第67話
食後のコーヒーを飲み終えると、
「クーマ様先に失礼します」
マルガとアクスが席を立つ、
「はい、また明日」
「はい」
「私もカフェの仕事に戻ります」
ジェルダが奥に戻っていく、
「では、私達も先に屋敷に戻ります」
近衛? メイド? 今はメイドの五人が席を立つ、
「ああ、私も一緒に戻るよ」
アルベルも席を立つ、
「では女王、クーマ様、先に失礼します」
「はい、お疲れ様でした」
ノラン後は任せた、
「ええ」
「クーマ様、この後のご予定は」
「特には」
「クーマ」
声がする、
ケイと少年が一人、手を挙げて近づいてくる、軽く手を挙げて応える、
「帰るところだったか? 」
「いや、特に決めてない」
「お二人は? 」
「私達は少し用事がありますので、先に失礼します」
「クーマ様、夕飯にはお戻りください」
「わかりました」
「クーマ悪かったな邪魔をしたみたいだ」
「いえ、これからどうするか考えてた所です」
「所でケンそちらは」
「ああ、俺の息子ケインだ」
「息子さんでしたか」
「ほれ、挨拶しろ」
「はじめまして、ケインです」
「クーマです宜しく」手を伸ばす、
ケインがケンの顔を伺う、ケンが頷く、恐る恐る俺の手を掴む、握手をして宜しくと声を掛ける、「はい、宜しく」
『人見知りかな? 』
「あっ、クーマすまん、こいつにクーマの武勇伝を話したら、憧れちまったみたいだ」
「武勇伝って、ハハハ、そうだったんですか」『緊張してたのか』
「ケンは何を」
「ああ、祭りの準備だ、ちょうど手が空いたので休憩しようと思ってたところで、防壁の上にクーマ達が見えたので、寄ってみた」
「クーマ様、何かご用意しましょうか? 」
アンが声を掛けてくる、
「そうですね」
「では、コーヒーを、ケインは? 」
「えっ」ケンを見る、
「では、何かジュースはあるかい」
「ご用意できます」
「じゃ、それを、俺は・・・俺もコーヒーを貰おうか」
「珍しいですね」
「ああ、さすがに今は飲めないな」
「ですね」
アンが飲み物を運んできた、
ケンがコーヒーを見て、
「クーマはこれが好きだな」
「ええ、何か懐かしくて」
「懐かしいか」
ケインは横でジュースを飲んでいる、ケンがコーヒーを口に運ぶ、
「んっ、いい香りだな、何か落ち着く」
「でしょ、まぁ、呑んで見てください」
「ああ」一口飲んでみる、
「苦いな、でも嫌な苦さじゃない」
「そのうちないとさみしくなります」
「ハハハ、そうかもな」
「で、何か聞きたいことがあるのでは」
「バレたか」
「何となく」
これだ、出されたのは、赤と青の素材、
「使い方は聞いた、でも不安なやつも多い」
「なるほど」
「ケン、武器はお持ちですか? 」
「そう言うと思って持ってきた」
そう言ってショートソードをテーブルに置く、
「いいですか」
「ああ」
赤い素材を剣に当ててください、
「こうか? 」
「そう、そうしたらケンの護りたいものを、念じてください」
「そうですね、信念みたいなものですかね」
「ああ」『護りたいもの? そんなもの家族に決まっている、俺は家族と今の平和を護りたい』
素材が光、剣に広がっていく、優しい力が返ってくる、
「お父さん・・・」
ケンが目を開く、素材は消え、磨き直されたかのような剣を握っている、
「クーマこれは? 」
「そういう事です、それは護る力を得るもの、と思ってください」
「でも、持っているだけでも効果があるからと」
「ええ、武器が無い者は何も護れないのですか? 」
「いや、戦えなくても護りたい者はある」
「でしょ」
「わかった」
ケンは一気にコーヒーを飲み干し、席を立った、
「ケイン行くぞ」
「え、どうしたの」
「皆にこれの意味を伝えないとな」
「ケン、護りたいその気持ちを忘れないでください、きっと応えてくれるはずです」
「ああ、クーマ感謝する」
「はい、祭りであいましょう」
「ああ」
ケンとケインが走って行く、
屋敷
一人のんびり帰ってきたクーマ、
『祭りの準備かな? 』何か皆が慌ただしい、
出会ったメイドに声を掛ける、
