第62話
「アルベル、おはよう」
「朝から元気だな、何かいいことでもあったのか」
「フッフーン」少し顔が赤い、
「何か、肌がツヤツヤしてるな」
「えっ」一段と赤くなる、
アルベルは気付いた、
「クーマ様」
ノランが反応する、
ピクッ、となってため息を漏らす、
「お前、わかりやすいな」
「バカタレ〜」
「何をしているの、ノラン、顔が真っ赤よ」
俯くノラン、
「もしかして、クーマ様」
また、ノランが反応する、
ピクッ、となってため息を漏らす、
それを見て、シフォンも赤くなる、
三人は早朝の西門にいた、
「アルベル、準備宜しくね」
「はい、お任せください」
「皆も済まない」
「良いですよ、たまには気にせずに楽しんでください」
「ありがとう」
「では、行ってきます」
「お気をつけて」
「はい」
皆に見送られ早朝の門を出た、
南の湖までは荷馬車が通れるほどの道、クーマが初めて通った時は雑草だらけだったが、今は綺麗になっている、分岐の立て札が見える、此処から湖までは、雑草生茂る狭い道だったが、今は荷馬車が通れる位には整備してある、
暫く歩くと、水車の音が聞こえてくる、
「見えました」
指差す先には取水小屋が見える、
「何年ぶりかしら」シフォンが湖を見渡す、
「そうですね、忘れてしまう位には昔ですね」
「そうね、また、この景色が見れるなんて」
「本当に」
「シフォン、ノランいいですか」
クーマが湖のほとりに立つ、
「ハクジャ! 」
湖面に波紋が広がり、中心から女の姿が浮き上がってくる、見たことの無い衣装の女はまるでそこに地面があるように湖面にひれ伏す、
「ご主人様、参上致しました」
「ご苦労」
「とんでもございません」
「顔を上げろ」
「はっ」
「今日は顔合わせに来た」
「顔合わせで御座いますか」
「そうだ、紹介しておこう」
「夢魔族の王、シ・フォニア、それと側近のノランだ、二人は俺の護るべき人だ」
「シ・フォニアです、クーマ様からはシフォンと呼ばれております、お見知り置きを」
「ノランです、普段は屋敷のメイド長として、お二人のお世話をさせて頂いております」
「シフォン、ノラン」
「ハクジャだ」
「御主人様の従者、ハクジャと申します、宜しくお願い致します」
「私達こそ、宜しくお願いします」
「ハクジャ、現状この南エリアはどうなっている」
「はい、全て我が掌握しております」
「ただ低位のものには理解できませんのでご注意を」
「わかった、注意しておく」
「至りませんで、申し訳御座いません」
「構わんよ、街の者では問題ないだろう」
「はい、問題はないかと、我も注意はしておきます」
「クーマ様、宜しいでしょうか」
シフォンが真剣な顔で俺を見る、
「どうしました」
「はい、マルガより"散歩"の事を聞いております、動けなくなったと」
「それは、今のハクジャ様が、力を抑えておられるという事ですね」
「はい、そうですね」
「ハクジャ様」
「如何なされました」
「貴方の本来の力を見せて頂きたいのですが」
ハクジャが一瞬目を細める、シフォンは真っ直ぐに見つめる、
ハクジャはその真剣な眼差しを見る、
「ご主人様、シ・フォニア様の思い応えたく思います」
「わかった」
ハクジャ様、面倒をおかけします
「我に敬称は不要です」
「有難うございます、では、私もシフォンで、お願いします」
「わかりました、今後はそのように」
「では、失礼致します」
ハクジャが変化の術を解く、
ハクジャを中心に風が巻き起こる、強大な力が圧力を伴い襲いかかる、
全ての抵抗を認めない圧倒的な力、呑み込まれるような錯覚にシフォンとノランは崩れ落ちそうになる、
両足に力を入れ耐える、
シフォンが少し笑っている、
『マルガが動けなくなった、納得した、これほどの力、多少強いぐらいでは何の役にも立たない、
でも私達が崩れることは無い! 』
シフォンが一歩前に出る、
眼の前には一抱え程の白い大木?
