第60話
ノックの音がする、
「マルガ様アクスです」
『アクス? 追いかけてきたのか? 』
「少し待て」
私は、剣を取り、扉を開ける、
「マルガ様それは・・・美しい」
「だろ」
「先程の強力な力は? 」
「ああ、この鎧に力を通した」
「力、ですか? 」
「そうだ、クーマ様の装備は仕上げにしっかり自分の力を馴染ませる必要がある、もう、知っていたな」
「はい、経験したばかりですから、しかし、その力は・・・」
「見せていただいても、宜しいですか? 」
「良いだろう」
「失礼します」
『アクスの鑑定、私も興味がある、意味がないかもしれないが』
「なっ」一言発して動かなくなった、その目には驚愕、口許には笑みを浮かべている、
「アクス、どうした? 」
その顔には、いたずらっ子のような笑みがある、
はっ、我に返ったアクスは興奮気味に、話し始める、
「これは、何なんですか、鎧? とんでもない力を感じます、どんな感じですか? これほどの力を維持するだけで、かなりの魔力を消費するはず」
「いーや、今は殆ど使っていない、この鎧その物の力だ、むしろこちらが力を貰っているような気がする」
「それに」
そう言って鎧の解除をイメージする、補強部分が光、形が変化する、先程の洋服に姿を変える、暖かい力が体を包み込む、
なっ、アクスがまた固まった、
「これは、変化する鎧」
「ああ、そうだ」
「この状態でもかなりの防御力ですね」
「ああ・・・」
「マルガ様」
「ああ・・・」
マルガは自分を抱きしめてソワソワしている、
「どうされました? 」
「ああ、クーマ様がいる、ずっと抱きしめていただいてるようだ」
顔は紅潮し目が虚ろに宙を彷徨う、
「マルガ様、大丈夫ですか? 」
「はぁ〜」大きなため息とともに突然部屋を出ていく、
「マルガ様! 」
マルガが部屋を出た後
「アルベルさん、マルガさんの元気がなかったような気がしますが、何かありましたか」
「いえ、それが」
「朝から一緒にいたんですが、私の装備が変わっていることに気づきまして」
「朝からずっと、もう、その話ばかりで、そこにアクスが戻ってきたのですが、アクスの鎧も変わっていることに気づきまして、少し拗ねてしまいました、ハハハ」
「そうだったんですか、もっと早く渡しておけばよかったですね、皆さんの装備を触る前には出来ていたんですが、悪いことをしました」
「いえ、さっきの喜びようなら、気にせずとも良いでしょう」
「それなら良いのですが」
「クーマ様、マルガなら大丈夫ですよ」
「それよりクーマ様、衛兵たちにまで素材をご用意していただき有難うございます」
「いえ、お役に立てればよいのですが」
「アクスから聞きましたが、とんでもない性能だと」
「アルベル、何の話ですか」
「あっ、申し訳ありません、後ほど報告させて頂くつもりだったのですが」
「クーマ様から、衛兵たちの装備用にと素材を頂きました」
そう言って棚の中からアクスに渡した籠を出してきた、
「クーマ様、これは? 」
「強化用の素材です、赤は武器、青は防具用です」
「こんなに? 」
「皆さんに行き渡る程度にはあると思いますが」
「アルベル、如何ですか? 」
「はい、十分です、ただ、性能が」
「性能? 」
「はい、別物になります」
「やっぱり」
突然ドアが開く、
そこには呼吸を荒げた、マルガがいた、
部屋を見渡し、クーマを見つける、
飛び込んで来てクーマに抱き着く、
「クーマ様有難うございます! 」
「へっ」ポカン顔のクーマ、
ビックリ顔の三人、そこへアクスも飛び込んで来る、
「マルガ様、落ち着いて下さい」
アクスがクーマから引き離そうとするが離れない、我に返った三人も手を貸すが中々離れない、
シフォンが一歩下がる、
「マルガ! 下がりなさい! 」
ハッ、となったマルガが慌てて離れて跪く、
「マルガ落ち着きなさい、何があったのですか」
返事が無い、俯いたマルガが肩で息をしている、息が荒い、
ノランが駆け寄り、顔を覗き込む、