「ただいま」
「あっ、クーマ様お帰りなさいませ」
「忙しそうですね」
「すいませんちょっとバタバタしてしまいまして」
「祭りの準備ですか? 」
「え〜、まぁ、そんな所です」
「では、邪魔をしないようにしておきましょう」
「申し訳ありません」
「シフォン達は帰っていますか」
「えっ、あ〜、帰っておられたような・・・」
「失礼します」
『逃げた』
『そう言えば贈り物をもらう準備がいると言っていた、まぁ、その時が来れば分かるか』
部屋に戻る前に、食堂に寄ってみる、
ミーニャが忙しく動き回っている、
「ミーニャさん」
「クーマ様お帰りなさいませ」
「ただいま、忙しそうですね」
「はい、クーマ様は見てはいけないことになっています」
「なるほど」
「コーヒーですね」
「はい、いただければ」
「こちらをどうぞ、淹れたてです」
「ありがとう」
コーヒーを受取、部屋で一人楽しむ、
暫くまったりと窓外の景色に目をやる、
北に面するこの窓からは、森と遠くの山々までがよく見える、一件平和に見えるこの森で何かを企むものがいる、
「俺の平和を邪魔するなよ」小さな声で呟く、
遠くの方で音がする、
『ノックの音? 』
「はい、どうぞ」
眠っていたようだ、窓外の景色に薄っすらと赤みがさしている、
「失礼します」
ワゴンを押して入って来たのは、
「ミーニャさん? どうされたのですか」
「今日はお嬢様もノランも忙しいようで」
『そう言えば、帰ってから姿を見ていない、
「メイドたちも手伝いに行っています」
「なるほど、わかりました、それで部屋まで? 」
「はい」
「呼んで頂ければ、良かったのに」
「まぁ、そうなんですが、私一人では、なかなか手が回りませんので」
「お気遣いありがとうございます」
「いいえ」
「ミーニャさん食事は? 」
「片付け後にいただこうかと」
「では、一緒に如何ですか」
「よろしいのですか? 」
「はい、是非ご一緒に」
「わかりました、同席させていただきます」
「はい」
「実は、用意していたりします」
「ハハハ、流石ですね」
「年の功です」
「見かけどおりではないって事ですね」
「そうです」
ミーニャが窓際のテーブルに料理を並べる、
「クーマ様どうぞ」
「ありがとうございます」
「これは、ハンバーグ? 」
「よくご存知ですね」
「ええ、多分知っているのでしょうね」
「そう言えば、クーマ様には知らない記憶があると」
「ええ、何をしてたんですかね」
「何か、ご不便でも? 」
「いいえ、特には」
「では、良いじゃありませんか、私達は今のクーマ様しか知りません、興味はありますが、それだけです」
「確かにそうですね、では、頂きましょう」
「どうぞ」
早速ハンバーグを口に運ぶ、
「美味い! 」
『ゴハンとよく合う、スープは? この間のものと違う、このトロッとしたスープも美味い! 』「ミーニャさん美味いです」
「お口に合って良かったです」
食事が終わる頃、
「クーマ様」
「はい」
「シャリーンの事、ありがとうございました、まさかまた話せるとは思いませんでした」
「いいえ、あれはたまたまです、余程、気になることがあったんですね、だから強い思念が残った、それが杖の修復の際反応したのでしょう」
「あそこまではっきりと人格を形成できるとは思いませんでしたが」
「あら、それは気付いていた、ということですか」
アハハハ、笑って誤魔化す、
「フフフ、私は話せてよかったですよ、感謝しております」
「やめてください、私はそこにあるものに、少し手をお貸ししただけです」
「はい、この話はここまでで」
「クーマ様、コーヒーでよろしいですか」
「お願いします」
「はい」
ミーニャはコーヒーを淹れ、
「それでは失礼いたします、後で片付けますので、そのままにしておいてください」
「ありがとう、ご馳走様でした」
「失礼いたします」
「あっ、そうでした、今日は早めにお風呂へどうぞ」
「へっ、何故? 」
「何故でもです」
意味深な言葉を残し部屋を出て行く、
『何故? 』




