? 」
「そうね〜、私は寝かせないわよ、アルベル」