見上げるそこには、赤い目と赤い舌、
この南エリアの最強魔獣、最も危険と言われた魔獣がいる、
シフォンはハクジャの目を見つめる、そこに恐れはない、暫く睨み合う両者、先に引いたのはハクジャ、
「失礼致しました」
そう言うと、少し下がり頭を下げ、人型に戻る、
シフォンも体の力を抜く、少しふらついたのをノランが支える
「我は、御主人様の命により、人前に出る際は変化しております、ご容赦を」
「わかりました、無理を言いました、ありがとう御座います」
「いえ、失礼致しました」
『さすがご主人様が選ばれた者達、我の力に耐えるか、良いだろう我も認めよう』
「宜しければ一度街においでください」
「滅相も御座いません、我はこの地の守護を、お任せ頂いております、疎かには出来ません」
「ハクジャ、たまには会いに来い、いいな」
「御主人様の命とあらば」
「シフォン様、お誘い有難うございます、是非、伺わせて頂きます」
「はい、お待ちしております」
「さてと、それでは食事にしましょうか」
「では、御主人様、我はこれにて失礼致します」
「何を言ってる、お前も一緒だ」
「とんでも御座いません、ご主人様と同席など、ましてや逢瀬のお邪魔をするほど無粋ではございません」
「逢瀬ではないぞ」
「失礼致しました、しかし」
「お前は固いな、その考えは大変嬉しく思うが、もう少し砕けても構わん、気にしすぎだ」
「はぁ、しかし、分というものが御座います」
「俺は気にしない、それでは駄目か」
「ハクジャさん」
「我等の主人は堅苦しいのはお嫌いです」
「今、我等と」
「ええ、我等の主人です」
「求められるその時に、期待を裏切らない様に、それが全てです、良いですね」
「はっ、必ずやご期待に応えます」
「では、食事にしましょう」
「有難うございます、ご同席させて頂きます」
四人は小屋に入る、
「クーマ様、暫くお待ちを」
シフォンとノランはそう言うと、窓を開けテーブルを片付ける、
ハクジャが、
「シフォン様、私めが致します、お二人はお休みを」
「構いません、それと、私のことはシフォンでお願いします」
「畏まりました、気が付かず申し訳ございません」
「いいんですよ、クーマ様の為にする事は他人に譲れません」
「それは私めも同じで御座います」
「では、今日は私の番です、良いですね」
「畏まりました」
「ハクジャ、お前もいずれ慣れるさ」
「慣れ、で御座いますか、我は魔獣、至らぬことも御座います、何卒ご容赦を」
「わかっている、その時は、ちゃんと言ってやる、心配するな、自分を信じろ」
「ありがたき御言葉、暫し甘えさせて頂きます」
「さぁ、準備できましたよ、頂きましょう」
「ありがとう」
四人は席に着き、食事を始める、
テーブルには色々な食べ物が並んでいる、
『肉系が多い・・・』
シフォンがにっこり睨んでくる、
「肉、お嫌いですか? 」
「いえ、大好きです」
「良かった」
にっこり笑う、今度は睨まない、
「ハクジャもどうぞ」
「頂きます・・・」
俺とシフォン、ノランが食べ始める、
机に並んだカラトリーと俺たちを見て、何故かハクジャが固まっている、
「ハクジャどうした? 」
「何かお嫌いな物がありましたか? 」
「いえ、我の食事は基本丸呑みなので・・・」
「そうか、すまん忘れていた」
俺はサンドを手にとってかぶりつく、シフォンとノランも同じ様にかぶりつく、
「ハクジャ、やってみろ」
「はい」
ハクジャが恐る恐るサンドをかじる、一瞬目を見開き、パクパクと食べ始める、
「気に入った様だな」
俺達は顔を見合わせる、
ハクジャが俺達を見て、サンドを加えたまま固まっている、そっと口を離し、
「申し訳ありません、つい」
「構わんよ、美味そうに食っているので嬉しくてな」
「嬉しいですか? 」
「ええ、お口にあって良かった」
「はい、大変美味しゅうございます」
「どんどん食べて頂戴」
「有難うございます」
ハクジャにとっては、初めて食べる物ばかり、夢中で食べている、
「ハクジャ、落ち着いて食えよ」
「は、い」少し罰が悪そうにこちらを見る、
「人の食事は初めてです、この姿で食するのも、これ程魅了されるとは、これは全て、シフォン様がお作りに? 」
「ええ、少しだけ・・・殆どは屋敷のメイドが作ってくれました」
シフォンの顔が少し赤い、
「失礼致しました」
「いえ、構いません、現在修行中ですから、今度は私の手料理をご馳走します」
「有難うございます、是非に」
「はい、いつでもお越しください」
一通り食事を終えたあと、ノランがコーヒーを淹れてくれた、
「ご主人様、この飲み物は? 」
「コーヒーと言う」
「コーヒーですか? 」
「口に合わなかったか」
「いえ、この香り、何故か落ち着きます、この苦味も癖になります」
「よかったわ、口に合って、ハクジャは甘いものはどうなの」
「甘いものですか? 食したことが無いので何とも、申せませんが」
「今日いただいたものは、どれも大変美味しく、この姿になれたことに感謝しております」
「ご主人様、改めて感謝致します」
「気にするな、今のその力はお前自身の力だ、俺は少し手を貸したに過ぎん」
「いえ、あの時、御主人様の情がなければ、今ここでこのような食事を楽しむこともできませんでした、運命とは不思議なものです」
「そうだな」