顔が紅潮し目が虚ろになっている、
「マルガ! しっかりしなさい! 」
シフォンが声を掛けるが反応がない、
「お嬢様少しお待ちを、アルベル、アクス席を外して」
「えっ」
「早く! 」
「二人共外へ」
シフォンが声を掛ける
「「はい」」
二人が部屋から出て行ったのを確認して、
「クーマ様、こちらへ」
ノランに言われマルガの前にしゃがむ、
ノランがマルガの耳元で囁く、
「クーマ様が見てるわよ」
マルガが顔を上げる、目の前のクーマを見てプルプルと震えだす、
「マルガさん、大丈夫ですか? 」
思わず肩に手を置く、
「クーマ様今はダメです! 」
遅かった、
「ひっ、んっ、あぁぁぁ~〜」
尾を引く絶叫と共にその場に倒れ込む、
「あらあら、派手にいきましたね」
横にいたシフォンが真っ赤な顔で口元を押さえてる、
「ノラン、やっぱりマルガも」
「そのようですね」
「クーマ様、マルガをソファへお願いできますか」
「はい、わかりました」
マルガを抱き上げソファへ、
マルガが目を開く、いきなり抱き着き口づける、
夢中で口づけるマルガ、
シフォンとノランが気付き慌てて引き離そうとする、
「もう復活するなんて早すぎです」
「マルガ離れなさい! 」
シフォンが叫ぶ、
マルガがシフォンを見る、
「女王様? 」
「ノラン? 」
「クーマ様? 」
少しづつ状況が理解できたようだ、
「キャ〜〜」
マルガが悲鳴をあげて部屋の隅で丸くなる、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ヒィ〜、見ないでください〜」
いつもの凛々しい姿は何処にもなく、頭を抱える可愛い少女がそこに居る、
強いノックの音がする、
「女王、大丈夫ですか! 」
「待ちなさい、大丈夫です、二人は先に行ってください」
「しかし」
「構いません、気にせずに行きなさい」
「わかりました、失礼します」
「クーマ様、取り敢えず、座ってお待ち下さい」
「わかりました」
二人がマルガに寄り添う、
「ごめんなさい〜、頭を抱えている」
「マルガ、良いんですよ謝らなくても」
「でも、私は・・・」
「さぁ、顔を上げて」
「私達も同じですから」
「へっ、女王、ノラン」
二人が頷く、
「どうしたのか話して下さい」
「でも」チラッとクーマを見る、
「シフォン、席を外したほうがいいですか? 」
「いいえ、いて下さい」
「クーマ様、覚悟してくださいね」
二人がニッコリ笑う、
「えっ」
「さぁ、マルガ話して」
「でも」
「ちゃんとクーマ様に伝えなさい、そうしないと、大変なことになりますよ」
「えっ」もう一度クーマを見る、
マルガが意を決して、話し始める、
「鎧を合わせていたら急に頭の中が真っ白になって」
「クーマ様が私を抱き締めているような感覚に、
そうしたらクーマ様のことしか考えれなくなって、気づいたらここに」
顔がこれでもかと言うほど、耳まで真っ赤になっている、
「やっぱり」
二人がため息をつく、
「マルガ正直に言いなさい」
「あなたはクーマ様の事をどう思っていますか? 」
「へっ、それは・・・言えません」
「はぁ〜、あなたと同じね」
ノランを見る、
ノランの顔も赤くなる、
「さぁ、マルガ立ってください」
「はっ、はい」
「さぁ、こちらへ」
「えっ、ちょっと待って」
抵抗するマルガを二人が引きずってきてクーマの前に座る、
「さぁ、クーマ様にあなたの気持ちを打ち明けなさい」
「えっ、でも」
「もうバレてるから同じですよ」
真っ赤になって下を向く、
「今言わないと後悔しますよ」
マルガが顔を上げる、真っ直ぐにクーマを見る、
「クーマ様、す、好きです、何処におられても、この魂は、あなたと共に有ります」
シフォンとノランがクーマを見る、優しいけど少し困った目をしている、
「はい、宜しくお願いします」
マルガが跪く、(デジャヴ? )
「ちょっと待って、それは無しで今まで通りに」
「はい! 」




